世界が黒の国旗で染められてゆく。
黒帝は白と黒の盤上のコマを動かすだけで次々と他国を制してゆく。
白いコマを黒に
黄色いコマを黒に
橙色のコマを黒に
『染められなかった色』
───パンッッ
嗚呼、退屈だ。
カラカラカラ・・・・
橙色のコマが磨き上げられたタイルの床を転がってゆく。
つい今さっき橙帝国を制したとの連絡が入った。
これで紅帝国・青帝国・緑帝国以外はすべて落した。
紅帝国と青帝国は落す気にならない。
両国ともに君主に品性が無く、血生臭いからだ。
───残るは緑帝か。
白と黒の盤上にぽつんと残る緑のコマに指先でそっと触れた。
現在の緑帝とは幼い頃に逢ったことがある。
父に連れられて行った各国会議で、一瞬垣間見ただけというのが正しいが。
血統なのか、緑帝の名を継ぐに相応しい綺麗な、常緑の瞳を覚えてる。
───落すか?
落すのか?
退屈しのぎに始めたこの侵攻。
別に支配を広げたいわけでもない
領土を広げたいわけでもない
世界の王になりたいわけでもない
───。
コマを動かそうとしたそのとき、臣下が連絡を寄越した。
緑帝国を制することは最早不可能です、と。
何故かと問えば至極簡単で───蒼白になるような答えが返ってくる。
緑帝国に民は一人も残っていない。
緑帝の命で国民も臣下さえも国を出たと。
そうして一人残った緑帝は
薬を使って自害した───と。
君主も民もいなくなった国を制圧することは出来ません。
臣下のその言葉に、私は「そうか」としか返すことが出来なかった。
その声に自分でも知らぬうちに落胆の色が混じっていたのは何故だろう。
かくして緑のコマは盤上に『在らずして』残った。
ポツンと残る緑のコマの中に。
掲げられた緑の国旗がはためくのを見たような気がした。
愚かな愚かな黒帝の話。
END
***
黒帝・ホームズのSSをブログからサルベージ。
盤上ばかり見て現実を見ないから、どれが大事で何をどう思っているのか。
気づくのが遅れて、気づいた頃にはもう手遅れ。
ブラウザバックプリーズ!
ブログ掲載 :05.06.09.
再掲載 :06.03.08.SUISEN.