愛して・・・は、いるかもしれないけれど
ぜったいにぜったいに
好き、ではないんだ。
あの人も、僕も。
僕の母はいつも心ここにあらずな人だった
ぼんやりと、窓の外を眺めていることが多かった
ぼんやりと、どこか遠くをいつも見つめていて
その表情はまるで夢見るようで
しかしひとつの微笑みも称えてはいなかった
僕が横に居ても目の前に居ても気づかない
母がいる部屋に入るとき
ノックをするとき
いつもいつも不安だった
自分は
自分はこの向こうにある世界へ入って行ってもいいのだろうかと
おそらく、母にとって僕は『存在』だけだった。
自分が生んだ、息子という存在。
ただ、それだけ。
母は優しかった
母は優しかった
僕は母を愛していた
でも、母は僕を愛してはくれなかった。
だからノックをしても Y e s .と返ってこないことを知っていた
母の世界に、僕は存在していなかった。
持ち上げた拳をそのままに、僕はノックできない世界への扉を見つめていた・・・・・
・・・・・
「ん・・・・」
なんだか息苦しくて目が覚めた。
「!むう〜〜〜ッ!!」
それもそのはずだった。うつ伏せにされて枕に顔を押し付けられていたのだから。
苦しさのあまりジタバタと暴れると「あ、起きた」という声がして頭を押し付けていた手が放れた。
考えるまでもない。こんなことをするヤツを僕は他に知らない。
「ぶっはッッ、なっにするんだよ!ジム!!」
ガバリと起き上がると苦しさをそのままに横に立っていた男を睨みつけた。
「いや、呼んでも叩いても起きなかったら。生きてるのか死んでるのか確認する一番手っ取り早い方法を取ったまでだよ」
揶揄かう目線。おもいっきり人を小莫迦にしたようなそれははっきり言って朝からお目にかかりたい代物ではない。
「その確認作業で圧死したらどうするんだよッッ!!」
「大丈夫、あと三秒ほどあのままでも死ななかったから♪」
ああ言えばこう言う。
この男の場合、ああ言えば言った分以上の皮肉、もしくは揶揄が返ってくるのだからタチが悪い。
はあ、と溜め息を吐くとそれ以上何も言い返さず今度は自分からばふんと枕に突っ伏した。
久しぶりにあの頃の夢を見た・・・・なぁ
ノックが出来なくて、ただ扉の前で立ち尽くす夢。
灯も無く薄暗い廊下で、自分の存在はあまりにも頼りなくて薄っぺらくて・・・・
「テオドール!」
肩を揺さぶられるのと同時に名前を呼ばれて、また眠りの淵に沈もうとしていたことに気づく。
両肩を掴んで覗き込んでくる顔は怒っているようにも、また何故か焦っているようにも見えた。
「テオドール?」
ぼうっとしていたせいか、今度は軽く頬を叩かれる。
おそらく、さっき自分を起こそうとしていた時も、始めはこうしていたんだろう。
その手を掴んで、額に当てる。
「テオドール?」
訝しむ声音。僕の眼元は影になって表情が窺えないのだろう。
「愛してはいたんだ・・・・・」
呟いた言葉に、ぴくりと空気が張り詰める。
「愛してはいた。けれど、好きじゃなかった」
母は、僕を愛してはくれなかったから。
バーネットは動かなかった。彼からすれば突然なに言ってるんだといったところだろう。
いつもだったらすぐさま「寝ぼけてないで起きろ」と張り倒されるだろうが、バーネットは動かなかった。
だから、しばらくそうしていたように思う。
が、突然額から手が放れて。
バチンッ
小気味のいい音が額から出た。
「〜〜〜〜ッッ!!;;;」
「いい加減に起きられただろ?」
ヒリヒリと痛む額を押さえ、ガバリと跳ね起きた。
涙目で睨めばニヤリと口端の上がった顔。
とっとと着替えて来い。朝食が冷める。
言い置いてさっさとバーネットは部屋を出て行く。
ほんの少し、扉を開けて。
それに苦笑しつつベッドから起き上がると僕は手早く着替えて部屋を出た。
ほんの少しだけ開け残された扉
ノックは必要ない、許可など要らない、
それはいつ入ってきてもいいのだと言葉よりも雄弁に告げていた
入ったら入ったで、また揶揄われるんだろうけど。
愛して・・・は、いるかもしれないけれど
愛されて、いるのかもしれないけれど
それでも僕は、君のやり方が気に食わない。
だから
愛して・・・は、いるかもしれないけれど
ぜったいにぜったいに
好き、ではないんだ。
君も、僕も。
END
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愛は愛でもちょっと違う方の愛を★
ベシューの過去とゆーか、母親との関係をチラリ。
今更ですがウチのキャラたちは母親との関係が今に至るカギです★
しかも決して満足に幸福ってわけじゃないんだよなあ。
フフフ、管理人の趣味です♪
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