A HAPPY NEW YEAR?

 

 

 年末、年の瀬。

 どこもかしこも忙しいこの日は、警察組織も同じである。

 

 いつもの倍は高く積み上げられた書類の束が、風に乗ってばさばさと机の上から落ちた。

 わき目も振らない様子で、慌てて出て行ったのは高気圧BOY。

 どうやら事件に御呼ばれしたらしい。

 思いながら、紙巻煙草を片手にどこか浮ついた雰囲気の捜査課の中を眺める。

「…忙しそーで」

 ちらりと自分の恋人に目線をやれば、青灰色の馴染みの髪は膨大な書類の山の中に埋もれてその先がちらりと見えるだけである。

 こちらのほうなど省みもせずに、仕事に向かっているのだろうことは容易に予想がついて、正直少し面白くない気分になる。

 仕事にすら相手を取られえたくないという、子供じみた独占欲に似た支配欲。

 近頃ますますその傾向が激化しているようで自分でもなんだか呆れる。

 

「グレグズン」

 

 そんなことをつらつらと考えていると、目にはアルセニーの姿が飛び込んできた。

「ん?どしたの、魔王」

「この書類、サインをくれ」

「はいはい」

 くるりとペンを一回りさせて、さらさらと紙の上に滑らせながら口を開く。

「なーんか、忙しそうですね」

「年末だからな」

「つーか、書類の始末よりも俺としてはこの部屋、御祓いして欲しいんですけど」

 絶対、何かいるからここ。

「…頑張れ」

 暖かい応援の言葉が返ってきたがそれ以上のアクションは無かった。

 当たり前だ。そもそも、自分とレストレイド以外に対して実害はない。

 無いけど、正直気に入らなかったり。

「さぁてと…」

 仕事するかね。

 したくないけど、とそんな言葉を付け足しながらヤル気が無さそうな仕草で、ぺらりと書類を捲った。

 

 ぼちぼちと人はいなくなり始め、ついには自分ひとりだけとなった捜査課の部屋。

 最後の書類を机の上で軽くまとめると、グレグズンが軽く伸びをして時計を見上げた。

 新年までは後二時間と少し…、という時間帯である。

 案の定仕事が終わらなかったグレグズンは、本日レストレイドにこれでもかというほど怒られ、

 『仕事終わるまで帰ってくるな令』を発動させられた。

 まぁ、いいんですけど。

 明日二人で休暇とってるから、余計に怒ってるんだし。

 そんなことを思って、ふっと頬が緩んでいる。そんなグレグズンの目の前に、不意にふらりと現れた人影――。

 

「…ん?」

 

「こんばんは」

 

 綺麗な青年が目の前に立っていた。

 緩い巻き毛の金髪に整った身なり。あどけない顔をしてにっこりと微笑んでいる。

 

「…コンバンハ」

 

 幽霊を前にして普通に挨拶返してしまったが、良かったのかこの反応。

「何か用?」

 普通に聞いてみた。

「いや。別に」

 青年は小首を傾げてそう言う。

「…じゃあ、帰っけど…」

 言いながらその姿の横を普通に通り過ぎようとして、一つ思い出して立ち止まる。

「あ、そうそう」

「はい?」

 

「レストレイドにちょっかい出すの、無しね。あれ、俺のだから」

 

 告げた言葉に一瞬、青年がきょとんとした顔を見せた。

 

「俺の大事なのだから。手ぇ出さないでね」

 

 お願いでも命令でもなく、どちらかといえば限りなく警告に近い。

 大事なモノは誰であろうと、渡したくないし渡す気も無い。少なくとも自分が手を掴んでいると思える間は。絶対に。

 だから見っとも無かろうが無様だろうが妬くし、怒るし、足掻く。

 

 しばらくきょとんとした顔でいた青年が、そのうち笑い出した。

 

「ん、何?」

「いや。すごいなと思って」

 大事にしてください。

 そう言って、青年が尚も小さく笑う。

 

「僕は守れなかったので」

 

「…ふぅん…?」

 

「見ていることしか出来なかったし、まぁ『僕』が殺したに近いのかも知れないし」

 

「…ふぅん」

 

「だから、大事にしてください」

 

 笑った青年の顔を見ながら、なんとなく思う。

 少し似ているのかも知れないと。

 守るモノを守れなかったこの青年と、昔大事なモノを守るために全てを置いてきた自分は。

 形作るその一片が少しだけまじわるように似ているのかも知れないと思った。

 

「言われなくても、大事にします」

 大事だからね。これでもかってくらい。

 

 青年が笑った。

 

「…さて、そんじゃあ帰るから」

「ああ、それでは」

 

 捜査課を離れようと、一歩足を踏み出してグレグズンは思いついて振り向いた。

 

「アンタ、名前は?」

 

「ドリアン・グレイ」

 

「ふぅん」

 

 短くそういうと、名前を呼んだ。

 

「ミスター・グレイ?」

 

「何か?」

 

 答えた青年に向けて一言。

 

「A happy new year」

 

 自分は大事なモノと過ごすけれど、多分一人で彷徨いながら新年を迎えるだろう青年に向かっていった。

 

「…Thank you. A happy new year.」

 

 一瞬、驚いたような顔をした青年がそう告げる。

 なんだかぎこちない挨拶だが、それでいいと思った。

 

「恋人さんにもよろしく」

 

「今度ちょっかいだしたら、悪魔祓い呼ぶけどね?」

 

「おや」

 

「そんじゃ」

 

 答えて、片手を上げると振り返りもせずに捜査課を出た。

 

 

 

 家に帰り着いて。

 

「おかえり」

 

 安心したような顔でレストレイドが迎えた。どうやら、今日中に帰りつくかどうかを心配していたらしい。

 

「ただいま」

 

 そう答えて正面から恋人を抱きこんだ。

 大事なモノはこうしてこの手の中にいる。

 

「レストレイド」

 

 耳元に唇を寄せて、一つ言う。

 

 

 

「A HAPPY NEW YEAR?」

 

 

 新年まで後少し―――。

 

 

 

 END

 * * *
 ふぉおおおおおおお・・・!!名無しさんから!年納めの小説を!!
 年の瀬も年が明けてもドリアンはバジルを捜すのですよ・・・!(萌)
 グレレスはヒメオサメとヒメハジメを連戦するのですよ・・・!(死ぬ。レストレイドが死ぬ。)
 ぬおー名無しさん今年一年素敵小説をありがとうございましたー!
 来年もよろしくーーーッ(殴 打)

 ブラウザバックプリーズ!

 06.12.29.from :通りすがりの名無し人さん