(配布元 :HPでセリフなお題)
*会話1*
芳黒の知らせを受けて。
病室に駆けつけた私が、どんな気持ちでからっぽのベッドを見たのか。
───君に、解るかい?
「なんだって逃げ出したりしたんだ。」
枕元の丸椅子の上で膝を立てて座る。
そうしてベッドに横たわる人物をキロリと睨みつける。
泣く子も黙るアルセーヌ・ルパンの一睨みを無表情で受け止められるのは、おそらく彼ぐらいのものだろう。
「・・・・・・」
しかも無言。
いまここに部下たちがいたら、さぞかし肝を冷やしていたことだろう。
「モーリス」
名を呼ぶ声音にも苛々が募る。
沈黙にすら怒鳴り散らしてやりたいくらいだ。
間に合ったから良かったものを。
助かったからこうして怒りをぶつけられるものを。
───間に合わなかったら、助からなかったら、いったいどうするつもりだったんだい?
胸に埋め込まれた忌まわしき爆弾をそのままに
君はふらりと消えてしまった
もしもあのまま見つけられなかったら
「・・・・──、・・・・。」
「? ・・・なんだ?」
モーリスの口が動いた。が、声が小さすぎてよく聞き取れなかった。
「なんだ?」
聞き取ろうと、モーリスの唇に耳を寄せる。
「───」
もう口は動かず。
聞こえてきたのは、彼の規則的な寝息だった。
体内に埋め込まれた爆弾を切除したばかりだったからそれは仕方の無いこと。
だけど。
「馬鹿者がッ・・・・私がどんな思いでいたと・・・・・ッ」
怒りとも悲しみともつかない呻き声の後、ちいさくすすり泣く声が病室を満たした。
*会話2*
もういい加減見切りをつけなくてはいけないのだろう
だけど
もうすこしだけ、この手を。
失敗か。
そうそう楽には捕まえさせてはくれないだろうと思ってはいたけれど。
眺めた新聞を丸めて捨てる。
必要な情報だけを搾り取ったそれはすでに粕でしかない。
「ホームズ・・・・」
顔をあげて振り返ればワトソンが不安げに佇んでいる。
もう いい加減 見切りをつけなくては
「・・・失敗したよ。」
肩をすくめて苦笑い。
そんなことをしても彼の気を余計に揉ませるだけなのに。
心配そうに顔を歪めた彼から視線を外す。
もういい加減見切りをつけなくてはならない
モリアーティのこと、もうすでにこちらを追って来ているだろう。
だとしたら一番賢明な選択は
そっと重ねられる、手。
ハッと見遣ればワトソンがそばに来ていて、何も言わずに手を重ねていた。
「・・・ワトソン」
「・・・・・・・」
もう
もういい加減見切りをつけなくては
もう独りで行かなくては
もう時間も無い
もう
けど
この手を離さなくてはダメかな……もう少し君に、触れていたいのだけど。
君と別つ三年間の始まりの日。
あの日、確かに僕らは互いとの別れを惜しんでいた。
*会話3*
いつもはこれでもかというほどベタベタしてきて
精神的にも肉体的にも多大なダメージを与えてくる虐めっ子(断定)が
今日は、どこかおかしかった。
校内、廊下、昼休み。
「・・・・バーネット?」
「ん〜〜〜?」
振り返って、恐る恐る声をかける。
自分の後ろを行くバーネットは視線も歩調もどこかフラフラ、
ついでに頭の方もフラフラしているのか返してきた返事も生返事だった。
「今日、なんか変だよ?」
「ん〜〜〜?そぉ〜〜〜〜?」
訝しむこちらの視線にも気づいていない。
「変。絶対変。」
熱でもあるんじゃないかと冗談半分にバーネットの額に手を当ててみた。
「・・・ちょっと熱、あるんじゃないか?」
高熱!というわけではないが、微熱というほどの高さはあると思う。
実際いつもは冷たいバーネットの手がほんのり熱い。
するとバーネットはへらりと笑って、
「僕、平熱が低いからさ……
三十七度でも、もうヤバいんだよね……もう天と地が逆になってるーってカンジ……ああん、助けてぇーん♪」
そう言うとこちらに向かって寄りかかってきた。
「って、わ、ちょ!」
いきなり圧し掛かってきた重さに思わずよろめく。
「ちょッ、ジムッ〜〜〜〜おーもーいー」
「あ〜〜〜ダル〜〜〜〜」
「って、うわあ!!何処触ってんだジム!!」
だらんと圧し掛かっていた手がいつのまにか服の中を這っている。
「ん〜〜〜今日はベシューの方が冷たくて気持ちいい・・・・」
「人を冷えピタ代わりにするなッッ///はーなーせーぇ!」
時を同じくして向かいの棟の屋上。
「あ、」
「どうした、ジルベール。」
「パトロンがベシューさんにセクハラしてる。」
片手に双眼鏡を、片手にメロンパンを持つ黒髪長髪の青年。
「どれ。貸してみろ。」
ジルベールから双眼鏡を受け取るオレンジ色の髪の青年。
「あー・・・パトロン、頭ラリってんなー・・・・」
パリ、と音を立ててジルベールがメロンパンの袋を開ける。
「微熱か」
「微熱だな」
とりあえず公衆の面前でベシューさんが剥かれ切るまえに止めに行くか
そういうことで二人の意見は一致した。
が、
その前にまずは昼メシを。
ベシュー救出はもう少し後になりそうである。
*会話4*
「ハンバーガーではなく、チーズバーガー『チーズ抜き』が欲しいんです!」
また始まった
とうとう赤の他人にまで無理を言い始めた美人で可愛いフシギ少女に、おれは溜め息を吐いた。
チーズバーガーのチーズ無しを食べてみたい
そういい始めた瞬間からもう止めるのは無理だった。
せめて一般のパンコーナーに売ってるチーズバーガーでやってくれればまだ良かったのに。
このフシギ少女ときたら、ばっちりファーストフード店でそれをやってくれたのだ。
コイツの注文に出くわした店員は災難だ
事実、いま目の前の店員は必死の説明をハルヒに向かってしている。
己の道をただ突き進むのみのハルヒにはどんなにありがたい説法も説教も無駄なのが。
「ハンバーガーではなく、チーズバーガー『チーズ抜き』が欲しいんです。」
まだ言ってるし。
ああ可哀想に、店員が怒るのを通り越して半泣きだ。
そんな救いを求めるような目で見られても困る。
こっちも困っているのだから。
「ハルヒ、この店のメニューにはチーズバーガー≪チーズ抜き≫が無いぜ。扱ってくれてねぇんだよ。」
もう今日で何回言ったか解からない助け舟を出す。
いや、助けてもらいたいのはこっちなのだが。
「なんだーちぇーここならあると思ったのにーーー」
無い。そんなものはここだろうがどこだろうが何処にも無い。
「じゃ、次のお店行ってみよう♪」
無駄だと思えるファーストフード店巡りも、
自然と腕を組んできて楽しそうに歩き出すハルヒを見てると、もう止めないかとは言えないおれでした。
*会話5*
今夜は一緒に夜会に行かないか?
びっくりしてしまった。
そんな華やかなところに行ったことなど終ぞ無かったし、
そんなところに私のように盲目者が行ってもいいのかと。
「一緒に行けば大丈夫だよ。」
「でも私、そんなところに行けるドレスもありませんわ。」
「大丈夫、ドレスはこちらで準備してあるから。」
気に入ってくれるといいのだけれど
そう言ってくるあの人の声はどこか照れくさそうで。
「アルセーヌさまが選んでくださったんでしょう?気に入らないはずがありませんわ」
あの人の顔があるであろう方に顔を上げると、あの人の微笑む顔が震える空気からそっと伝心してきた。
その後、芳黒さんに手伝ってもらってあの人が用意してくれたドレスを着せてもらった。
普段着慣れた服ならばひとりでも着られるが、初めて着る場合はやはり人の手が必要だ。
芳黒さんに、どんな色で、どんな装飾があるのかなどなどを幼い少女のように重ね重ね尋ねた。
色は濃い青とシルクの白で
飾りはレースとギャザー(ひだ)が組み合わさり、要所要所をリボンで留めていて。
とてもよくお似合いですと言われて、心もち頬を赤く染めてしまう。
自分でも触れて感触を確かめる。
胸や肩や背中が開いているのは解かる。
薄い布、ボコボコしている・・・これはきっとレースの模様。
裾に触れると、布が段々になっている。
これがギャザーね───
ひとつひとつ確かめる感触が新鮮で、そのどれもが悦びに繋がるものだった。
「・・・驚いたな」
あの人の声。
「どこかおかしいですか?」
呆けたような声音に、少し怯んでしまう。
「いいや。」
でもそれも逞しい声に一掃されて。
「よく似合うよ・・・でもそんなに華やかなものを着ているのに、清廉さが失われないのが凄いと思っただけさ。」
歩み寄る靴音が聞こえてきて、すぐ近くに感じる気配。
スッと上品に手を取られる。
「この美しく白い手ならば、何も飾らなくても充分に美しいだろうけど。」
一瞬の間。躊躇いの後。
あの人の観念したような溜め息を不思議に思って、すこし小首を傾げる。
「今ならまだ、左手・薬指の予約は間に合うだろうか?」
クラリモンド、と緊張した声音に真実を知る。
思わず俯いてしまった顔はどうにもできないほど熱く、
小さな声ではい、と言うのがやっとだった。