私は子どもだった。
いつものように
ただ部屋で黙々と書物を読みあさっていると
窓から一匹の蝶が入ってきた。
美しい
普段は如何なる事物に対しても抱かない感情を、そのときの私は何故か抱いていた。
ひらひらと
はらはらと
私のまわりをふうわりと舞う蝶。
急に私は美しいその蝶を手元にとどめておきたいと思った。
おいで、とでも言うように私は両の手のひらを蝶にむかって差しのべた。
すると蝶はわずかな風をともなって私の両の手におさまった。
そのまま、ゆらんゆらん、とその大きな羽根をゆっくりと上下させている。
保存/標本
標本箱におさめられた無数の蝶。
そんなありきたりな昆虫標本が脳裏をかすめて
私はこの蝶を標本にしようと思った。
そう思った瞬間、蝶がはたと舞い上がった。
逃げられる
いつのまにか私は手に針を持っており、まださほど高度の無い蝶の背に狙いをさだめて針を、刺した。
・・・・・真っ赤になった私の手には針ではなくナイフが握られていた。
「え・・・・?」
顔をあげて辺りを見まわす。そこはもう私の部屋ではなく、ただ闇が靄のように漂っていた。
いつのまに摩り替わったのか、それとも最初からナイフを握っていたのか。
慌ててナイフを引き抜こうとして
視線を戻せば、ナイフが刺さったモノが闇色の靄のむこうから見えてくる。
「・・・・・・!!」
それはもう蝶などではなかった。見覚えのある、その後姿。その背中に。
「ワトソン・・・・?!」
ナイフは、深々と突き刺さっていた。
「ワトソン・・・!!」
どうしてこんなことになってしまったのか分からず、私はただただうろたえていた。
彼は、いつもと違った。
生きているようにはとうてい感じられなかった。
蝋人形?ゴム人形?マネキン?
とにかく触れた感じがまったく違った。人間の皮膚感と異なるのならなんでも当てはまる。そんなような。
たいへんだ
たいへんだ たいへんだ たいへんだ
首をめぐらせると隣に大きな瓶があった。
私はワトソンを抱き上げると彼の体をそのなかに収めた。
そして何処から持ってきたのか、保存用の液体をドボドボとその中に流し込んだ。
私は何故かとても焦っていて
急がなくては急がなくては
早くしないと早くしないと早くしないと
早くしないと、****になってしまう。
そうするうちにワトソンの入った瓶は溶液で満たされて。
「ふう、よかった。これでもう大丈夫」
ひゅうっと息をつき、まるで大切な一仕事を終わらせたかのように
私はぐい、と額の汗をぬぐった。
コレデ モウ ダイジョウブ
* * *
「───・・・・!!!!」
がばりと跳ね起きる。
全身汗だくの私がいるのは、221bの私の寝室のベッドの上だった。
ドクドクと、心臓が呼吸のスピードを無視して動いている。
視線の先のシーツが、自分の体の位置と不釣合いなところで波打っている。
澄まされた外への闇に近い方から聞こえてくる穏やかな寝息。
軋む首を玩具の人形の首のように動かすと、愛しい人の柔和な寝顔が見えた。
よかった、夢だ・・・・・・・
するりと両腕をワトソンの首に回すと、ワトソンもするりと滑るように私の腕の中におさまった。
これが本物だ。大丈夫だ。ま・だ・こ・っ・ち・が現実だ。
心が落ち着いてくる。穏やかになった心のまま、ワトソンの背に腕をまわして抱き寄せる。
ズルっ
背中に回した手のひらが何かに滑る。
・・・・?
枕もとのランプを灯し、手をかざす。
その手には先の夢とおなじ。
真っ赤に真っ赤に濡れて────
END
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なんかミステリーもの(?)みたくなってしまった;・・・・まとまりないし。
リパーかと見せかけて実は先生です。
いや、見せかけても無いか。一人称でバレバレだもんねーーーー。ワトかホムか、その辺が進んでかないとわかり難かったかもしれませんが^^;
あ、****のところは別に禁止用語とか、そんなんじゃないです。ただ、管理人はよく夢でこういう科白を言うので^^
目を醒ますと、どーしても****の部分をなんて言ったのか忘れちゃうんですよ。夢の中では、けっこう大事なことだったような気がするんですけどね。
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