「愛してるぜ、ハルヒ。マジに」
このおれが。
この切り裂きジャックと謳われ、恐れられた男が。
本気で、と。
血のように紅い目がうっとりと細められて。
この世で唯一人。
おれが愛するのはお前だけだと
世間を震撼させ、騒がせた男がこんな少女を口説いている。
「・・・アタシもよ」
アタシも愛してるわ、コールズ。
ただ
永遠に愛してるわけにはいかないけどね
『永遠をこめて愛しましょう』
「む、なんだよ。いまの間は」
アタシの胸に顔を埋めて気持ち良さそうにしていたコールズが不満げに顔を上げる。
世間一般の皆様は、切り裂きジャックがこんな少女にこんな風に甘えてるなんて思いもしないだろう。
「あら、いけなかった?」
首を折って彼の紅い髪に顔を埋めると同時に手で梳いてやる。
コールズは甘ったれだ。
図体はデカイのに、懐くような姿をされると可愛いと思ってしまう。
それはやっぱりアタシがコイツを愛しいと想っているからだろう。
「間を置いたぶん、それだけ愛を込めたのよ」
コールズ、と言えば。
たちまち機嫌は急浮上。嬉しそうに細く紅い三日月を浮かべてアタシに圧し掛かる。
ぬるい体温。
ともすれば二人一緒にこのまま眠りに堕ちていってしまいそうなほどに。
わざわざ熱を高ぶらせるなんて無粋。ナンセンス。
衣服を通してでも伝わるその温かさに、アタシたちは何時間でも酔うことができた。
夜が明けるまで。
夜が明けるまで
夜が明けるまで
何度も何度もそんな夜を、ふたりで。
───それもいつまで出来るだろう
「・・・最近、香の匂いが強くなってね?」
ふんふん、と犬みたいに鼻を鳴らしてコールズが呟く。
目を閉じていたから、ピクリと反応したアタシに彼は気づかなかった。
「いつだって好きな花の香りに包まれていたいじゃない?」
ここはアタシの生まれた国からは遥か遠い倫敦、自慢したいのよ。
「んーーー・・・ま、おれには花っつーかハルヒの匂いだけどな、コレは」
だとするとジャポンはいいなぁ。
睦言を呟くその様子は完全に飼いならされた動物みたいよ、アンタ。
拗ねると面倒だから、言ってやらないけど。
可笑しくて堪らなくて、クスリと笑いを零してコールズの髪を梳く。
「なにがいいの?」
「ジャポンに行ったらそこいらじゅうハルヒの匂いでいっぱいなんだろ」
サクラ、だっけ?
いいよなぁ。すんげぇ気持ちよく眠れそう。
「アタシはアンタの安眠剤じゃないのよ、ったく」
ゴツッ、とちょっと強めに額と額を合わせる。
イデ、と顰めた眉すらなんだか可笑しくて愛しくて。
声を上げて、笑った。
あとどれくらいアンタとこうして居られるかしら?
医者はもう絶対安静にしてろと言ったけど
だってまだ動くぶんには支障ないのよ
───死臭が始まっただけで。
「あ〜〜〜・・・今日はこのままでいよーぜ・・・・」
嗚呼 いつまでアンタとこうして居られるかしら
「そうね、今日はこのままで」
嗚呼 香はいつ死臭に負けるかしら
「・・・・あした、も。・・・・な」
嗚呼
「そうね・・・・明日も、ね」
嗚呼、あと一ヶ月は持つかしら?
眠りに堕ちた男の横顔/寝顔
愛しい愛しい、アタシの。
「愛してるのよコールズ」
永遠に愛してるわけにはいかないのが、とてもとても残念なのだけれど。
さあもう甘い蜜月は終わりに近づいてる
アンタはアタシをアンタの言う『永遠』に出来るかしら?
抜け落ちたアタシの殻を綺麗に綺麗に丁寧に
件の臓腑よろしく保存して
アンタはそれを永遠とするのかしら?
アンタはそれで満足するのかしら?
満たされるのかしら?
物言わぬアタシの殻を
動かないアタシの殻を
笑いもしないアタシを手に入れて。
アンタはアタシをそれで永遠に。
───手中に納められたとでも思うのかしら?
アタシはもうじきアンタをおいて逝くでしょう
そうしてアンタは。
アンタは狂って逝くでしょう
アタシはそれを見てるだろう
アンタは永遠と言う名の疑似餌を貪り尽くすでしょう
アタシはそれを見てるだろう
アンタは───
アンタはいつ気づくだろう。
アンタが手に入れた『永遠(アタシ)』は抜け殻で、
本物のアタシはアンタの後ろでアンタを見てるってことに。
永遠に愛してるわ
永遠に愛してるわけにはいかないけれど。
アタシの時間もアンタの時間も『一生』だから。
生きてるうちは愛しているわ
永遠に愛してるわ
心が残るかどうかなんて分からないから。
だからせめて、生きてるうちは『永遠に』愛してあげるわ。
───本当に。
本当に、『永遠』なんて刻があったとしたら
それこそアタシ、永遠にアンタを愛してたわ───
END
* * *
ハルヒ、死期の迫った心の内。
『生きてるうちは』彼女もコールズを愛してるんです。
『永遠』に。
彼女はコールズにも気づいて欲しいのでしょう。
死と共に、『永遠』も終わるのだということに。
* * *