Oct 10

 

Dear lady, dear sir,

I would like to invite you all to a halloween party.

The halloween party is held on Oct 17 this year.

Please dress up and join us on this party.

 

I look forward to your reply.

 

Kind regards

 

 

Dracula

 

 

 

一羽の蝙蝠が彼の頭上を越えたと思いきや、一枚の封を足元に落とした。

疑問符を頭に浮かべながら、彼は足元の其れを拾い、封を切る。

中には、上記の文面が書かれた手紙が入っていた。

「なんだ? 伯爵からの手紙か? おっと」

手紙に血が付いてしまった。 手早く手紙を元の封に収めると、胸の中へ仕舞う。

先にこの血で濡れた手をどうにかしなければ、じっくりと内容を読む事も出来ない。

彼の名はジャック・ザ・リッパー。 仕事帰りの夜の事である。

 

塒へ一歩足を踏み入れた途端、真正面から飛びかかってくる影があった。

「ジャックー! やっと帰って来たあ!」

がばあと抱きつかれて、漸く影の正体がジルドレだと気付く。

「ちょ、どけよ、血が付くだろ」

ジャックは「ほら」と両手を上げ、血糊を浴びている事を主張するが、

当のジルドレは其れでも構わないと抱き付く腕を緩めない。

どうしたものかと視線を彷徨わせると、ジルドレ以外にも先客がいた事に気付き、

ジャックは彼へ言葉を投げた。

「おい、ハイド。 こいつ引き剥がしてくんねぇ?」

それまで部屋の隅で本を読んでいたハイドは、全力で首を左右に振る。

怖いものには逆らわない。 余計に怖い思いをするからだ。

ハイドの方針をよく理解したジャックは、仕方無いとばかりに、

血濡れた両手のまま、ジルドレを矧がしたのである。

彼の白いブラウスに赤の染みが出来てしまった。 

しかし本人は気にもしていない様子で、にこりと破顔する。 呆れて声も出ないとはこの事だ。 

ジャックは溜息をついてから、胸元から手紙を取り出すと、ぽいと其れをジルドレの方へ放った。

「なにこれー?」

「わかんねぇ。 読んでくれ」

其れだけ告げると、ジャックは部屋の奥へ消える。 身形を整えるのだろう。

ジルドレは手紙を取り出し、ふーんと呟いた。

「17日にドラキュラ伯爵がハロウィンパーティを開くんだって」

「は? あの伯爵が?」

ジャックの声だけが、奥から飛んでくる。 ジルドレも「そうみたい」という声だけ其方へ送った。

「なんか、仮装してくるようにって、書いてる」

「はぁ?」

二度目の疑問符が飛んだ。

「随分と陽気なパーティを開くんだな、おい」

そうしたふたりの遣り取りに惹かれてか、ハイドもそろりとジルドレの脇から手紙を覗きこむ。

ドラキュラからの招待…ということは、あの小さな蝙蝠にもう一度会えるのだろうか。

つぶらな瞳と丸みのある顔を思い出し、ハイドの胸は小さく動いた。

「で? ふたりはパーティに行くのかよ?」

ジャックが漸く顔を出す。 血糊が付いていた両手はすっかり清められ、衣服も着替えていた。

ジャックの問いかけに、ジルドレは逆に尋ねる。

「ジャックは行くの?」

「俺は行くよ。 断ったら何されるかわかんねぇ」

ドラキュラとジャックの仲は、険悪とは言えないまでも友好とも言い難い。

其の為に、暫くはちょっかいを出されないよう、場を諌める意味合いでの参加であった。

するとジャックの意図を解してか解さずか、「だったら僕も行く」とジルドレが応じる。

「ジャックが行くなら、楽しそうだし。 久々に伯爵に会っても良いかも」

と言いながら、明らかにファイティングポーズを取るジルドレには嫌な予感しかない。

「御前…相手の戦意を掻きたてる様な事はしてくれるなよ」

次にジャックはハイドへ視線を向けた。

「ハイドはどうする?」

尋ねられると、ハイドの首は上下に揺れる。

「そっか、じゃあ何に仮装するかだが…」

ジャックが腕を組み、考える仕草を取るが、するとジルドレがはいっと手を上げた。

「ハロウィンはオバケを歓迎する行事なんだから、僕らもとびっきり怖い格好をしよ!」

何を勘違いしているのか判らないが、ハロウィンは別にオバケを歓迎する日ではない。

が、後半は的を得ている意見と取ったか、そうだなぁとジャックは呟く。

「んじゃ、ちょっと仮装の小道具でも集めてくっかな」

御前等も来い、とジャックが一言添えて、塒を後にする。

「待ってー」

ジルドレがジャックの背を追いかけ、再びタックルを咬ました。

この数歩後ろを、ハイドが大人しくついて行く形になる。

 

 

 

時は17日。 場所はドラキュラ伯爵屋敷前。

ジャックがノッカーを叩くと、屋敷の扉が開かれ、其処には客人を迎えるドラキュラの姿…

ではなかった。

「…いらっしゃい……」

現れたのは、顔、腕、胴、脚、あらゆる箇所にぐるぐると包帯を巻き付けた男の姿だ。

背広の上から適当に巻いたのだろうか、隙間から衣服の皺が伺える。

頭部は更に雑に巻きつけており、辛うじて顔が見えるようにはなっているが、

髪が中途半端に零れ、ぼさぼさに乱れてしまっているではないか。

其の黒髪と銀の瞳から判断するに、これの原型がハイドである事を悟る。

「…そんなに見ないで下さいよ……」

とは言うが、普段黒い男が真っ白になっている姿は、実にシュールとしか言いようがない。

否が応にも注目してしまう。 …ひょっとすると、ミイラ男のつもりなのだろうか?

だが注目してしまうのはハイドも同じであるらしく、ジャック達の面々を見ては、目を丸めた。

まず、ジャックである。 

黒の外套を羽織る姿に特に異変はないのだが、口の端から零れる牙、尖った耳を見て、

似たような容貌を身近に感じている分、彼が何に変装したのか一目でわかった。

大きな変装をしていない筈なのに、この男から滲み出る色気は一体なんなのだろう。

其の隣に位置するのがジルドレであったが、此方は丈の長いドレスに身を包んでおり、

髪を上に纏め、実に女性らしく柔和な印象を与えていた。

言葉通り dress(を着て、)(髪を) up したわけだが、ジャックと同様、

口の端に零れた牙と尖った耳により、同じ仮装をしたのだろうと想像が付く。

もしかしたら、被らないように女装したのだろうか。 

女装と言っても、ドレスを着ている本人の顔が女性的である為か、然程違和感は感じられない。

ハイドはあとひとりを探すように視線を彷徨わせ…そして、見つけたと口許を歪ませた。

ジャックとジルドレの背後に、少年のハイドの姿がある。

彼のふわふわした髪からぴょんと生えているのは、狼の耳だった。

全員が見事に仮装しているという事で、ハイドは包帯の奥で笑みを作る。

「素晴らしい、まるで本物の魔族のようですね。 今宵は旨い料理でも楽しんで行って下さいな」

ハイドが踵を返し、屋敷の奥へと招き入れる。 

ジャック達はハイドの背に従い、室内へと足を踏み入れた。

「ねぇ、どーして伯爵が出て来ないの? 此処は伯爵のおうちでしょー?」

ジルドレがハイドの横に追いつき、顔を覗き込むようにして話す。 其処でハイドは溜息を零した。

「えぇ…まぁ、其の…余り茶化さないでやって下さいね……」

質問に対する答えになっていない。 ジルドレが処理に困り、小首を傾げる。

其の彼の様子を見て、更に溜息が零れたハイドであった。

と、応接間から一羽の蝙蝠が真っ直ぐ此方へ飛んでくるではないか。

『ハイド様、大変ですー! 伯爵が、伯爵が!』

ロジャーである。 何やらけたたましい鳴き声を放ち、ハイドの鼓膜を突き回した。

ハイドは顔を顰め、五月蠅いと一喝し…ようとしたところで、裾を引かれたので、其方へ視線をやる。

ハイド少年であった。

「ミスター。 伯爵が大変なんだって」

ハイドが呆気に取られたような表情を作る。 

まるで「君は蝙蝠の言葉が判るのか」と、言わずして表しているようだ。

が、大変と聞いて思い当たる節があるのか、それどころではないとハイドは足を速めた。

「おいおい、一体どうしたんだよ」

ジャックが速度を合わせ、外套を翻しながらハイドに付いて行く。

が、彼の質問に対し、ハイドは無言を返すだけであった。

応接間に着いた。 見ると、テーブルの上には豪奢な料理ばかりが並べられている。

恐らく、どれもドラキュラが作ったものだろう。 が、肝心の作った当人が居ないとは、どういう事だ。

「好い加減にして下さいよ、伯爵!」

ハイドが怒鳴る。 普段声を荒げる事が全く無い男であるだけに、ハイド少年が驚いたように目を丸めた。

驚いたのは少年だけではなく、小さな蝙蝠も同様であるらしい。

ロジャーは竦み上がり、思わず羽ばたきを忘れてしまった。

たまたま落ちた先がハイド少年の頭の上であったから良かったものの、

床に上に落ちれば、其れこそ苛立ったハイドに踏まれ兼ねなかっただろう。

しかし怒鳴った割には、ドラキュラの姿が一向に現れない。

どういう事か理解できないまま、取り敢えずドラキュラを探してみようかとジャックが辺りを見渡し…

不意に視界の中にシャンデリアが入った瞬間、硬直した。

シャンデリアの上に、でかい蝙蝠…じゃない、ドラキュラが潜んでいるではないか。

吸血鬼であるが故の奇抜な身体能力により、そんな妙な所へ移動したのだろうが、

このような状況に至るまでの過程がさっぱり分からない。

「貴様がこのような服を無理矢理着せるから、こうなるのではないか」

ドラキュラの声が上から降って来た。 このような服?とジャックが目を凝らして見てみると。

なるほど。 言われてみれば確かに、ドラキュラは修道女の服を着ているようだ。

宗教に伏する制服である上、女が着るものとあっては、吸血鬼の威厳も損なわれたわけである。

大凡人目に晒せないであろう。 要は、この事態はドラキュラによる極限の照れの表れなのだ。

というか、ハイドに無理矢理着せられたという事だが、ハイドは其の服をどうやって手に入れたのか。

「やだぁ、今度はそんなところに居るの、伯爵」

と此処で、応接間にひとりの少女が足を踏み入れた。

彼女は三人の客人の姿を認めると、微笑み、スカートの裾を摘んで挨拶をする。

「はじめまして。 リジー・ボーデンと申します」

リジーと名乗った少女は黒のドレスに身を包み、頭に小さな角を生やしていた。

背にはどうやら羽根が付いているようである。 どうやら悪魔に化けているらしい。 小柄な悪魔だ。

リジーのあいさつに応じたのはジャックだった。

彼は少女の視線に合わせる為膝を折り、頭を下げる。

「此方こそ初めまして。 今は愛らしい悪魔ですが、普段の淑女である姿にもお目に罹れれば幸せです」

「あら」

リジーはほんのり頬を染め、満足げに笑んだ。

「貴方、私を子供扱いしないのね。 気に入ったわ」

「そんな事より」

リジーの言葉に割入るのは、ハイドである。

「どなたか伯爵を降ろして頂けません? あんなものが上にある状態では食事もやり難いでしょう」

最早ドラキュラをもの扱いか。 

自分が撒いた種であるにも拘らず、しれっと「アイツの所為」的なニュアンスを含ませて発言する辺り、

ハイドの底意地の悪さが垣間見えた気がした。

こいつは相変わらず喰えない男だな…とジャックが心の中で溜息を吐くも、

これに気付いてか気付かずか、隣に居たジルドレが「そういえば」と発言する。

「ハイドくん、銃を持っていたでしょ? 其れで撃ち落とせば良いじゃない」

さらっと恐ろしい発言を言うんじゃネェェェェ!と、ジャックが心のツッコミを繰り出す。 だが。

「いえ、実はもう全弾撃ってしまいましてね」

このハイドの発言に、既に実行してしまうってどうなのよ!とか、

というか伯爵もどんだけ逃げ回ってんだよ! 吸血鬼の能力をこんな事で無駄打ちして良いのかよ!とか、

そういや銃弾を軽く避ける能力を持つ伯爵相手に、

このハイドはどうやって修道女の服を着せたのか皆目見当がつかねぇ!とか、

いろいろツッコみたい事はあったものの、一気に喋るのもなんだか疲れるな、と判断した彼は、

結局隣で押し黙る事しか出来ない。

ハイドとジルドレのふたりだけの会話は、中々カオスなのだと思い知ったジャックなのであった。

が、ジャックがひとり苦悩する間にも、事態は淡々と進められていく。

「そう、なら仕方ないね」

ジルドレはそう一言残すと、テーブルへ歩を進めた。

この上には何があるかと言うと、食欲を誘う香りを立たせた料理、

明らかに甘そうな外観を持つ菓子類、そして…銀食器である。

手始めにナイフを手に持つと、ジルドレは此れを鋭くドラキュラの許へ投げた。

ナイフの刃はドラキュラの頬を幽かに切り、其の背後の壁へ突き刺さる。

ドラキュラは振り返り、改めて刺さったナイフを確認してから、ジルドレへと視線を移した。

「な…貴様……」

この私に向かって、と呟くも、残念ながらジルドレは身の程をわきまえる事を知らなければ、

分別もつかない、例え相手が魔者であろうとヤれるときはヤる、というチャレンジャー精神の塊である。

「さて、次はフォークにしようかな」

ジルドレは宣言通りフォークを握り、にやりと笑んだ。

「今度は外さないよ…」

だから大人しく降りておいで、と言葉の後に続きそうな意味合いを覗かせ、

ジルドレがフォークを構えて見せる。

ドラキュラが低く唸った。 奴の放つフォークをかわせる自信はある。

がしかし、このままでは屋敷の被害が尋常ではなくなる。

冗談ではない、まだ棲み始めて数か月其処らしか経っていないというのに。

「ふん…先代が碌でもなければ、当代も同様に下らん男だ」

負け惜しみであった。 

ドラキュラはシャンデリアから飛び降りると、相当な高さであるというのに、床へ軽い音を立てて着地する。

…スカートを翻しながら。

己の屈辱的な姿の全貌を晒してしまったという事で、ドラキュラが悔しげに下唇を噛んだ。

「まぁ、そんな大した事無いと思うよ?」

ジルドレが呆気なく言い捨てる。

「僕を見てみなよ。 ほらー」

と、彼は其の場で一回転し、ドレスを見せびらかした。

確かに、ジルドレは特に疑問も抱かず女性服を着こなしている。

しかし御前と一緒にされても困る、とドラキュラは思うのだ。

御前は男でありながら女の服を着て、特に何も疑問に感じていないようだが、

私は違う、私は誇り高い嘗てのワラキア国の王であり、今は伯爵と言う地位を持ち、

そして人類の天敵たる魔族の血族なのだ、其の私がこうした屈辱的な行為を受けるのは間違っている…!

とまぁ、其処まで胸の内で怒鳴りつけるも、実際にこの言い分が喉を超える事はなかった。

このジルドレと言う男に説教を垂れても激しく無駄であろう事は、なんとなく予想づいている。

ともあれば、ドラキュラの口から代わりに出た言葉は。

「…御前達、早く席につけ…」

 

漸くパーティ開始の合図が発された。

この後の展開は想像に難くなく、実に賑やかに進むのだろう。

17日のハロウィンパーティであった。

 

終。

***

ナキトさんから頂いたハロウィンコラボ話です!
はい、すいません、貰ったの、
去年です(貰ったの2010、現在2011・・・!/殴 打)
の、載せるのすっかり忘れててごめんなさい・・・!!(土下座)
いやもうその後年明けにパソコンが立ち上がらなくなったりして
データいろんなメモリスティックに保存しててうわーん何処いったー!となってましたが
晴れて見つかったので嬉々として上げられます(キャッキャv)
シャンデリアにシャングリラな伯爵がシュール過ぎて大好きですとだけ告白しておきます(オイ)
遅くなりましたが改めまして素敵作品ありがとうございましたーッ!!

 

ブラウザバック!

11.05.10.from:ナキトさん