それはいつの日の話だっただろうか。
―――夕日の中に、溶けそうな顔をして淡い笑みを浮かべたグレグズンが、今にも消えそうで。
慌ててそれに向かって手を伸ばしたことがある。
『どした、レストレイド?』
こちらが無意識に必死な顔をしていたのか、それに不思議そうな顔で聞くグレグズンの胸に何も言わずに顔を埋めた。
そして頭を過ぎった思いがひとつ。
――――お前は、置いていったら怒るくせに。俺のことは簡単に置いていくんじゃないか?
だけれど、それは口に出さないで胸の中に沈めたまま。
そして離れる手の先を夢想する
――――――伸ばした先に、いつも感じるぬくもりが無かった。
「…………、ぐれ、ぐずん?」
眼鏡を外したぼやけた目で、瞬きをしながら眉を寄せる。
手を伸ばした先にはすっかりと冷え切ったシーツだけが残っていて、少なくともそれだけの時間隣にいるべき人物がいなかったことを告げている。
「……グレグズン?」
今度はしっかりとした声で呼ぶ。
しん、と静まり返った部屋の中に返る言葉は無かった。
手探りに眼鏡を引き寄せて眼鏡をかければ、徐々に夜に慣れた目がそれぞれの家具の輪郭を見せる。
だけれど、寝室の中にやはり相手の姿は無くて。
「グレグズン?」
起こした体から、ぱさりと毛布が落ちた。どこにも見えない人影に、いやな焦りが募っていく。
慌ててガウンを羽織って、そのままひたりと冷たい床に足を付ける。
ぺたり、ぺたりと裸足の足が歩くたびに冷たさを増していく。だけれど、そんなものを気にしている余裕はなくて。
「グレグズン」
名前を呼ぶ。返事の無い部屋の中。
どこにいる?
焦りを抱えたまま、覗き込んだ部屋の中。濃い紙巻煙草の匂いが、鼻をついて――――。
「ぐれぐずん―――?」
部屋のドアの前に、そう言って立ち尽くす。
薄暗い照明の中に見えるのは、ソファに腰掛けてじっと動かないグレグズンの横顔で。
肩に引っ掛けただけのようなワイシャツ。闇に溶け込んだ黒いズボン。灰皿に積まれた煙草の灰と吸殻。
今も指先には一本だけ挟んだそれは、吸われることなく細い煙を上げて煙草の先にぽつんと赤い光をともしているだけで。
それに思わずどくりと心臓が跳ねた。
思い出すのは―――いつの日かの、あの夕日の中。―――溶けそうな顔。
「――――っ、グレグズンッ!」
叫ぶように名前を呼んで慌てて足を踏み出した。ぽとり、と。グレグズンの紙巻煙草の先から灰が落ちる。
「レストレイド―――?」
きょとんとした顔をした名前を呼ばれて、それになんだか泣きそうになってそのまま足を踏み出す。
それを見て、灰皿に煙草を押し付けてグレグズンがふらりと立ち上がる。
踏み出した足を中途半端なところで止まらせるレストレイドに歩み寄ると、そしてそのまま。
「えい」
ひょい、と当たり前のように抱きかかえられて思わず慌てる。
「こら、降ろせ!」
反射的にそう叫び返す。
「やだ。っていうか、駄目だってこんなカッコしてたら」
風邪引くと、いたって真面目に言うグレグズンに言葉をなくして大人しく腕の中に納まれば、そのまま寝室まで逆戻りをしてベッドの上にぽすんと優しく落とされる。
「寒くない?」
「…大丈夫だ、別に」
言いながらそのまま手を伸ばす。ん?と不思議そうな顔をするグレグズンに、低い声で訊ねた。
「………何、してた?」
「紙巻煙草吸ってただけ――だけど」
きょとんとした顔で聞くグレグズンが、それから少し笑って言う。
「寂しかった?」
からかいを含んだ声に何事か答えようとして、目を細める。思い出すのは、夕日の中の微笑と薄暗い照明の横顔。
「――――そう、かもな」
「へ」
否定しなかったことに、きょとんとしたような顔をするグレグズンに何も言わずにそのまま背中を向けて、ベッドの中にもぞもぞと潜り込む。
体を滑り込ませた毛布には、まだ先ほどの自分のぬくもりがじわりと残っていた。
いる気配はするものの、一向に隣に体を持ってくる気配の無いグレグズンに溜息を吐き出して、眼鏡を外しながらぽつりと呟く。
「――――お前の方が、消えそうだ」
外した眼鏡をことりとベッドサイドにおいて、ぼやける視界のまま未だに立ち尽くした相手を見る。
顔の表情は見えることはないけれど、空気を伝って感じるのは驚いたような戸惑ったような相手の感情。
離さないとでも言うように、強く抱きこんでくれているというのに、時たま呆気ないほど簡単に。するりと指先が離れていってしまいそうな気がして。
バカだな、と息を吐き出した途端にぎぃとベッドが軋む。途端に感じるのは上から覆いかぶさるように、抱きしめられたぬくもり。
「――――グレグズン?」
驚いたように名前を呼んだのは、間近に感じたぬくもりが震えていたからだ。
それも、本当にかすかに。
「レストレイド」
「………グレグズン?」
訊ねた言葉に返答はかえらなくて、代わりとでも言うように強く抱きこまれた。そして。
「…………連れてっていい?」
呟くような問いかけが聞こえた。
「――――」
――――どこに。
聞こうとした言葉は喉の奥に留まったまま、声にはならなかった。ただ、覆いかぶさって抱きしめる相手の背中に手を回してぽつりと耳元で呟いた。
「…………置いては、行くな」
微かな頷きが聞こえたような気がして、そのまま息を吐き出されてぎぃとベッドに重みがかかった。
END
名無しさんが水玉の描いた絵(こちら)を元にお話書いてくださいましたーーーーっ!!!
うわあああんレストレイドを何処に連れてくつもりだグレグズン!(爆)
もう、妄想大歓迎ですよ名無しさん!水玉は名無しさんの妄想についていきます☆(コラ)
てゆーかレストレイドを残してベッドから抜け出すなよグレグズンー!
お説教されるよ(誰から)もう!(笑)
名無しさんもネット環境が落ち着かないというのに素敵作品ありがとうございましたーーーっ!!!
ブラウザバックプリーズ!
08.11.27.from:名無しさん