それは久しぶりの逢瀬を邪魔する無粋者。

 

 

 

 逢瀬ヶ刻 ≪おうせがとき≫

 

 

 

 その夜はほんとうに、ほんとうに久しぶりだった。

 

 久しぶりに彼の邸を訪れ

 久しぶりに彼の淹れた紅茶を飲み

 久しぶりに彼との会話を楽しんだ。

 

 そしてそのまま久しぶりに二人で同じベッドに沈んだのだ。

 

 彼の肌は相も変わらず大理石のような美しさを誇っており、僕の唇が肌を掠めるたびに彼は小さく身じろいだ。

 傷痕ひとつ無いそれは僕に征服欲を湧き立たせる。

 丁寧に舐めあげて、ゆっくり吸い付く。

 ひとつひとつ、確かめるように淡く紅い痕が乱れ咲いてゆく。

 この生きた大理石に証を残せるのは自分だけだという自己満足。

 しかし彼は確かにいま自分に征服されていて、彼もまたそれを臨んでいるのだった。

 

 んんん、とむずがるような声を上げてモーリスが僕の首に腕を回してきた。

「うん?」

 どうした?

 そう声をかけて顔を覗き込むが、うー、などとしか言わない。

 でもその目は僕をじっと見つめている。

「?」

 首をかしげながら笑いかけてみせると、ようやくモーリスの口が何事か紡いだ。

「・・・・・・・」

「? なに?」

 声が小さくよく聞き取れなかったのでもう一度尋ねると。

「・・・・今日は朝まで居る・・・・・?」

 ぽそぽそと紡がれた可愛らしい問いに思わず顔が綻ぶ。

 その反面こんなことを問わせてしまう己の職種がこのときばかりは呪わしい。

「うん、大丈夫。今日は朝まで。朝、きみが目を覚ますまで居られるよ」

 

 目を覚ましてもずっと。

 

 本当はそう告げたいのに告げられない想いとともに彼の体を抱きしめた。

 

 

 彼には僕のように浮いた話はとんと無い。

 だからこういう熱を溶かす行為を施すと、過敏な反応を見せてくれる。

「・・・・ッ、ひゃ、や。」

 後ろの浅い部分だけを執拗に解かされて、あまつ弱い刺激に彼の体はビクビクと震える。

「・・・や、や。」

「うん?ヤなの?」

 意地悪げに笑ってやればまたうーうーと声を上げながらぺちぺちと叩いてくる。

 だがそれはちっとも痛くないし、涙目では効果が無い。

 こういうのを煽っているというのだが、本人に言ったらきっと否定するだろう。

「う〜〜〜ッ!!」

 そんなことを考えていたら焦らしに堪り兼ねたモーリスが顔を朱に染めてぐずり始めた。

「はいはい。ごめんごめん」

「・・・・・・」

 ひょいと抱えあげて肌に唇を這わすと彼は不満げにむぅとしてみせる。

 子どもっぽいその仕草にクスリと笑って再び後ろに指を這わせた。

「ひぁッ」

 いきなり浅いところから奥深くへと指を挿し入れられてモーリスの体が跳ね上がるのを押しとどめるよう抱きしめる。

 逃げ場を探すように悶える彼を満足げに眺めながら彼の半身に手を伸ばしたとき。

「───・・・」

 僕の本業の成せる鋭敏な感覚が、無粋な来訪者の気配を捉えた。

「ひぅ、っくあ───・・・?・・・らう、る?」

 彼は何も気づいていないのだろう。一瞬様子の変わった僕を、熱に浮かされ惚けた眼差しで捉える。

 来訪者がいつ邸中へと侵入してくるとも限らない。

 その上目障りな気配にウロチョロされていてはこちらとしても集中できない。

 やれ、仕方ない。

「ふぁ!!ヤ・・・ッひゃああ!!」

 見上げていた彼ににっこり笑うとすばやくモーリスの半身を掴み込んで扱き始めた。同時に先端に爪を立てる。

「ひィッ、あ、あ!!」

 突然の激しい刺激に、モーリスはにべも無く高みへと追い上げられると一気に達した。

 体がしなり、ビクビクと痙攣するとガクリと全身から力が抜けて彼は気を失った。

「ごめんね。すぐ済ませて戻ってくるから」

 言い置いてその体にタオルケットをかけ、こめかみにひとつ軽く唇を落とすとローブを羽織って部屋を後にした。

 

 まったく久しい逢瀬の夜だというのに無粋なヤツがいたものだ。

 

 

 夜空には細い月が抱かれている静かな夜。

 ルブラン邸の庭では可憐なバラの園と地に伏せられた無法者がわずかな月明かりに照らし出されていた。

 その中に佇むのは怪盗一人。いや。

 外灯の灯りも当たらない暗がりの穴から人影が現れる。

「パトロン」

「マズルーか」

「はい」

 やって来たのは部下の一人、マズルー。恭しく一礼する。

「ここの後始末はまかせる。この無粋な客が目を覚ましても簡単には戻ってこれないようにしといてくれ」

「おおせのとおりに。」

 マズルーが再び一礼するのを見止めて、踵を返した。

 

 

 そうして足早に部屋に戻ると、すんすんとすすり泣く声がする。

「モーリス?」

「!!」

 何かあったかと急いで駆け寄ると、声掛けに反応して顔を上げたモーリスに突然がばりと抱きつかれた。

「モーリス?どうした?さっきのでどこか痛くしたか?何かあったか?」

 ぎゅうぎゅうに腕に力を込めてしがみ付いてくるモーリスの頭を撫でながらそう尋ねると、

 予想もしなかった答えが返ってきた。

「・・・置いて帰っちゃったかと思ったの・・・・・」

 それで泣いていたのだと。

 自分の腕の中で、モーリスはまたくすんと鼻をすすった。

「ごめん、ごめんね?ちょっと邸内に要らない客が来ていたものだから」

 追っ払ってきたんだよ。

 彼の頭を撫でながら言うとモーリスは顔を上げて『要らないお客様?』と首をかしげた。

 ぱちっと瞠った目は涙で濡れて瞬いた。目じりに溜まった涙をそっとぬぐいながら分かっていない彼に微笑む。

「そう。要らないお客様。でももう大丈夫だから」

 

 今度はホントのホントに、朝まで一緒にいられるよ。

 

 僕の言葉にようやく安堵したモーリスを、僕は改めて組み敷いた。

 

 

 

 END

 * * *
 元ネタはすぐりさん宅の作品『お邪魔虫』です。
 ウチのルパルブでやったらどうなるかなと思って妄想し始めたら耐え切れずに打っちゃったっていう。(爆)
 社会人一発目の小話がこんなんですみません;
 ああしかしエロってやっぱむずかしいですね。
 これを職場で打ち上げたってのがまた難易度高いですね。(いろんな意味でな!/哀)
 すぐりさんに日頃よくしてもらってる感謝を込めて。

 ブラウザバックプリーズ!

 07.04.27.TOWEL