今年も、ありきたりの一ページが

 

 

 新年も明けて、しばらくがたち日常に日々が回帰しつつあったある日。

 なんとも穏やかな冬の日差しを窓際で受けながら、アルセニー・ジョーンズは前方にいる二人を見やった。

 

 片方は、緑を加減によって帯びる金髪。

 もう片方は、繊細そうな青灰色の髪。

 同室のトバイアス・グレグズンと数学教師のジョージ・レストレイドだ。

 

 その二人は先程から、なにやら会話を繰り返していた。

 

「だから、先生?聞いてますかー?」

「聞いているっ!聞いているが、お前は少し黙れッ!!」

 

 飄々とした顔で話しかける生徒に、真っ赤な顔で翻弄される教師。

 構図が普通は逆なのだろうが、この二人はそれが常態だ。

 …というか。

 

「…今は数学の時間ではないのか?」

 

 呟く言葉は付近にいた生徒達全員が肯定した。

 間違いなく数学の授業中。つつがなく進んでいたはずのそれは、グレグズンが問題を解くために黒板の前に立ったのが、崩壊の序章。

 

 曰く、「正解したら、ご褒美にキスしてくれませんか?」と。

 

 その台詞の後から、かれこれ十五分。

 二人の口論なのか、痴話喧嘩なのか、いちゃついているのかよく分からない攻防が続いている。

 ちなみにこの教室に二人の会話に入っていく猛者はいない。

 全員が『何も見ていない、何も起こっていない、何も聞こえない』と呪文の言葉を繰り返しながら、静かに自習に励んでいる。

 

 三年間で培った対応能力は素晴らしい。

 

 これも卒業すれば、よき思い出の一ページになるだろう。

 そうどこか他人事にアルセニーは考えている。

 

「あーッ!もう、いいッ!!解かなくていいから、席に戻れッ///!」

「なんでですか?そんなに俺とキスするのいやなんですかー?」

「…お前はっ、人目を少しは気にしろ!他の奴らだっているだろうッ」

 

(((((((いやでは無いのか?)))))))

 

 無言のツッコミが聞こえた気がする。

 しかし、そんな事を壇上の二人は気にしていない。

 

「大丈夫ですよ、皆ちゃんと自習してます」

「お前のせいだろ?!」

「そうですか?」

 

 あくまで飄々と返事をするグレグズンに、疲れたようにレストレイドは息を吐き出す。

 そして言う。

 

「本当に…、大体なんでそんなに………きす、したいんだ」

 

 だから、レストレイド先生。

 赤くなってそんなこと言っちゃあ、駄目ですよ。

 

 思ったが、賢明なクラスメイト一同はそれを口には出さなかった。

 グレグズンは食えない微笑みを浮かべて、レストレイドの顔を覗き込みながら言う。

 

「思い出作りです」

 

「…思い出?」

 

「だって、僕卒業しちゃうじゃないですか」

 

 だから、今のうちにいっぱい思い出を作っておこうと思いまして。

 

 にっこりと微笑みながら、そういうグレグズン。

 青灰色の瞳がそれを聞いて、かすかに曇った。

 

「? 先生?」

 

 その反応に、グレグズンが顔を覗き込む。

 レストレイドはそれから慌てて顔を逸らした。

 

「どうしました?僕、なんか言いました?」

「どうもしないっ、なんでもないッ!近寄るなッ!」

 

 必死に顔を逸らそうとするレストレイドの抵抗を、難なく抑え込んでグレグズンはその顔を覗き込む。

 

「レストレイド先生」

 

 ちゃんと俺のことを見て、言って下さい。

 囁く言葉に、僅かに下に青灰色の瞳を逸らしたままレストレイドがぼそりと呟く。

 

 

 

 

「…思い出、って言うから」

 

 

 

 ぽつりと呟いた言葉に、グレグズンは首をかしげた。

 

「卒業したら、俺の事なんてただの『思い出』になるんだろッ……」

 

 僅かに擦れた声でそう言って、青灰色は瞳を伏せた。

 

「……俺は、お前のことそんな風にする気は無いのに…っ」

「……レストレイド先生」

 

 レストレイドの言葉のすぐ後に、グレグズンがひしとレストレイドを抱きすくめた。

 驚いて必死に腕から抜け出そうとするレストレイドの耳に、グレグズンの珍しく上擦った声が聞こえた。

 

 

「あー……、どうしましょう。先生。俺、本当に先生のこと大好きです」

 

 

 青灰色の髪に顔をうずめながら、耳が赤く染まっているグレグズン。

 その声に、抵抗を止めたレストレイドが名前を呼ぶ。

 

「……グレグズン?」

 

「レストレイド先生、大丈夫です。俺は卒業した後もずっと、先生のことが大好きです。

 『思い出』っていうのは、あくまでも教師と生徒としてのってことです」

 

 だから大丈夫ですよ。

 

 言いながら髪にキスをする相手に、レストレイドが顔を赤く染めた。

 

 

 

 顔を赤くして、教壇のど真ん中で抱き合う二人にクラス全員が視線を逸らした。

 ある者は教科書へ、窓へ、天井へ。

 しかしながら、思うことはただ一つである。

 

(((((((どっか他所へ行ってやれ、お前ら)))))))

 

 

 

 

 そんなクラスメイトの様子と、珍しく照れて顔を赤くしているグレグズンと、

 抱き締められているレストレイドを窓際で眺めながら、アルセニーは満足そうに頷いて見せた。

 

 今日もまた平和な日々である。

 

 

 

 END

 今年も漏れなくいただいてしまいました。
 名無しさん、今年もありがとうございまーす!!!!(感謝多謝)
 ホント戴きっぱなしですみません・・・!このご恩は必ず!(グッ!)
 え、こんな授業あったら積極的に学びに行きますが何か。(笑)
 モグリでも何でもしますよ!!(爆)
 この度は珍しくグレさんも照れててグヘヘvです(キモ☆)
 もういっそ教壇の影に押し倒してやっちゃってもクラスメイトは黙認してくれるんじゃなかろうか(ええー)
 こちらこそ今年もよろしくお願い致します名無しさん!!
 どうもありがとうございましたーーーッ!!!

 ブラウザバックプリーズ!

 08.02.02:通りすがりの名無し人さま