各々に酒を楽しむパブの中。
「店主!部屋を借りるぞォ!!」
アタマと見えるガタイのでかい男がしゃがれた声で叫び、店主の返事も聞かずにドカドカと音を立てて二階へ上がって行く。
それに続いて小者と見える、やはり小汚い男たちが数人上がって行った。
それらを横目で見送ったその一瞬、流れる青に目を奪われた。
汚い集団の中に似つかわしくないその輝き。
思わず顔をしかめ連中が消えていった階段を見つめた。
青い煌きに思い出すのはある夜の奇妙な邂逅。
そうやたら滅多にあの色の持ち主は居まい。
「・・・・・・・・」
チッ。
男は舌打つと、「店主、二階を借りる」と呟いた。
『お姫様を起こすのは?』
粗末な部屋の中、男たちはベッドを取り囲みながら厭らしい笑みを垂らしていた。
ベッドに寝かされているのは青く長い髪の、女性と見間違う青年。
意識は無く、その瞳を覗い知ることはできない。
一人のずんぐりとした武骨な手がベッドの青年へと伸ばされる。
が、その手は青年に触れることなく。
その代わり、鈍く重い音が部屋に響いた。
「さて」
どうしたものかと男───ハイドはベッドの上に眼をやった。
ベッドの上では未だ眠り姫が昏々と眠っている。
ハイドの足元では、先ほどのゴロツキどもが無残な有様で転がっていた。
皆一様に米神を打ち抜かれている。
片付けは店主に押し付けるとして、問題は彼だ。
ハイドはこの青年と面識があった。
それはハイド自身が思い返してみても、非常に突発的で不可解であった。
たまたま足を運んだパブで出会った(というか降ってきた)のだが・・・
その時は唯々呆気にとられていたが、思い返せば腹立たしいことのような気もする。
ハイドは青年の顔を覗き込んだ。前回は相手の顔をじっくり見る暇も無かったのである。
鮮明すぎるほどの青い巻き毛の髪に、白い柔肌。
体つきから見て青年と思えるのだけれどその顔はあまりにも幼い。
きっと彼を見るものは誰もが彼に対し青年ではなく少年という印象を持つだろう。それくらい、その顔はあどけなかった。
髪、頬、唇をゆっくりなぞり、つとその手が止まった。
「・・・・はて」
はたしてこの瞼の下にある宝玉は、いったい何色だっただろう?
考え思い出そうとしてみるが、如何せん前回が前回な為思い出すべき要素が無い。
じっ、と眠る顔を見つめる。
青き塔の眠り姫はいっこうに目を覚ます気配が無い。
なんだか前にもこんなことがあったような。
そこまで思って、ハイドはくすりと微苦笑を漏らした。
「あの眠り姫は、姫は姫でも棘があったな」
鼻先が触れ合いそうなほど、横たわる身体に近づける。
「貴方も棘をお持ちでしょうか───お目覚めのキスを許していただけますか眠り姫?」
言葉を吹き込むように、くちづけた。
その唇の柔らかいこと。
甘美なその感触に、ハイドは相手が気を失っていることも忘れて呼吸を奪わんばかりに吸い付いた。
「ん・・・ふ・・・・?」
自分以外の吐息とともに、目の前にある瞼が震えて持ち上がった。
ようやく姿を現したその色に、ハイドは目を奪われた。
鮮やかな青い髪からは想像も出来ない琥珀色が見えたからだ。
それは落つる陽の最期の輝きのようでもあったし、また溢れんばかりの蕩けた蜜のようでもあった。
「ん・・・・あれ?」
しぱしぱとその目を瞬かせて眠り姫から上がった声で我に返る。
そのまま身を引いてもよかったが、この宝玉を見とめてしまった後では無理な相談だった。
「お目が覚めましたか?眠り姫。・・・お目覚め後すぐで恐縮なのですが」
貴方を頂戴してもよろしいでしょうか?
「ふえ?・・・ん、」
唇が触れるか触れないかの距離でそう告げると、相手の返事も聞かずにハイドはその唇に齧り付いた。
「ンッ、あ、ゃ・・・」
琥珀の目が、いっそうその色を深くして溶けていく。
キャンディのような煌きに、食べられるんじゃないかと錯覚する。
とりわけ抵抗しなかったところを見ると、喰われるのは慣れているのだろう。
「ひあッ!ん、ぁアッ!!んぅ・・・」
勘所を突いてやれば素直に跳ね、身を捩じらせて甘えた。
白い肌、稀有な青髪、そして琥珀の瞳と不純な輩を誘う要素はすべて揃っている。
とくにこの目だ。
この琥珀の目。
皆、この蜜に引き寄せられ、溺れ───そして。
琥珀とは、太古の虫や葉を閉じ込めたものとして有名だったな。
では俺も閉じ込められるかこの色に。この蜜に。
なんて絵空事をと自分で自分の考えに失笑し、あとは目の前の淫らな身体に没頭した。
「ん・・・」
「あ、起きましたか」
ふーっと吹き出した煙草の白煙をかいしてぼんやりとした琥珀の色が見えた。
「・・・あれ、きみ・・・」
「ご挨拶が随分遅れまして。お久しぶりです」
一度酒場で衝撃的な出会いをしましたね。そう言うと寝ぼけていた相手も合点がいったらしく、ああ!と頷いた。
そういえば名を知らなかったと尋ねてみるとジル=ド=レだと名乗った。
こちらの名も尋ね返されたので名を告げるとクエスチョンマークを浮かべながらしばし人の頬をぺたぺたと触ったりしては首を傾げていたがどういうことか。
ひとまずその間穴が開くほど顔を見られていたのでこれで覚えられただろう。
ひとつ残念というか不思議だったのは一緒に店を出たはずなのに気がついたときにはもう彼の姿が無かったということだけだ。
高貴そうな感じを受けるが何やら裏に足を突っ込んでいる所謂同類のようなのでまあまた会う機会はあるだろう。
後日、ジャック棲家にて。
「んーーー?このあっかい痕はなーにかなぁジルドレくーん?」
やってきたジルドレの首筋に残る痕に目聡く気づいたジャックがジルドレの首に腕を回してグイと引き寄せる。
ジルドレはあわあわと挙動不審になりながらその顔を真っ赤にしていく。
「え、えーっと、これわッッ・・・」
「いつもみたいにゴロツキにやられたんじゃあこんな痕は残らないよなー?」
何処の紳士引っ掛けた?それとも貴族か?
にやにやと揶揄なのか不穏なのかわからない空気を出しながら、ジャックがさらにジルドレを威圧する。
怒られるとでも思ったのか、ジルドレの目にじんわりと涙が浮かぶ。
「ち、ちがっ・・・これはハイドくんが・・・・」
「ハイドが?」
「Σ?!」
目を丸くしたジャックとは対照的に、居合わせたハイドはギョッとした。
なんだ?おまえいつのまにそんな強気な姿勢に出たの?
ジルドレをぬいぐるみのように抱いたままジャックがハイドを振り返る。
当のハイドといえば、ちがうちがう、知らない知らないとでも言うようにぶんぶんと大きく首を横に振ってみせた。
「ち、ちがうッッ。ハイドくんなんだけど、そのハイドじゃなくて・・・でもハイドくんなの!」
「?」
「??」
顔を真っ赤にしてぐるぐるになっているジルドレの説明は、一応当たってはいるのだけれどその場にいた二人に通じるはずもなく。
湯気でも出そうなほど赤くなっているジルドレに、ジャックとハイドはただただ顔を見合わせて首をかしげるのだった。
END
さりげに関係持っちゃってますが何か。何か。
なんかもうホント、ナキトさんに足向けて寝れませんよ・・・
ぬおお、ナキトさんは東西南北のどこに!(殴 打)
ひとまずアフォーな小説ですがこれも献上したいと思います・・・!!
4周年おめでとうございまーす!!
ブラウザバックプリーズ!
07.08.10.TOWEL・M