ハロウィンも終わって早一月近く。
けれどそんなことなど意にも介さず今宵も霧の街には悲鳴が響いた。
化物(けしょう)の揮う死貴棒(しきぼう)に誘われ、奏でらるは狂葬曲。
宴はほんの刹那の泡沫。
夢であれと願うような惨劇の跡に。
伸びてくる影二つ。
〜百鬼夜行〜
シャーロック・ホームズは馬車の中で物思いに耽っていた。
先程見聞してきた殺人現場を思い出していたのだ。
倫敦の裏道、石畳の上に血の花が咲いている。
冬の寒さに半ば凍り付いたそれの中心には既に事切れて何もにも勝る冷たさを纏った肢体が一つ。
現場にいた警官達は青い顔をしていたが自分はそれをなんの感情も無く見つめていた。
一切の感情を斬り捨て機械的に情報を集める。
そしてそれを自分の中で再構築し、殺人者と自分を重ね合わせる。
どのような歩みで被害者に近づいたか。
どのような言葉で被害者の警戒を解かしたか。
どのような顔で被害者を引き裂いたか。
いつもの事であるが、かなり容易にその想像は組あがる。
それはきっと自分が彼等と同類だという証だろう。
組み上げられる想像の中で、返り血を浴び、悲鳴を耳にして恍惚に酔いしれている殺人者の顔は自分であった。
これもいつものこと。
顔の分からない犯人を追っているわけだから仮定として自分の顔が置かれるのは当然かもしれない。
もう一ついつも思うことがある。
自分ならもっと巧く殺して魅せたのに。
実際最近はただ稚拙な事件ばかりが増えていて飽き飽きしている。
今だってすぐ側でおこったもう一つの現場へと向かっている最中なのだ。
どうせ人の命を奪うなら徹底的にやるべきだ。
何の証拠も残さず、その上で決して事故や自殺になど見えない明確な殺人で無ければならない。
例えば今自分の正面に座っている彼を手にかけるならどういう方法が良いだろう。
彼は今警察から受け取った資料に目を通している。
狭い馬車の中には彼と自分の二人きり。
二人きりである以上、彼が死ねば真っ先に疑われるのは自分である。
それをどう切り抜けるか。
考えただけでゾクゾクと興奮が身体の芯から湧き上がってくる。
不意に、目の前の彼が顔を上げてこちら見た。
「どうかした?」真っ直ぐに見つめてくる碧色の瞳。美しすぎて吸い込まれそうになる。
「別に。」考えを読まれてしまいそうな気がして思わず目を逸らした。
視界の片隅の彼は訝しげな顔をしている。
出来るだけ平静を装ってはいるが、自分がかなり動揺しているのが分かった。
自分自身が恐ろしくなる。
身体が疼き、衝動が荒れ狂う。
いつか、自分は彼を殺してしまう。
あり得ない、そう言い切れない不安が頭を支配し、目の前の彼が立ち上がり自分の正面から隣へと席を移したのに気づくが一瞬の遅れた。
反射的に移動した彼の方へ顔を向けると、何故か彼の顔が目の前にあった。
寒い寒い冬に、首に腕を廻され触れあう唇から温もりが伝わってくる。
「どうしたんだ?いきなり。」唐突な口づけの後にやっと声を発した。
「・・・何となく、こうした方がいい気がして。」事も無げに彼は答えると、また資料に目を通し始めた。
横幅の広い座席にも関わらず彼は自分のすぐ側に近づいてくる。
敵わないな。
心地よい敗北感を感じながら己の心の命じるままに彼の肩に腕をかけ、優しく抱き寄せた。
多分言葉は必要なかったであろうが、それでも彼は大事そうに一言だけ呟いてくれた。
「ちゃんと側にいるよ。」
現場に到着し馬車が止まった事で寄り添っていた時間はほんの僅かであったが、それで充分だった。
互いに声をかけるでもなく、馬車を降りる。
ハロウィンも終わって早一月近く。
けれどそんなことなど意にも介さず今宵も霧の街には悲鳴が響いた。
化物(けしょう)の揮う死貴棒(しきぼう)に誘われ、奏でらるは狂葬曲。
宴はほんの刹那の泡沫。
夢であれと願うような惨劇の跡に。
伸びてくる影二つ。
それは何者にも汚されぬ、光を纏った証。
END
JBさん復活おめでとうございます!!
というわけでJBさんから復活のご挨拶にホムワト小説を頂いてしまいました・・・!!
嬉しい・・・!嬉しすぎる・・・!!(グッ)
11月22日(いい夫婦)にかけて下さったそうで、妻が夫をリードしとります(笑)
犯罪と法の間で紙一重なホムズが大好物な水玉にはヨダレものですvvv
JBさん素敵な作品をどうもありがとうございましたーーー!!
そして声を大にしておかえりなさーい!!!
ブラウザバックプリーズ!
07.11.23.from:JBさん