“好き”と“愛してる”の違いってなんですか?

 

潤黒(ぬばたま)の無垢な瞳でまっすぐに見上げてきて、そんなことを聞いてくる少女。

それが一体どれほどの問いなのかということも知らずに。

純粋な疑問は、年を重ねてすっかり曇ってしまった脳を攻める。

 

 

 

『歳の差が大きいということは。』

 

 

 

気まぐれな私の友人。

連れて行けないというのに付いてきてしまったから、少しの間だけ、と。

一方的に言い置いてさっさと何処かへ行ってしまった。

残されたものを見るには随分と目線を下げてやらなくてはならなかった。

「芳黒≪ファンフェイ≫。」

「はい♪」

西洋には見られない、東洋の衣装に身を包んだちいさな体でクルリと一回転するとぴょこんとお辞儀をする。

ちりん、と髪飾りに付いた黒い鈴がちいさく鳴った。

「・・・こちらのお茶と菓子は口に合うかな。」

一瞬きょとんとした顔が一気にほころんで、明るく「はい!」と応えた。

 

まるで薄紅の花が咲いたようだな

 

すべてにおいて抑揚のない自分でもこんなことを思うのだなと、ある種の感慨にふける反面。

この少女は髪にしろ衣服にしろ、黒で統一された格好をしているのに何故、『薄紅色』などという色が浮かんだのだろうかと思いつつ、少女を居間へと通した。

 

 

「はあっ・・・v スゴイですっ♪いただきますっ♪」

ミルクのマフィンと紅茶を出すとそれだけで少女は目を輝かせる。

ある程度、年数の経ってしまった人間はこんなことでこんなにも喜んだりはしないだろう。

『若さ』を見せ付けられると同時に、自分が如何につまらない人間になってしまったかを思い知らされる瞬間だ。

 

「ほんとうは、里子に出してきちんと育ててもらうつもりだったのだけれどね。」

以前、ここに初めて芳黒を連れてきた時、友人はそう言って苦笑した。

イヤだイヤだの一点張りで、けっきょくこの有様さ。

馳せるように見遣ったその先には、庭で薔薇の花を懸命に見上げる少女の姿があった。

「僕のような人間の側に、置いておくもんじゃないね。」

庭の方を向いてしまったその顔を、窺うことは出来なかった。

 

あのとき、友人はいまの自分のような気持ちになっていたのだろうか。

もっとも、彼の場合は『どれだけつまらない』ではなく、『どれだけ汚れてしまったか』だろうが。

目の前の少女はこちらの気も知らずにアグアグと、口いっぱいにマフィン頬張っている。

「あのですね、ルブランさん。」

何かな。

口には出さずに目で相打つ。

 

「“好き”と“愛してる”の違いってなんでしょう?」

 

アグアグアグ・・・・

少女はまだマフィンを頬張っている。

見上げ、見つめてくる瞳には何の思惑も無い。

純粋な疑問。素直な問い。

「パトロンはよくみんなに、『愛してる』って言ってくれます♪」

たしかに。

あの男は己の部下を捨て駒にするような真似はしない。

時折その口からこぼれる『愛すべき部下』の言葉に偽りはないのだろう。

「で、芳黒も好きですvって言ったら、ジルベールが『好きと愛してるじゃエライ違いだぞ』って。」

ジルベールが、か。なるほどそれで。

ジルベールとは『彼』の・・・ルパンの腹心の部下の一人だ。

もとは良家の子どもで、教養もあり賢く、見た目にも品のある好青年だが、どこでどう間違ったかルパンの下で働いている。

彼もまだ若い。眩しいほどに。

「それで、なにが違うのかなあって思って。」

アグアグと詰め込んだマフィンを紅茶で流すと、ホッと息を吐いて。

 

笑った。

 

花咲くように。

薄紅色の無垢な花が。

 

「・・・・言葉で説明は出来ないが」

お茶請けのマフィンをひとつ、手に取る。

「芳黒はこのマフィンが好きかい?」

「はい♪」

「芳黒はルパンのことが好きかい?」

「はい♪パトロン大好きです♪」

「マフィンを『好き』と思うときとルパンを『好き』と思うときの気持ちは一緒かな。」

うーん、と首をひねって。それからぷるぷると首を横に振る。

「違いますぅー同じじゃないですーーーパトロンはマフィンじゃないですーーー。」

まさか彼とマフィンをイコールか否かの方向に持って来るとは思わなかったが。

「それが『好き』と『愛してる』の違いだよ。」

「あああーーー、なんかすっごくよくわかりましたーーー♪」

 

 

無表情というのもなかなか役に立つじゃないか

 

 

精一杯の皮肉を、私は自分に叩きつけた。

 

ありがとうございます♪

そして少女はまたマフィンを頬張り始める。

ほんとうに、美味しそうに。

 

 

ああ、少女はいつ気づくのだろうか。

いわゆる『大人』と称される私が吐いた嘘に。

 

男と女ということ以外に

歳の差のある者たちには『若さ』という決して埋められない溝が在る。

 

ああどうか

どうか、この無垢な少女が私の吐いた嘘に気づく日が来ませんように。

 

一方的な祈りを込めて、私は少女のカップに紅茶を注いでいた。

 

 

 

END

小説では初めてかな?ルブランと芳黒メインは。
芳黒は年齢設定が定かでないので(笑)実際何歳差なのかよくわかりませんがかなりの歳の差ですよね^^
漫画よりも先にジルベールを出しちゃいました(笑)彼は『水晶の栓』で出てくるルパンの部下です♪
一心にルパンに愛されやがって羨ましいぞコンチクショウ★なキャラです^^
しかしこの度のルブランはよく喋ってますね^^(あくまでいつもよりは★)

リンゴのスコーンもあるけど、どうかな。