「ちょっと無碍に扱いすぎじゃないのかね?」

 

 

         背を向けて本を読んでいた友人はふッとその顔を上げ、ちらりと私を見た。

 

 

         「そう思うかね?」

         「折角君に逢いに来てくれたんだから。」

         「甘やかせすぎだよ、ワトスン君。」

         そう云って彼はまたふいと顔を知識の海へと戻してしまう。

 

         甘やかせすぎ?

         稀代の怪盗にそんな言葉を吐けるのはこの男くらいのものだ。

 

 

         「ホームズ。」

         「まだ何かあるのかい?」

         僕は忙しい、とにべもなく云い切ったが、
         なに、私は打破する方法を知っている。

 

 

         「君って素直じゃないねぇ。」

 

         ほら。

 

         「……素直じゃないってどういう意味だい。」

         「いや、そのままさ。」

         「解らないよ。」

         「探偵なら自分で考えないと。」

         彼は一瞬、傍目にも解る程ムッとした。

 

         「……まぁ、僕はほら、……自分で云うのもなんだけど捻くれてるから。」

         「好きな人に好きって云えないタイプだろ。」

 

         彼はますます厭そうな貌を……?

 

         「そんなことはないよ。」

         「そうかねェ。」

         「ないってば。」

         彼は何時からか白い指でページを繰るのを止めている。
         機嫌が悪くなったのかと思うがそうでもなく。

         矢張り彼は何処か楽しそうに、灰色の眸を私に寄せていた。

 

 

         「僕が彼を厭うているように見えるかい?」

         「まさか。」

 

 

         好きとは口に出さずとも、確かに彼はそれ以上に、眼差しや柔らかい溜息やその他諸々、
         そんなもので愛情を囁くことが多々あるのだ。

         私は気付いている。

 

 

         「君は目聡くなったものだ。」

         「伝記作者は観察眼が大事だろ。」

 

         彼は優しく微笑った。

         私は何だか嬉しくなって、

 

         「あぁ、矢っ張り好きなんだね。」

 

         呟くと、彼はとても驚いた貌をして
         一瞬後に体勢を立て直して云った。

 

 

         「勿論彼を愛しているさ。」

 

         一瞬眼を丸くしてしまった。
         そして直ぐに次の言葉。

 

         「彼の才能をね。」

 

 

 

         そうして彼はやっと愉快そうに笑って、書物片手に居間を出て行った。

 

 

 

         呆気にとられた。

         けれど気付けば笑っていた。
         だって。ねぇ。

      

         

 

         なんて下手な照れ隠し。

         子供みたいに囁くんだもの。

 

 

 

         あぁ、だから私はこんなとき、矢っ張り彼のことが好きだと思う。

 

 

         それにしても、全く素直じゃないんだから。

         私の友人は。

 

 











 

 

 

 

 

 

 

 

***********************

イチヒトさんへ贈ったリク、「探偵にからかい倒される怪盗+なだめるドクター」の

続き物を戴きました〜vvv(><)vvv

ううう、イチヒトさん、素敵作品を立て続けにありがとうございますv

戻る