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昼間では身分に五月蝿い倫敦も、夜の帳が落ちてしまえば全ての階級は平均化される。

其の証明は、夜鷹にありつく貴族連中を見れば明らかと言うより他は無い。 

まるで、闇に覆われてしまえば目先の悪も判らぬとばかりの大胆さで以て、彼らは紳士らしからぬ態度で女を甚振るのだ。

娼館では決して出来ない残酷な遊戯を嗜み、男は征服欲で、女は苦痛で心を満たした。

こうした虚ろな社交は、主にスクウェアの隅の目立たない路地裏で行われる。

例えば、そう。 丁度今、若者が歩いている道等が此れに該当した。

時折視界の隅に移り込む、壁際に立つ男女の姿。

今宵の月は雲に覆われがちである為、彼等の詳しい容貌等は明らかになるまいが、

其れでも二体の影が蠱惑に重なり合っている故、何をしているかは明らかであった。

他人の目合いには大した興味も抱けないのか、彼は足を留める事無く素通りを決め込む。

上品な作りのシアン・ブーツが煉瓦敷を軽く穿ち、小気味良い靴音が闇夜に響いた。

周囲の情景を後ろに流し、此れを追う様に若者の長髪はゆったり棚引く。

指を埋め込めば抵抗無く梳けるであろう其れは、質が蒼と云うだけあって、軌跡は常に其の色を纏っている様にも見えた。

しかしながら稀有な色彩を持つにも関わらず、彼に視線が注がれる事は余りにも無い。

恐らく、時と場が悪かった。 此処には、目前の悦楽しか優先できない低脳の野獣しか居ないのだから。

互いに重い肉体を鬻ぎ、揺すりのたうち、崩れる様な奈落を味わう。 

そうする事でしか、人は自分という人格を繋ぎ止める事が出来ない。

この蒼の若者とて、斯様な真意には充分な理解を示しており、

そして彼等より表現の仕方が激しいものの、此れを実行する多くの内の一人であった。

前触れとしては…相手にされない一夜を退屈に思う、些細な思考から始まる。

そして次の瞬間、麗しい外見に似合わぬ呪わしい思案が胸中を占めるのだ。

いっそ、此処に居る者全てを手に掛けてしまいたい…こんな具合に。

今事を起こせば、接合したまま絶えた死体も出来るかもしれない。 なんと素晴らしい芸術!

こうもなれば、実行に移るのに後は数秒を費やすだけである。

若者を邪悪だと罵るならば、其れは間違っている。 彼にとって虐殺は悪戯であり、陵辱は冗談でしかない。

いっそ己の心に対して素直に動くという点に於いては、見習うべき事実とも言えよう。

一度考えを思い起こしてしまえば、後戻りを知らない彼である。

早速命を奪う手頃な道具はないものかと、目線を辺りに走らせ物色した。 其の時。

軽快な平手の音が、彼の耳殻に入ったのだった。 静かで呪われた交配の場には、凡そ不似合いである。

此れには好奇が掻き立てられたか。 若者は漸く足を留め、音源を視界に入れてみた。

其処には二人の男女の影。 女が何か喚いている。 しかし訛りが強い為、異国人の彼には良く聞き取れない。

男はというと、女の言い分に反論する様子も見せず、一切の言葉を挟まないのだった。 

唯地面に視線を落とす其の姿は、無理に捻じ込まれる喧騒を只管遣り過ごしている様に見えなくも無い。

気が済んだのか、やがて女が身を引き、去ろうとした。 しかし、其処で初めて男が行動を起こす。

女の手首を掴んで引き寄せ、彼女の身体を抱き込んだのだ。 嗚呼、まるで情緒溢れる戯曲の様な展開。

若者は溜息を吐いた。 何だ、何処にでもある三文芝居だったか…と。

決めた。 先ずは奴等を殺してやろう。 下らない演劇を見せてくれた御礼として。

だが次の瞬間、彼の反れ掛けた興味は、再び男女に注がれる事となる。

響き渡る発砲音。 倒れたのは女。

男の右手にはリボルバーが収まっており、トリガーに人差し指を掛けた仕草は実に挑戦的に見えた。

流石に銃声の音に驚いたか、周囲で疎らに散っていた退廃の男女が、僅か身を竦める。

しかしながら彼等に構う事無く、男は悠然と短銃を懐に仕舞うと、序に煙草を其処から取り出し、口に含んだ。

マッチで適当に火を点けてから、何事も無かったかの様に其の場を去る。

男女は呆気に取られた様子で、冷淡な男の後姿を唯唯見送るばかりであった。

若者も、最初は驚いた様に立ち尽くしていたものだ。 が、恐怖は無い。 寧ろ、後に芽生えたのは歓喜であったか。

あの女は汚れた断末魔を挙げる事無く、身体を醜く切断される必要も無い侭、綺麗に逝った。

なんと素晴らしい芸術! 

或る行為によって残されるものではなく、其れが出来る過程に於いての本質を突き詰めた、実に繊細な仕事である。

若者は思った。 この殺し方は知っている…と。 以前、何処かのパブで似た様な死体を見た事があったから。

そして、其の死体の傍には…そう、何時もあの男が居た。

闇と同化する事を望むかの様な出で立ちをしており、決まって羽織る背広は漆黒。

髪質も似た様なもので、此方は夜空を貼り付けたかの様に滑らか且つ陰鬱である。

男は見た目を裏切らない性癖を持っており、狭い法には収まり切れない程の悪徳を知っていた。

そう、この路地で存在する不法が薄く感じられる程に、深く、暗い罪悪を。

若者にとって、男は【今の所】お気に入りの人物とも言えよう。

暗がりの為に悟れなかったが、今なら判る。 あの男が誰なのか。

男の出現により、彼の止まりかけた血液の流動は高まる。 瞳孔が開き、昂ぶりを隠そうともしない。

最早雑魚等視界にも入りはしない。 若者の焦点は或る一点に留められたのだから。

彼は、先程消えた男の影を追った。 女の身体を踏み付けた気がしたが、構わない。

 

 

 

「女は厄介ですよ」

ハイドの左頬には、僅かな赤みが差している。 

裏路地で見た女の剣幕を思い起こせば、ジルドレはハイドの言葉の意味を理解出来た。

「何となく判るよ。 可哀相だから、今日は僕が奢ってあげる」

ジルドレは、カウンターで構える店主に注文を取ろうとする…が。

「幾ら奢るのです? 四分の一パイント(Gill)のスタウトかな?」

ハイドは口の端を横に引いて、皮肉に笑った。 女に平手を喰らっても、憎まれ口は健在らしい。

ジルドレは不満気に唇を尖らせ、店主へ告げる。

「捻くれた男が、素直になれる薬を頂戴!」

店主が失笑し、薬屋へ行っても有りますかね…と呟きながら、棚に据えられた幾つかの瓶へ手を伸ばした。

ジルドレがハイドに追い逢った後、2人は何となく手近のパブへ足を運んだ。

彼等の出逢いは常に、何処かのパブで行われた。 今回だけ其の法則に反するのは、居心地が悪かったのかも知れない。

其れにジルドレとしても、ハイドが何故女に頬を張られたのか、理由を聞いてみたい下心が有る。

ゆっくり話を聞く為に酒の場が必要な事は、ハイドの嗜好を探れば明らかであった。

やがてジルの前にロングカクテルが、ハイドの前にシャンディーが置かれる。

ハイドは冷えたグラスを腫れた頬に押し付け、不機嫌に眉間の皺を深めた。

ジルドレはそうした彼の仕草に笑みを浮かべながら、で?と本題へ突っ込む。

「原因は何なの? ハイドくんの様な人を張るぐらいだから、よっぽどの…」

「誕生日ですよ」

ジルドレの台詞を割り込む形で発された其の言葉に、彼は「え?」と首を捻った。

「誕生日? 何其れ」

「『私の誕生日、忘れてたの!?』と…」

或る程度頬を冷やした後、ハイドはグラスの縁に口を付け、傾ける。 ジルドレも其れに習い、一先ずカクテルを口腔に含んだ。

ハイドの眉間の皺は、弱まる事が無い。 どうやら酒の味が甘いらしい。

甘味には抵抗が無いジルドレは、此れにも笑いながらハイドのグラスを取り上げ、注文を仕切り直す。

今度は純粋なビールがハイドの前に置かれると、彼は口直しとばかりにグラスの中身を大いに減らした。

機会を見計らい、ジルドレは尋ねる。

「えー、どういう意味? 僕には良く判らない」

ジルドレにとって正常な異性間の営みは無縁、故に彼が女の領域等計り知れる筈も無いのだ。

其の点ハイドは、性別を分け隔てなく交わる事に長けている。 

こう見えて、男の繊細な心持は勿論、女の微妙な心情の変化も理解しているつもりであった。

ハイドはグラスを置き、口を開いた。

「以前気紛れで抱いた事のある女でしたが、どうやら其の時に誕生日を教えてくれたのでしょう。 …覚えて無いけど」

懐から煙草を出し、此れを銜えて火を点ける。 適当に煙を吐いた後、彼は続けた。

「で、今日が其の誕生日だったらしい。 何故祝ってくれないのか…女はそう云った些細な事で怒る生物ですよ」

勿論ハイドは、女の言葉を其の儘受け取る程、愚かでは無い。 

何故なら彼は、女性が常に意味深な駆け引きを望み、屈折的に生きている事を知っているのだから。

この男に言わせれば、女は決して誕生日を祝って貰えない事に不満を抱いたのではなく、

あくまでハイドの気を惹きたいが為に、怒りの演技を見せたに過ぎないのだ。

だが、この様な説明が果たしてジルドレに受け容れられるだろうか。

……恐らく、無理だろう。 彼は其れ程までに、女性とは疎遠の存在なのだから。

仕方なく、「面倒だから無理矢理口を閉じて貰った」とだけ言い、余分な説明は大幅に外した。

だが、ハイドの配慮も虚しく…ジルドレはというと、生返事を返すのだった。

ハイドは内心で肩を竦めた。 やはり彼に、女性の話は凡そ理解出来ないものだったか。

しかしハイドの思案を裏切る様に、ジルドレは怪訝の色に表情を染めつつ、ぼやく。

「誕生日ねぇ… そう云えば、僕も…」

言い掛け、否と打ち切る。

「気の所為かも。 何か曖昧だしー?」

どうやら、ハイドの台詞を耳にして思い出した事があったらしい。

一度出し掛けた話題程、気掛かりなものは無い。 ハイドの好奇心が頭を擡げた。

「何です? はっきり言わないと判りませんよ」

ジルは甘ったるいカクテルの入ったグラスを空にしてから、少し躊躇う仕草を見せる。

普段呆気羅漢としている彼らしからぬ態度に、ハイドは益々興味をそそられた。

再度促してやると、ジルドレは照れた様に少し笑みつつ、漸く答える様子を見せた。

「丁度、今頃じゃなかったかな。 僕の誕生日も」

其れだけだよと彼は呟き、今度はハイドが手を付けずに終わったシャンディーへと手を伸ばす。

実に些細な内容だが、其れでも馬鹿にする事は無く、聞きだせた事を満足気にハイドは笑んだ。

「おや、そうでしたか。 貴方も人の子だったのですね」

思わぬ皮肉に、ジルドレはシャンディーを呑みかけたまま一瞬動作を止める。

しかし意図を良く吟味すると、直ぐに茶目っ気のある笑みを浮かべ、ハイドの肩を突付いて見せた。

「嫌な言い方ー!」

途端、ハイドに不機嫌の一線が過ぎる。 ジルドレに合わせて若干口許を緩めるものの、だが瞳に宿る光の鋭さはどうか。

どうも彼は、茶化し半分の接触は苦手と窺える。 が、この男の変化にジルドレが気付く筈も無いのだ。

「なんだ、ハイドくんったらノリが悪いね! ほら、笑って笑って!」

笑えるだろうか、斯様な状況で。 無理に愛想笑いを浮かべるが、何処と無くぎこちない。

「サー、貴方は私の心を乱したいのですか…?」

常に余裕を持つハイドにしては、珍しく気落ちした口調。

不意にジルドレの中で悪戯心が芽生えた。 今ならハイドという男を出し抜けるかもしれない、そんな冒険。

何時も彼には振り回されてばかりなのだ。 偶には逆の状況があっても良い。

ジルドレが意味あり気に笑みを深める。

「乱したいのは、心だけじゃないよ」

ジルドレはハイドの肩に置いた手を、徐々に背へと滑らせ、何かを意図するように撫で上げた。

案の定ハイドは驚き、身体を固める。 余りに急な展開に、対応し辛いものを感じたに違いない。

が、其処はハイドの事。

手がやがて腰へ届きそうになれば、彼はジルドレの手を無骨に掃い、何事も無かったかの様に背広を整えた。

此れが事に及ぶ前兆だとすれば、ハイドも其の気になっていただろう。 だが、からかいの延長であるならば、話は別だ。

ハイドの拒絶の仕草が可笑しく思えたのか、ジルドレは先程より明るい笑声を挙げ、杯を一口含む。

どうやら、この男を掌握するのは難しい。

「其れより…気になるのですが」

一旦下がりかけた己の空気を持ち上げようとでも言うのか、ハイドは落ち着いた声色で発言した。

「何故自分の誕生日が曖昧なのです?」

へ?とジルドレが小首を傾げる仕草を視界の端に入れ、ハイドはグラスの中身を舐める程度に口付ける。

「私は良く判らないのですが、誕生日とは祝うべき行事なのでしょう? 以前、女王陛下の誕生日にパレードが行われましたし…其れに、ほら」

ハイドが苦々しく左頬を指し示した。

「もしや、小五月蝿いのは女性だけですかね」

ジルドレは気泡の動きを楽しむ様に、グラスをゆったり回した。

誕生日とは祝うべき行事? 果たして、本当にそうなのだろうか。

己と言う人格が形成され、重い肉体を媒体として世に落とされる其の日は、

他人にとっては時に労働に勤しむ平日であり、時に身体を横たえる休日であったりする。

要は、何て事無いのだ。 勝手に行事に仕立て上げているのは、他でもない其の人自身であるだけで。

「うーん、どうかなー?」

彼なりの結論を述べたつもりであったが、結局は無責任な応答となり、事の他安易に話題を終えてしまう結果となった。

ハイドは溜息を吐く。 ついでに、もう一口酒を煽った。

「もう良い。 どうせ自分の誕生日も、忘れたから仕方無いと言って終わらせる気でしょう」

ジルドレは笑む。 序に先程より強くハイドの肩を叩き、判ってるねと声を挙げた。

勿論、ハイドは嫌悪で眉間に皺を寄せるものの、無頓着主義の彼は相も変わらずハイドの心中を悟ろうとはしない。

そして高まるままに、ジルドレは遂に二つ目の杯を開けた。 苦笑を残し、ハイドは残り僅かのビールを飲み干す。

今宵は一杯で終わるつもりなのか、ハイドは手元に空のグラスを静置した。

一方ジルドレはと云うと、勢いを収めるつもりは無いらしく、三杯目を注文している。

今度は口当たりの良いサイダーであった。 好い加減悪酔いでもするのではないか。

「あれ、ハイドくんはもう呑まないの?」

「偶には、貴方より先に消えるのも良いでしょう」

実を言えば、この後ハイドには予定が詰まっていた。

何の事は無い。 知り合いの伯爵から骨董品を貰い受けるというだけの事。

だが、芸術をこの上なく愛する彼にとっては、決して外せぬ席である事も確かである。

隣の椅子に置いていたトップ・ハットとオーバー・コートを着込み、たった今飲み空けたグラスを手に取った。

彼の仕草を見かね、ジルドレが声を挙げる。

「あ、良いよ、置いときなって。 僕が払うって言ったで…」

しかし、ジルドレの言葉は最後まで紡がれなかった。 ハイドが彼の顎を取り、覆うように接吻けを重ねて来たからである。

少しの時間が経ち、漸く唇を離すと、ハイドは次にジルの耳元へ口を寄せた。

「御気遣いだけ頂きますよ。 偶には私を格好良く立ち去らせて下さい」

序に其処にも軽い接吻けを落とすと、ジルドレは頬を赤らめる。

ハイドという男は、相手が見せるほんの一瞬の隙も見逃さず、人を魅惑する特技を持つに違いなかった。

対象は貴族、貧民、男、女、境界線は無い。 そう…其れが例え、ジルドレの様な悪党であったとしても。

呆気に取られる若者を尻目に、財布から金を払うハイド。 

多めの代金をカウンターに置いたので、どうやらジルドレの分も払っている事が窺えた。

ジルドレは今より更に、羞恥に頬を染める。 …何時もこうなのだ。 

最初は此方が権利を握っていると思えば、結局は逆転されている。

其れが不満と言えば不満だが、だからこそこの男と共に居る理由が築けるのであり、特に訴える必要も無い。

ハイドは最後に立て掛けていたステッキを浚ったところで、そうだと呟いた。

「愚かな貴方の事だ、どうせ誕生日に祝われた事も無いのでしょう」

後は去るのみと思っていた男が急に発言した事により、ジルドレは若干驚いた様に口を開ける。

「な!愚かって何さ!」

だが其れ以上何も言い返す事は出来ない。 現に彼は、自分の誕生日を忘れているのだから。

言葉を詰まらせるジルドレに、ハイドは口の端を上げ、笑む。

「私はこう見えて慈悲深いのですよ、サー。 貴方の為に誕生日を御祝いしてあげましょう」

「え? 祝う? ハイドくんが?」

ジルドレは瞼を剥き、丸い眼を更に丸める。 何とも意外な人物に祝われるものだ。

「えぇ、そう。 パレードは出来ませんが、茶会程度なら何とかなりそうなので」

「お茶? じゃあ、甘いお菓子も出るね」

「きっと、そうでしょうとも。 頼んでおきますよ」

頼む?とジルドレが小首を傾げる。 ハイドが人差し指を立て、横に軽く振った。

「私の素敵な伯爵様に。 茶会の会場も彼の邸宅で行いましょう」

伯爵とは、正に此れからハイドが逢おうとしている人物の事である。

だが、其の様な事を知る由も無いジルドレは、ハイドの台詞の中から聞き慣れない人物が登場した事により、益々疑問の色に表情を染めた。

「伯爵って…ハイドくんの友達?」

尋ねると、ハイドは顎を僅か引く。

「ええ。 ですから、貴方も御友達を呼ぶと良いですよ。 伯爵の家は充分広いので。 …どうでしょう?」

少し考える様に、ジルドレは片手を口許に添えた。

誕生日を祝われる事等…有ったかも知れないが、彼の記憶の中で其の出来事は遠かった。

祝う…つまり、楽しい事。 ジルドレの中でそうした方程式が成り立つと、後は決断を下すだけである。

彼は何より遊戯を好む、子どもの気質を兼ねた者なのだ。 友達を呼べるともなれば、一層心は弾むだろう。

「良いね! 乗った!」

手を叩き、ジルドレは表情を笑みに満たした。

「で、何時やるの? 僕は何時でも良いよ! なるべくなら早くが良いな、楽しみだから」

ハイドは眼を細めて笑み、彼の幼く見える頬を視線で撫でる。

「そうですね、では明後日…」

言いかけ、踵を返し、パブの出口へと歩んで行く。 扉に手を添えた所で、ハイドは顔だけジルドレへ向けた。

「このパブの裏に、十字路があったと思います。 其処で深夜、エメンヘタンでも唱えると良い」

そうすれば、迎えが行くでしょうから…其れだけ告げると、ハイドは扉の奥で広がる闇に、其の身を投じる。

彼は伯爵の許へ行くのに、理由が二つ出来た。 一つは、骨董品を貰う為。 もう一つは、茶会の催しを告げる為。

伯爵はきっと、ハイドの唐突な提案を不機嫌な面持ちで受け取る事だろう。

何事も計画的に謀らなければ満足出来ない彼の事、急な予定に不平の一つも零すに違いない。

だが、ジルドレはハイドにとって【今の所】お気に入りの人物。 何としてでも、茶会の都合は貫く筈である。

一方残されたジルドレはと云うと、先程接吻けられた耳殻に軽く触れ、口の端を挙げつつ笑んだ。

「エメンヘタン、ねぇ」

明後日と言えば、金曜日である。 

この夜に、十字路でエメンヘタンを唱えるのだから…会場はひょっとすると混沌のサバトだろうか。

我ながら上手く出来た冗談だと、皮肉の思考に囚われる。

しかし、ジルドレは気付いていない。

金曜日の夜を予定する茶会の会場主が、正にサバトの住人に相応しい魔物である事に。

今の彼には、只管無邪気な子どもとして楽しい事だけ夢想するのが相応しい。

友達は誰を誘おうか、久々の誕生会は如何なものか、衣服は何を着ていくべきか…

考えない方が良い。 悪魔に魅入られた茶会の事等は。

 

 

[  E N D  ]

えへへv
えへへvvv(キモイよ)
ナキトさんからジルドレの誕生日に頂きましたvvv
わーいわーいハイド様と絡みーーーッ!!!!
しかも続き物・・・!!涎が止まりませんが何か。何か!!(落ち着け)
ジルドレが偽者くさいとか仰られてましたがそんなことないですよむしろ本物よりカッコイ(強制終了)
うわああんナキトさん素敵な小説をありがとうございましたーーー!!

ブラウザバックプリーズ!

07.11.01.from:ナキトさん