紅帝が支配する紅帝国は一風変わった国で。

ある一定の時季に、国の中に国が現れる。

それは春のおそよ二週間───淡いピンクの花をつける花木に覆われた国が生まれる。

そこは散女帝が支配する、儚き花の国だった。

 

 

 

『紅の若君と花の姫君』

 

 

 

若き紅帝・ジャックは足元を埋め尽くす淡い花びらの道を蹴散らしながら歩いていた。

 

歩きづらい上にうざったい。なにより面倒くさい。

 

視界にははらはらと舞い散る花びら、足元でもザカザカと歩くたびに花弁が舞った。

 

正直公務なんて必要ない。やりたくない。

形式ばった儀式なんて意味もない。

だいたい俺個人としては国の中に国が出来ようが興味は無い。

───そんなところの女帝とやらに、なんで俺がわざわざアイサツしに行かなきゃなんねぇんだか───

 

ケッ、と毒づいて足を思い切り蹴り上げる。

目の前が淡い色で埋め尽くされた。

 

はらはらはら

はらはらはら

はらはらはら・・・・

 

視界が元に戻る頃、目の前には見知らぬ少女が立っていた。

いつのまに?

紅帝は目を瞠った。

少女は紅帝と少々似通った高貴な正装をしていたが、紅帝の知るそれとはまた違った装いで、それが彼の国の服装なのだと思わせた。

長い黒髪の頭には生きた花の枝がかんざし代わりに挿してあり、それもまた淡くその花びらを散らしていた。

手元の扇子で顔を隠しつつも、覗いてくる黒い瞳には僅かにあの淡い色が垣間見えた。

「紅帝国・ジャック紅帝とお見受けいたしました」

「──ああ」

「私が散花帝国・散女帝───ハルヒでございます」

「アンタが、か」

紅帝はどんなに公的な場でも口調を飾ることは──皮肉のときは別として──無い。

砕けた物言いに、扇子の向こうからクスリと笑い声が漏れた。

パシッと音を立てて扇子が閉じられる。

同年代の顔を持った少女が、そこに居た。

「型に嵌まらないのね。いいわね。アタシそういうの好きよ、ジャック」

先ほどの口調とは打って変わり、あまつさえ呼び捨て。

「馴れ馴れしい女だな。それにいいのかよ、おおっぴろげに顔見せちまったりして」

高貴な女性は顔を見せないのがこの国の──周りの国もほとんどそうだが──鉄則のはずだ。

しかも国を治める長とあれば尚更。

「いいじゃない。今は五月蝿い高官たちも居ないし、だいたい『長同士』ぐらいになら見せたって構わないわよ」

正装が窮屈なのか、うーんと伸びをした。

 

やれやれ。

俺も型破りと罵られて久しいが、この女、俺以上に型破りなんじゃねぇのか。

 

はらはらと舞い散る花びらの中に乗せるようにジャックが溜め息を吐けば散女帝がくるりとターンして振り返る。

「ま、二週間て短い間だけどよろしくね、ジャック」

そう。二週間。

散花帝国が存在していられるのは国中に咲き誇る淡い花木が咲いている間だけ。

その花が散ると同時に国自体も散って無くなってしまう。

花の散る時季が早まればそれだけ国は早くに消えてしまうものだから、記録ではわずか三日しか存在しなかった年もあったという。

「そういやぁ、国が無くなるとオマエとか国の住人っつーのはどうなるんだ???」

まさか全員煙の如く消えてしまうわけでもあるまいに。

「フツーはまた紅帝国の民として過ごすわよ。だからアタシとアンタがこんな風に逢えるのもそれまでってわけね」

二週間後、花が散ると同時に女帝は平民に戻るわけだから。

「ふーん」

 

ジャックは少し気分を害した。

ジャック自身はとりあえずいまのところずっと王だが、平民になったからといって目の前に居る自身と同様に型破りな女帝が

そこいらの連中と同じようになると思うと面白くなかった。

 

「じゃあよぉ」

手を伸ばし、スルリと散女帝の腰に腕を回すと自分の元へと引き寄せた。

散女帝はきょとんとしている。

「二週間以内にオマエが俺のもんになっちまったときはどーなんだ?」

唇と唇、鼻先が触れ合いそうな距離でニヤリと笑ってそう言えば、呆気に取られていた女帝の顔が悪戯な笑みを浮かべる。

「さぁーね?どうなるか試してみれば?」

お互いに見合わせた顔が、ギャンブラー≪賭博師≫の顔になっている。

「おお。試させてもらうぜ、散女帝?」

「ハルヒよ。二週間でアタシをその気にできるもんならね」

やってごらんなさいませ、と明らかな慇懃無礼で静々とドレスの裾を上げて礼をした。

クククッ、とジャックが歯を出して喉で笑う。

「そっちこそ。それとジャックは即位名だ。俺はコールズ」

賭け金は互いの心───

フッと笑みを溢し合うと、同時に踵を返してそれぞれその場を後にした。

 

出逢ったばかりのふたりの長が、二週間の間にゲームという名の愛を賭ける。

 

退屈な権力者たちの、やがてすべてを捲き込む愚かな賭けの始まりの話。

 

END
***

この二人はもう好き合ってんのにわざわざこーゆうことしそうですよね・・・
んで、周囲を捲き込んでるといい。
終わってみると始まりってこんな理由だったの?みたいな^^

ブラウザバックプリーズ!

ブログ掲載 :05.06.26.
再掲載 :06.04.08.SUISEN