恐怖体験

 

 

「あ〜もぅ、面倒くさいなぁ」

扉を開ければ、玄関で崩れるハイドの姿が真っ先に飛び込んで来た。

普段は寝顔を見られる事を厭い伏せて眠る彼だが、今回は余程気を抜いていたのか、

仰向けに転んで胸を緩慢に上下させている。

普通の人間ならば、安眠を妨害してはならないと彼を避けて歩くだろう。

しかし慈悲も良心も遠慮も知らないジルドレは、ささやかな気遣いも無いのか、大胆にハイドの顔の中心を足場にした。

ぎううう!

「むうっ!」

予想もしてなかった唐突の衝撃に驚き、ハイドは瞼を剥き開く。

一方ジルドレはハイドの被害等興味も無いとばかり、彼を越えて内部の侵入を果たした。

一個一個の部屋を覗き見、「あれ〜?無いなぁ」と呟いては嘆息する。

ハイドは上半身だけ起こすと、最も損傷を負ったとされる鼻を押さえ、じろりとジルドレの姿を睨んだ。

「ちょっと、何で貴方が此処に居るんですか。 鍵は?」

ハイドの言葉に応じるように、ジルドレはヘアピンを此方へ投げて寄越す。 こ、こいつ…

「鍵、壊されなかっただけマシだと思いなよ。 其れより…」

ジルドレは一通り部屋の中を探索し終わったのか、再びハイドの前へ来ると腰に手を当てた。

「ねぇ! ボクがこの前貸したヘアゴム、何処やったの? あれ、お気に入りだったんだから返してよ!」

ヘアゴム? ハイドは赤く腫れた鼻を押さえながら、眉を顰める。 借りたか? そんなもの。

ハイドの反応に、ジルドレはむっと頬を膨らませた。

「貸したでしょ! 1週間くらい前に! 仕事するのに髪が邪魔だって言うから!」

そうでした?とハイドが呟けば、ジルドレはハイドと視線を合わせるようにしゃがみ込む。

「ほら、赤いヤツ! 可愛いリボンが付いてて、白レースもヒラヒラしてて!」

「……ああ…」

記憶の糸を手繰り、確かそんなものを借りた事があったかと思い出した。

妙に少女趣味だったものだから、結局身に付ける事に抵抗を覚え、スーツの胸ポケットに仕舞い…そのままだった気が。

「判りましたよ、返したら帰って下さいね」

ハイドは赤鼻を庇いながら、今羽織っているスーツの胸ポケットを弄り…頬の筋肉を固めた。

ジルドレが小首を傾げ、「どうしたの?」と問う。

「あ、いや…ちょっと…待って下さいね……」

おかしいな…確かにあの後、ヘアゴムをポケットに入れた筈なのだが。

上着をばたばた仰いでも、全身を引っ叩いて見ても、目的のものは見つからない。 まさか…失くした? え、やばくね?

ハイドはそろりとジルドレの表情を盗み見た。 彼は微笑っている。 

目許に暗い翳りを宿し、口の端を不自然な程に釣り上げ、背後に不穏の闇を背負いながら。

「………」

「………」

暫く互いを見つめ合いながらの沈黙が続いたが、遂にジルドレが口を開いた。

「正直に言いなよ。 今なら赦してあげるから」

「本当ですか?」

探るようにハイドが問えば、其のままの笑みを貼り付け彼は頷く。 ならば安心かと単純に考えたハイドが、間違いだったと言うべきか。

「失くしました」

「……ん?」

「失くしました」

二度同じ事を繰り返し、赦してくれるんですよね?と問えば、ジルドレは笑みを一層深くした。

「ハイドくん」

「はい?」

ジルドレはハイドの頭をガシッと引っ掴む。

もう一回踏んで良い?

 

因みに、ジルドレのヘアゴムは別のスーツの中から出てきたとか。(爆)

 

 

END

ナキトさんより戴きましたー!現代パロで!
ナキトさん宅のハイド様が玄関先で倒れ寝てるという小話日記を読んで反応したらこげな素敵なモン戴きました
言ってみるもんだ・・・!(コラ)ジルドレだったら踏ん付けちゃいますと言ったらモノの見事に実行してくださいました(爆笑)
ありがとうございますナキトさん・・・!!連日の仕込み疲れも吹っ飛びます(T▽T)
素敵小説どうもありがとうございましたーーーッ

ブラウザバックプリーズ!

08.04.24.from:ナキトさん