「色なら青系とかですかね?」
「意外性を狙ってピンクにしてみたら?」
「どうせなら、チェックのど派手な柄にしてやろうぜ」
「…お前ら、真面目にやる気があるのか」
「無いだろうな」
そんな会話が繰り広げられたのは、十一月の初めのこと。
十一月の父の日より
びぇええええええッ!!
ヤードの捜査課に、普段ならば聞こえることすらありえない赤ん坊の泣き声が響き渡った。
「…誰のコ?」
どうでもいいけど、仕事場に連れてくるなよ。
言いながら、書類の山から身を起こして欠伸をしたのはグレグズンだった。
「仕事場で寝ているお前が言うなっ」
怒鳴り声に視線を向けて、ライトグリーンの目をグレグズンが瞬かせる。
目線の先にいたのはレストレイド。
そして、その腕に抱かれているのは、泣き声をあげるまだようやく首が据わったばかりだろう赤ん坊。
「…レストレイド」
それを見て、グレグズンが聞く。
いつ産んだの?
「俺が産むかッ!!!///」
「え?だって、あれだけしてればできるかなって「できるかッ!!」
そんな二人の応酬に、ますます腕の中の赤ん坊の泣き声が大きくなっていく。
「もう、駄目だ!代われ、ホプキンズっ!!」
「ええええぇっ!?無理ですよ、僕、赤ん坊なんて持ったこと無いです!!」
必死の主張にもかかわらず、レストレイドに赤ん坊を押し付けられるホプキンズ。
恐る恐る抱いた一瞬、泣き声が収まったが、またすぐに泣き出す赤ん坊。
「ちょ、誰か代わってください!!」
そんなホプキンズの叫び声に、ひょっこりと捜査課の部屋に顔を出したのはブラッドだった。
「ホプキンズー、そのコどうしたの?レスさんが産んだの?」
「だから、どうして俺が産むッ!?」
「だって、グレさん激しそ「子供の前でなんてことを言うんだお前はーッ!!」
「どうでもいいから、誰か代わってくださいーッ!!」
そんなやり取りを聞きつつ、グレグズンがいつの間にか立っていたアルセニーに聞く。
「で、結局どーしたの。あのコ」
「道端に置き去りになっているのを、捜査中にレストレイドが見つけたらしい。さっきまでは寝ていたから静かだったんだがな」
「ふーん。…しっかし、すごい泣き声だな」
びぇえええええッ!!
「…なんの騒ぎだ?」
のそり、と捜査課に姿を現したのはピーターだった。
大混乱の捜査課の様子に、些か呆れたように眺め回す。
「ん?どうした、その赤ん坊」
ホプキンズが必死にあやしている赤ん坊に気がついて、ピーターが眉を寄せる。
「グレさんとレスさんの子ど「違うッ!道端に置き去りになってたんだッ!」
ブラッドの言葉を必死に遮ってレストレイドが叫ぶ。
「ピーターさんッ!お願いしますッ!!」
ホプキンズが赤ん坊をピーターに明け渡す。
「おいっ、俺は子供は苦手……」
あぅ…。
「「「「「あ」」」」」
「は?」
慣れない手つきながら、なんとか赤ん坊を抱きかかえたピーターの腕の中で、赤ん坊がぴたりと泣き声を止めた。
「…ピーたん」
グレグズンが、机に肘を突きながら訊ねた。
「隠し子?」
******
なんとか泣き止んでくれた赤ん坊は、未だにピーターの腕の中。
その様子を眺めながら、ぐるりと席を連ねるヤードの警部連。
「それで、結局どうする?」
アルセニーの言葉に、ピーターが腕の中の赤ん坊を眺める。
「どうするってもなぁ…」
「本当に捨て子だと決まったわけでもないしな」
先ほどの騒ぎで疲れたのか、小さく溜息を吐きながらレストレイドが眼鏡を押し上げた。
「ピーたんの隠し子じゃないの?」
「だから、どうしてそれにこだわる」
「ヤードのお父さんが本当のお父さんになっただけじゃん」
なんだ、ヤードのお父さんって。
思いつつ、ピーターはグレグズンの言葉を否定する。腕の中の赤ん坊は、先ほどまでの騒動が嘘のように静かに寝ている。
「僕、ちょっと調べてきますね」
「あ、ホプキンズ、僕も行くー♪」
ヤードの若手二人が立ち上がる。とりあえず、後の面々はピーターの仕事を分担して受け持つことにし、ピーターは今日一日保護者に徹することとなった。
******
「…疲れた」
ぐったりと呟くのは、ピーター。
赤ん坊の世話というのは以外に重労働であることを、今日一日で彼はだいぶ学んだ。
おしめの世話から食事の世話まで、わからないことが山積みだった彼は某探偵の下宿の女主人に教えを請いに出かけてまで来たのだ。
現在、腕の中の子供はすやすやと眠っている。
「何か、そういうとこ見ると本当に親子みたいだなー」
「うむ。まるで父親のようだ」
グレグズンとアルセニーの言葉に、ピーターががっくりと肩を落とす。
俺は一体、いくつに見られているのだと思いながら、腕の中の赤ん坊を抱えなおす。
「紅茶飲むか?」
「…ああ、頼む」
「あ、俺も手伝うわ」
レストレイドの背中を追って、グレグズンが歩き出す。
アルセニーがそんな二人を眺めてから、ピーターの腕の中の赤ん坊に視線を落とす。
「よく寝ているな」
「そうだな。お前も、抱いてみるか」
「我が抱いたら泣くと思うが」
確かに、と否定せずに黙り込むピーター。そこに廊下からばたばたと足音が聞こえた。
「見つかりましたよっ、ピーターさん!」
ホプキンズの声に、寝ていた子供がぱちりと目を開けて、泣き声をあげた。
******
事の仔細を聞けば、別に捨て子でもなんでもなく。
子連れで商売に来ていた夫婦がいたのだが、妻が疲労で倒れ動揺した夫が子供を忘れて、そのまま医者に走ってしまったのだ。
そんなこととは露知らず、静かに眠っていたのを発見したのがレストレイド。
かくして夫婦に無事に子供は引き取られたが――。
「お父さん、ピーターさんに似てましたねぇ」
ホプキンズが紅茶を啜りながら言う。
血相を変えて駆けつけた夫婦の夫は、とてもがっしりとした体躯をした男性だった。
「似てたからなついたんだね、きっと」
言いながら、さくさくと菓子を摘むのはブラッドだ。
「しっかし、ねぇ」
紙巻煙草に火を点けながら、グレグズンがピーターに言う。
「あのコも、こんなガタイの良いおじさんになっちゃうのかねぇ」
「悪かったな、ガタイがよくて。それにまだ決まったわけじゃないだろ」
それにアルセニーが言う。
「しかし、名前が『ピーター』だからな」
そう、夫婦に聞いたあの赤ん坊の名前も何を隠そう『ピーター』だったのだ。
「いや、名前関係ないだろ」
「そうもそうだな」
ピーターの言葉に頷くレストレイド。
しかし。
「わからんぞ」とアルセニー。
「わかんないぞ」とグレグズン。
「わからないですねぇ」とホプキンズ。
「わからないよね」とブラッド。
そんな輪唱に紅茶を啜る音が響いた。
******
「あ、そうだ」
しばらく経って、ごそごそとなにやら探し出したグレグズンが、包みを取り出した。
「はい」
それをピーターに渡す。
「…? なんだ、これ」
「誕生日プレゼント」
「は?」
きょとんとした顔のピーター。
「普段お世話になってるから、俺たちからのプレゼント」
「ありきたりですけどねー」
照れたように笑うホプキンズと、悪戯っぽい顔をするブラッド。
相変わらず飄々とした顔のグレグズンに、なんとなく気まずそうに顔をそらすレストレイド、そして超然としたアルセニー。
「あ、ああ。…悪いな」
呆気に取られながらそう言うピーターに、アルセニーが口を開いた。
「これからも頼むぞ、お父さん」
「はぁッ!?」
だから、どうして俺が親父なんだ!?
そんな心の声も届くことなく、次々と掛けられる声。
「よろしくお願いします、お父さん」
「よろしく、お父さん」
「頼りにしてるぞ、ピーターお父さん」
******
ちなみにプレゼントの中身は、渋い深緑のネクタイだった。
それを取り出しながら、なんだか子供にプレゼントをもらったような父親の気分になって。
父親でもいいかと、思ったピーターがいたとかいないとか。
Happy Birthday SCOTLAND YARD'S FATHER!
END
もぎゃーまさか影の薄い(コラ)ピーターの誕生日に小説いただけるなんて思いもよらず・・・!!
名無しさんどうもありがとうございます!!幸せです!!(号泣)
そしてパソコン復活おめでとうございます!
いやもうなんか皆が皆赤ん坊見るたびにレストレイドの子とか言うのにニヤニヤしてました(ニヤリ)
さりげに『超然としているアルセニー』の行で笑いました^^すげえなアルセニー!!(笑)
いつもいつも貰ってばっかですいません!!このお返しは必ずや!!(グッ)
素敵作品どうもありがとうございました!!
ブラウザバックプリーズ!
07.11.19.from:通りすがりの名無し人さん