まずはじめに樹木があった
この地の創者がその樹木と約束を取り交わした
その瞬間に───
『大樹の国』
他に類を見ないほど、巨大な大樹を持つ国。
国土全体がその一本の大樹の根によって支えられている。
水も人も作物も豊かな、平和な国。
それが樹帝の納める国だ。
樹帝はいま、自室の窓辺で頬杖をついて眼下の街を眺めていた。
街の向こうにはこの国の基礎となる大樹の幹が見える。
さらに視線を上げてやっとその緑を拝むことができるという、桁外れの大きさだ。
街は夕暮れに赤く染まり、大樹の影もまた赤く染まっていた。
樹帝は自室の窓辺から臨めるこの景色が、何よりも好きだった。
だが、それももうじき見納めになってしまうのだと思うと悲しくてならなかった。
その反面、自分もこの美しい原風景と一体になれるのだという気持ちもあった。
それこそ悲しくも植えつけられた感情であることを、彼は知っていただろうか。
樹帝国では王の代替わりが著しい。
その理由は他国はおろか自国の民にすらも明らかにされてはいない、城の中でも禁忌中の禁忌だった。
この国を創る時、創者が樹木と交わした約束。
『成人したる、この国を想うに最も相応しい者を我に捧よ』
───以来、樹帝国では成人したこの国の王を大樹へ贄として捧げ続けており、
また血の繋がりではなく『どれほどこの国を想っているか』で代々の王を決めてきた。
今、この国の豊かさを支えているのは大樹に捧げられた先代の王の血と肉と骨。
嗚呼、でももうじき自分が捧げられるのだから、もう先代の王は幾許の欠けらも残っていないのかもしれない。
夕闇の風にやんわりと吹かれて、現・樹帝はそんなことを思った。
先に『どれほど国を想っているか』で王を決めていると言ったが、それはこの国の教育方針でもある。
そういった教育を子のうちから与えて、十になった時、国中でテストをする。
それで一番優秀であった子が王───言ってしまえばこの国の犠牲に選ばれるのだ。
選ばれた子の親は悦んで子を王として国に差し出すのが常だ。
よもや自分の子が、成人と同時に大樹に贄として捧げられているなど、思いもしないのだから。
今の樹帝も十歳の頃に即位したが、あともう一月としないうちに成人を迎えることになっていた。
樹帝は王たる証──束縛の証とも言えよう──大きな茶水晶の嵌まった首冠に、そっと触れた。
贄になる日は、近い。
人の骸を養分に、その大樹はさらに大きくなる。
END
***
ベシューは儚い・切ない・哀しいが似合います。
不幸にし甲斐がある(ちょっと待て)
いやちゃんと幸せにしますよ愛しい子ですから^^
ブラウザバックプリーズ!
ブログ掲載 :06.01.23.
再掲載 :06.04.08.SUISEN