花は散ったよなあ・・・・
嗚呼、どうしてお前は桜の花だったんだ。
せめて散らない花であれば
そのままの形で残しておくことも出来ただろうに
そう、せめて椿の花であったなら。
『それでも花は。』
ジャポンでは
桜をただ『花』と言うことが多いらしい。
それで通じるほどに、愛されている花だと教えられた。
いつもなあなあで聞いてたのによく覚えてるもんだよな
その花の見ごろは『散り際』
花は散り際、という言葉があるほどに
桜は散り際が美しいのだという───
切ないほどに・・・・
「はあ?散り際ぁ?」
なんで散り際なんだよ。フツー花っつったら盛り咲いてる頃が見頃だろ?
「それとも盛り咲いてんのがわかんねーくらいチンケ、う!!」
ゴッ。
白く透けるような腕で俺の後頭部に肘打ちをくれたのはそんな桜色のキモノがよく似合う少女──ハルヒだ。
「ま、待て・・・冗談だ・・・・・・」
もう一発お見舞いしてやろうか的雰囲気のハルヒを必死で手を振って制す。
まったく、黙ってりゃあ可憐で楚々とした美少女なのに。
いったい何処にこの凶暴さを蓄えてんだか・・・・・
後頭部を擦りながら恨めしげに隣のハルヒを眺める。
「もうッ、ほんっとーに綺麗なのよッッ」
盛りはまるで淡い雲が立ち込めたよう、風に吹かれて舞い散る様はほんとうに絶景だと。
そのあと滔々と説き聞かされたものだ。
花は散り際。
なぜ 散り際だったのだろう
出会ったときが すでに
その一番美しいときだったなんて。
あんまりじゃないか
せめて盛り咲いている頃に出会いたかった
そしてそのまま
ずっと盛りに咲いていて欲しかった
嗚呼せめて散らない花であったなら。
椿。
あれはいつだったか。
何処から持ってきたのか見慣れぬ赤い花が一枝、花瓶に生けてあった。
「?なんだこれ」
ヒョイと枝を手に取ると、何と花がポロリと落ちてしまった。
「あちゃー、怒られるか?」
「あらら、やっぱり散っちゃったのね」
「うをッッ?!!ハルヒッッ?!」
いつのまにかハルヒが背後から覗き込んでいた。
全く以って油断も隙もあったもんじゃない。
ドキドキと脈打つ胸を押さえて、ハルヒを振り返る。
「大丈夫よ。それ、ただ花が終わっただけだから」
「終わったって・・・・全然枯れてもねーし、花びらもくっついてんぞ?この花」
見た目には全然終わった風には見えないのに。
「それはツバキって言ってねー。花が終わると散らずに花がまるごと枝から落ちるのよ」
「すんげぇ花だな」
手の中で未だ美しいツバキの花を転がす。
深い紅が美しかった。
「綺麗なままで散るから、神の花とか言われたり。
あ、でもボトッて落ちるのがあんま縁起良くないとかっても言うかな?」
まあ、そんな感じの花よ。
小皿に水でも張って浮かべておこうか、とハルヒが皿を出した。
花は散り際に。
一番美しいときに現れた。
嗚呼、どうしてお前は桜の花だったんだ。
せめて散らない花であれば
そう、せめて椿の花であったなら。
あの美しさも
あの笑顔も
あの温もりも。
なにもかもをそのままに、ありのままに留めておけたはずなのに。
白いスモークが纏わりつく中。
俺は項垂れながら、ザラつく氷柱に手をあてていた。
END
* * *
またけっこうクロッチに触発されたケのある話です^^
でも美空ひ●りの「リ●ゴ追分」聞きながら思いついた話だったりして(ぅオイ;)
気づいた時にはもう遅いのさ。
たとえそれが、あのとき最善の方法だと豪語していたとしても。
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