――それは、少し前。彼らの思いが、交差する前のバレンタイン。

 

 

 

未必の好意(or恋?)

 

 

 

 書類を片付けていたレストレイドの前。見慣れた一角で、揺らいだ書類の山が。

  ずざざざざぁー。

  …雪崩た。

 

「……グレグズンッ!!」

 

  ひらりと舞った書類に、青筋を立ててレストレイドが叫ぶ。

  それにだるそうな声が返った。

「あー…、崩れた」

「崩れた、じゃない!良いから拾え!」

  怒鳴りながらも、屈んで書類を拾うレストレイドを、机にだらりと寄り掛かったまま眺めるグレグズン。

  ライトグリーンの目は、眠たげに細められている。

 しばらくの沈黙のあと、グレグズンがぽつりと口を開く。

「レストレイドさぁ」

「なんだ」

  顔を上げもせずに、黙々と書類を拾うレストレイドにグレグズンが疑問を投げた。

 

「疲れない?」

 

  その質問に、盛大に顔を引きつらせてレストレイドが言う。

「…そう思うなら、少しは真面目に書類を片付けろッ!!」

  そういう意味じゃないんだけど。

  ぼそりと呟きながら、グレグズンがのそりと立ち上がり書類を片付け始める。

  グレグズンの言葉の意味がわからず、眉をしかめたレストレイドだが結局追求せずに再び書類を拾うのに向き直った。

 

  何枚目か忘れた書類にサインをして、レストレイドはため息を吐いた。ちりちりと、痛みを伴う頭に眉をしかめて眼鏡を押し上げる。

  遅い時間帯の捜査課。

  空いた机が目立つようになってきた中、レストレイドはまだ座ったまま立ち上がる気配は無い。

「レストレイドさん、大丈夫ですか?」

  そんなレストレイドに声を掛けたのは、ホプキンズである。

  僕も手伝いますか?と、首を傾げるホプキンズにレストレイドは苦笑で応えた。

「いや、いい。お前だって、ここ最近ずっと捜査だっただろう。今日は帰れ」

「ですけど…」

  尚も心配げな年少警部。

「大丈夫だ。それに、これは俺の仕事じゃなくてグレグズンの奴のだ」

「…へ?」

  どうして、グレグズンさんの書類をレストレイドさんが?

  そんな疑問を顔に浮かべたホプキンズに、レストレイドが低い声で言う。

「…五回だ」

「へ?」

「今日、グレグズンが書類を雪崩させた回数だ!重要書類もあるんだぞ?!放っておけるか、それを!」

 力説するレストレイド。

「…え、と。それで、グレグズンさんは」

  当の本人が机にいないのを指摘すれば、レストレイドは答えた。

「捜査に行かせた。いきなり上からの依頼仕事だったからな」

「はぁ…。やっぱり、僕も手伝い「大丈夫だ。いいから、帰れ」

  きっぱりとした言葉に、ホプキンズが眉を下げる。

「じゃあ…、すみません。お言葉に甘えます」

「元を言えば、こんなに仕事をため込んだグレグズンが悪いんだ。気にする必要は無い。…気を付けて帰れよ」

「はい。あ、そうだ」

  ごそごそとポケットを探ったホプキンズが、何かを机に置いた。

「これ、どうぞ」

  置かれたのは数個のチョコレートである。

「チョコ…?」

「バレンタインですから」

「ああ…」

 ずいぶんと縁の無い日だと思いながら。

  邪気の無い笑顔で告げるホプキンズに、レストレイドはありがたくそれを受け取った。

 

  *****

 

「…レストレイド?」

  紙巻煙草の火を消しながら、低い声で名前を呼ぶ。  聞こえるのは、静かな寝息。机に突っ伏したまま眠っているレストレイド。

「やっぱり、疲れてるんじゃん」

  しかも、俺の仕事までやっちゃって。

  真夜中の捜査課。

  いるのは眠っているレストレイドと、グレグズンだけである。

「風邪引くぞー…」

  気の無い声で言いながら、眠っているレストレイドの顔を眺める。

  普段、眉が寄せられている眉間は緩んであどけないと言っていい寝顔。

「…きれーな顔してんのに」

  もったいないよなぁ、と本人に言えば怒鳴られそうなことを考えた。

『疲れない?』

  そう言ったのは、問い掛けではなくむしろ実感しての言葉だ。

 真面目な分、こんな仕事では人一倍ストレスが溜まるだろうし、本人は手を抜かない。

  どこかで、気を抜けばいいのにといつも思う。

  そんな感慨を込めた言葉の真意は、当たり前だがレストレイドに届かなかった。

 まぁ、ストレスを掛けている側の人間に言われてもレストレイドも嬉しくないだろうが。

  ――さて、それでこいつをどうするか。

  起こすのは少し、忍びない。だからと言って、放置するのも気が退けた。

「お、」

  ふと見回した課の中。誰かの椅子に掛かっていた毛布を取って掛けてやる。

  まぁ、少しはマシだろう。

  思いながら、グレグズンは首を回す。

「さてと、帰るかね…」

  言いつつ、ふとレストレイドの机の隅に乗っている数個の包みに目が行った。

「チョコレート…?」

  そういえば、今日はバレンタインデーか。あまり、レストレイドに似合わない行事だなと思いながら、グレグズンが一つ包みを取り上げた。

  おもむろに、それを口の中に放り込む。

「あまー…」

  呟きながら、レストレイドの頬をつつく。

  僅かに眉を寄せたが、やはり起きる気配の無いその様子に少し笑った。

「ご馳走様」

  機嫌の良い声が口から滑り落ちた。

  甘い口触り。それを味わいながら、グレグズンは捜査課を一人後にした。

 

  これから二人の感情が重なるのは、まだ先の話のこと――。

 

 

 

 

END

 

ほぎゃー戴いたのはバレンタインの時期なのに気づけばさんがつ・・・!

す、すみません名無しさん・・・!

いつもいつもありがとうございます(T▽T)

今回はカップルになる以前とあっていつものグレレスと違いますね^^

これが後々ベタベタの甘々カップルになると誰が予測できただろう(笑)

素敵な作品をありがとうございました!

 

ブラウザバックプリーズ!

 

08.03.01.from:通りすがりの名無し人さん