信じません。

俺はパトロンのこと信じません。

信じません、が。

 

 

 

『信じる≠愛する』

 

 

 

仕事に関しては信じてます。

手際の良さと頭のキレはピカイチっすからね。

・・・ときどき失敗して当り散らされるけど。

 

聡明で、人情家で、行動派。

そんな人がよりにもよってなんで怪盗かね。

それこそ政治家にでもなれば良かったのに。

何かの折にふとパトロンにそう話したことがあった。

どうやらそれはいつも言われることらしく、

『会う人会う人にそう言われるがね。残念ながら地位が無かったのさ』

家の栄光に左右されること無く政治を動かせる世であったなら、なっていたかもしれないがな。

葡萄酒を傾けながら、そう笑って言った。

 

『パトロンが俺を裏切ることが罪なんじゃない。裏切られた俺が罪なんだ』

 

マズルーは狂信的だ。

巧く隠してるから誰も気づかないけど・・・パトロンだって、知らないんじゃないだろうか。

気づいてるのは、きっと俺だけ。でも、別に知ってても知らなくてもいいことだから、言わないけどな。

「でもそれって信じてたのが裏切られたってことになるんだぜ?辛くねぇ?」

何を以ってしてそこまでパトロンに心酔するのか。それが俺には解からない。

「俺はあの御方が好きだ。お慕いしている。それだけだ。辛くは無い」

光の加減によっては金色にも橙にも見える目が、まっすぐにどこかを見ている。

「たとえ捨て駒にされようとも、それは捨て駒程度の才しか持てなかった俺の落ち度だ。

 パトロンがパトロンであるのなら、俺はそれでいい。滴る紅を憂い、あの方がその牙を潜めるというのなら」

 

俺はあの方に代わって牙になる。たとえあの方がそれを善しとしなくとも。

 

俺にとってはあの方が傷つくことの方が、自分の傷の何倍も痛むから。

だから。

瀟洒に翻したマズルーの手に、黒く光る獲物が握られていた。

だから俺はやるんだ、と。

思いつめてしまったかのような横顔は、俺の目に怖いくらい白く透き通って映った。

 

 

悪いが俺は、そこまで狂信的にはなれない。

だって、あの人ときどき俺たちに黙って行動するじゃねーか。

黙っていなくなるじゃねーか。

いきなり、死んだ、とか。

かと思えばひょっこり戻ってきたり。

俺らがどんだけ心配してると思ってんだ。

そーゆうの、きっと全然分かってねーだろ、あの人は。

 

ああ、厭だ厭だ。

俺はあの人のそーゆうとこがキライ。

大っキライ。

信用できない。

信じ、られない。

 

 

だから俺はパトロンには自分のことなど何一つ話さなかった。

自分でどうにかしようと思ってたんだ。親父のことも、お袋のことも。

だから、死刑台を目の前にした時は本気でもう死ぬんだと思った。

あの人は必ず助けると言ったけど。

独房の中で、俺はその言葉を信じないように必死だったんだ。

信じてしまわないように、必死だったんだ。

 

 

だってもう

アンタに振り回されるのはゴメンだ。

 

 

なのに

 

 

なんで、アンタは来るんだ?

 

 

 

大陸に向かう船の中、お袋はその白い頬をほんのりと朱に染めて微笑って言った。

『あの方・・・ほんとうに、ほんとうに良い方ね。あんな方が大悪党だなんて・・・・信じられない』

だってね、あの方。

 

『私は部下を愛しています』

 

って仰ったのよ。悪党にさえならなかったら今頃はきっと素晴らしい人物になっていたでしょうに。

目を輝かせてそう言うお袋に気づかれないように、俺はそっと顔を伏せた。

 

・・・いやだなぁ、パトロン。いくらお袋の手前だっても、そんなこと軽々しく言わないで下さいよ。

信じちまいそうになるじゃあないですか。

 

 

 

でも、いま俺はパトロンが用意してくれた安住の地でお袋と弟と三人で暮らしてる。

遠く遠く離れたいまも、俺はまだ貴方の好意に甘えてる。

 

信じてないです。

それでも俺は信じてないです。

でも好きです。

パトロンのこと。

信じてないけど愛してます。

 

でも

信じることが愛とイコールで無いのなら

この愛はいったいどうして在るのだろう。

 

 

 

END

* * *

ジルベール独白にマズルーの想いもちょこっと。
ベースは『水晶の栓』から。
あの話はルパンが部下のために奔走するので好きです。しかも稀に見る大苦戦の大混戦。
大好きだーーー。。。。(*^^*)
大好きだ!!ルパン大好きだ!!(突然着火)

* * *

なんの意固地も無く貴方を愛せたらいいのに。

ブラウザバックプリーズ!