「 どうして帰って来てあげないのッッ??! 」

 

薄暗い路地裏に、悲痛な叫びが木魂した。

 

 

 

−暗黒時代−

 

 

 

その頃ボクはフランスで仕事の真っ最中だった。

だから。

センセイやどくたぁが大変な目に遭ってるなんて。

夢にも思ってなくて。

ましてやそのことがロンドン中を震撼させてたなんて。

ホントのホントに。

 

夜、が 来た 気が した。

 

月さえ出ない暗黒の―――・・・

 

 

 

慣れた足取りで、勝手知ったる屋根の上を駆けて行く。

目指すのはベーカー街―――ボクの大好きな二人が居るところだ。

いつもは足取り軽く、嬉々としてそこに向かうのだけれども。

今はそこを満たしているであろう悲しみを思い浮かべて、どうしようもない気持ちを抑え込むので精一杯だった。

程無くして、目的の家に辿り着く。

しかし、いつも出入りしていた窓に灯りは燈っていない。

まだそんなに遅い時間じゃないのに―――

突如不安になって、そっと窓に手を当てた。

すると、窓は難なく開いてしまった。

戸惑いながらも部屋の中に入る。

そこはセンセイとどくたぁの居間。

訪ねてくるとセンセイは無表情で、どくたぁはニッコリ笑って『いらっしゃい』と迎えてくれた。

でも今は真っ暗でシンとしている。人がいる気配も無くて。

「 ・・・?、どく、たぁ・・・? 」

いないの?と小さく声を掛け、辺りを見回すもやはり誰も居なくて。

一瞬途方に暮れたが、すぐに隣の部屋から物音を聞き出してそちらに向き直る。

 

・・・センセイの部屋からだ・・・・・・

 

なんとなく、その中に誰がいて、何をやっているのかがわかって。

その分、この向こうに足を踏み入れていいものかひどく迷った。

なのに体は扉に歩み寄り、嫌がる意識と裏腹にその扉をいとも簡単に開けていた。

 

そうして目に飛び込んできたのは。

 

「 ッッぁあああああぁぁあああああああぁああ!!!! 」

 

主の居なくなったベッドに伏して、シーツを引き千切りそうな勢いで掴んで、もう声にならない悲鳴を上げている。

 

 

どくたぁ、だった。

 

 

どくたぁはボクが来たことにも気づかず、暗い暗い闇の中、涙と嘆きを吐き続けていた。

 

「 ・・・ッなんっでッッ・・・置いて・・・・・・ぼくはッ 」

そうか、センセイは置いてったんだね、どくたぁを。

「 ッく・・・ッ ひとりで死ッ・・ッ・・きてても意味な、ぃ・・・ 」

どくたぁだけでも、生きて欲しいって。

「 ッッ・・・・は、ぅ・・・ホーム、ズ――――ッッ・・・・」

でもね―――・・・ センセイ?

 

「 ・・・・・・どくたぁ・・・ 」

 

小さくそっと呼んでみた。空気を壊さないように、そっとそっと。

それでも、どくたぁは気づいてくれたらしかった。

ハッとして顔を上げると、部屋の入り口に佇むボクを濡れた茶水晶の瞳で映した。

「 ・・・・・ルパン、くん・・・ 」

掠れた声を出したかと思うと、急にベッドから起き上がるとこちらに小走りで走り寄る。

でも、その体はボクに辿り着く前に力尽きて床に滑り込むように崩れてしまう。

慌てて走り寄って、憔悴し切ったその体を支えた。

「 どくたぁ!!だいじょうぶ??! 」

「 ・・・・・・ 」

返事は無い。

不安になって顔を覗き込んで呼びかけた。

「 ・・・どくたぁ? 」

それは突然だった。

「 ――――・・・ッ、ホームズがッッ・・・!! 」

「 知ってる 」

思いのほか、ボクは静かに即答していた。

そうして壊れる、目の前の人の涙腺、感情――――・・・

 

センセイ、どくたぁのココロまでは、守ろうとは思わなかったの?

 

声にならない嘆きが、悲しみが、叫びが。

闇に響く。

そんな、月の亡い夜だった。

 

 

 

「 それじゃあね、どくたぁ。 」

朝、ようやく少し落ち着いたどくたぁにボクは玄関まで送ってもらった。

「 駅まで送っても・・・ 」

そう言うどくたぁに、ダメダメと言いながら。

「 マトモに歩けないような人に見送ってなんてもらえないよ! 今度来るときまでにはキチンと歩けるよーになっとくこと!! 」

ビシッと告げると、どくたぁは力なく笑って、力なく頷いた。

「 じゃあ・・・ 」

気をつけて、と言ったどくたぁに見送られて、ベーカー街を後にする。

途中、そっと振り返るとまだどくたぁは見送ってくれていた。

でも、ボクの目を奪ったのは全く別のものだった。

221Bの向かいの通りのベンチに腰掛けている、腰の曲がった老人。

深く被った帽子の下から光る目は、憔悴したどくたぁを見つめていた。

やがてどくたぁが中に入ると、老人はベンチから立ち上がり、スタスタとその場を去って行く―――

「 待って!! 」

気づけば、思わず叫んで追いかけていた。

老人もそんなボクに気づいたらしく、朝の人ごみに身を隠していく―――

普通の人の目は誤魔化せても、ボクの目はそうはいかない。

あの目は、確かにアノヒトのものだった。

老人が、すうっと路地裏に消えた。 

 

「 センセイッ!! 」

 

姿を追い、駆け込んだはずの路地裏には誰の影もなくて。

ただ、闇にも光にも成り切れない混沌とした薄暗さがあるだけだった。

「 どうして・・・? 」

わからない。

どうして隠すの?

どうして一緒じゃないの?

どうしてこんなことになってるの?

どうして―――・・・

 

「 どうして帰ってきてあげないのッッ??! 」

 

生きていると、教えてあげないの――――・・・?

叫びは責めるわけでもなく、問い詰めるわけでもなく。

ただただ、悲痛な響きを持って路地裏に木魂し、静かに消えていった。

 

 

 

悲しみと疑問と当惑の余韻だけを残して。

 

 

 

 

これから始まる三年にも渉る暗黒時代。

あのひとは微笑を讃えながらも目も当てられないほど憔悴していって。

アノヒトはそれを悲痛な目を以って陰なる混沌から見つめていて。

ボクはただ、その様子を屋根の上からじっと見ているだけだった。

『 そんなに屋根の上ばかりにいると猫になるよ 』

いつだったか、アノヒトが屋根の上のボクを見つけてそう言った。

今、ボクは猫になって。

眼下を漂い支配する暗黒時代の終わりを、ただひたすら待っている。

ときに同じ空の下で。

ときに海の向こうで。

 

 

いつか必ず、陽の光の射す日々がまたやって来るのだと。

 

 

 

そうやって今日もまた屋根の上から降り積もる哀しみを眺めてる。

 

 

 

 

 

 

END

 

 

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ルパン君、小説初☆登場。

ライヘンバッハの滝直後の話です(好きだな〜このネタ;)

涙ぐみながら小説書いたの初めてかも(笑)

バッハの「小フーガト短調」聴きながら書いたもんだからなおさらグッと来てしまって。

ばか〜ばか〜ホームズのばか〜とか言いながら書いてました(笑)

ええ子や〜ルパンええ子や〜(涙+)

何言ってんだ、自分(笑)

でも、基本的にウチのルパン君はいい子ですv

あ、ルパン君はホムもワトも大好きなんです(恋心はないですよ!!・笑)

一応の年齢設定はワト>ホム>ルパンですが、

中身的にはホム>ワト=ルパンって感じです(笑)

ワトとは親友、ホムのことは父親か兄か、そんな感じで捉えてるみたいです。

なので三人揃うと兄弟!!みたいな感じで(笑)

(もしくはホム&ワト=夫婦、ルパン=息子みたいな勢いでもいいんですが^^)

なんで今まで書いてなかったかってゆーと彼は動いて走ってナンボなキャラだから☆

小説だと可愛さ&無邪気さが半減するよーな気がして書けなかったのですよ〜^^;

でも今回のような場合は彼が適してるッッとゆーことで公務☆執行(公務??!)

ま、そんなわけでしたv

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