聖夜の出来事

 

 

 ここはスコットランド・ヤードの捜査課。

 そして現在は仕事をしているレストレイド。

「…?おかしい…」

 ぴたりと動かしていたペンを止めて、そう呟いてあたりを見回す。

 普段なら、人であわただしい捜査課にまったく人気が無かった。

 今日は全員非番だったのか?

 そんなありえない可能性を考えながら首を傾げる。

「レストレイド?まだ仕事やってんの?」

 びくっ!

 不意に背後から掛けられた声に、思わず背筋を伸ばして、勢い良く後ろを振り返ると、そこには―――グレグズンが、いた。

「ぐれ…ぐずん?」

 いつものグレグズン――のはず。

 金色の髪に、ライトグリーンの目。だけれど、確かに覚える違和感。

「…?」

「どした、レストレイド」

 手が伸ばされて、髪をすく感覚に何故か知らないが悪寒が走った。

 よくよく考えれば、本日はグレグズンは捜査で朝からいないはずで。

 代わりに思い出したのは。

 真夏の。

 雨の夜の。

 ―――怪異。

 

「―――――〜〜〜〜っ!!!!???」

 

 思わず椅子から立ち上がり、数歩後ずさる。

「あ、わかった?」

 そう言って楽しげに、グレグズンの姿を借りた何か―――、は笑った。

「しっかし、何やってんの?クリスマスにこんなところで」

 グレグズンの姿を借りたまま、何か(←幽霊と信じたくないレストレイド)はいたって軽快にそう言うとお疲れ様と軽く手を振った。

 

「あ、ああ…」

 ありがとうというべきか否か。逡巡しながら、そう言ってそのまま居心地が悪そうに書類に目を落とすレストレイド。

 ちらりと視線を上げると、にっこりと(しつこいが、グレグズンの顔で)笑う何か(しつこいが、認めたくない)がいた。

 三秒ほど無言で向き合う。

 相変わらず、笑顔の相手。

 しかし本能に訴えかけてくる確実すぎる違和感。

 思わず叫ぶレストレイド。

 

「駄目だ、本当に頼む!頼むからその顔だけはやめてくれっ!」

 

 なぜか知らないが酷く眩暈がしてくる。それ以上に違和感が激しすぎて、妙に涙腺が緩みそうだ。

 外見は確かにグレグズンの形を象ってはいるが、所詮はそれだけで。なんだかあまりにも、中身が。知っている者が。違いすぎて。

 途方もなく頼りない気分になってしまう。

 

「ん?ああ、ごめんごめん」

 こっちのほうが怖くないかなー、と思って。

 そう言いながらひょいと姿を変えた。……なぜか、ブラッドの姿に。

 そして思い切りにっこりと微笑む。

 

「それも何だか心臓に悪いぞ!?」

 なぜか背中に冷や汗が伝うのを感じながら、レストレイドが叫んだ。

「ああ、やっぱり?」

 

 性格悪そうだもんね、あの兄ちゃん。

 分かっていってやっているのか、こいつは。

 思わず頭を押さえる。

 

「ああ、ごめん。まぁ、これならいいでしょ?」

 

 その声に顔を上げると、見知らぬ綺麗な顔の青年が立っていた。古い貴族風の衣装を身に着けている。

 

「ん?怖い?」

 首を傾げて聞く青年にいいや、と首を振って言う。正直、アルセニーの姿で登場されたら脱兎の勢いで逃げようと思っていたぐらいだ。

 

「…それで、俺に何かようか?」

 正直もう幽霊かどうかなんてどうでも良くなってきた(投げやりになったとも人は言う)レストレイドはそう訊ねた。

 

「いや、別に?」

 別になのか…。俺は仕事がしたいんだが。

 そんな思いで見ると相変わらず笑ったままの青年が言う。

「なんだか、君、昔の友だちに少し似ててね。ちょっと遊びたくなるというか、なんというか」

 くすくすと笑いながら言う青年の言葉に、思わず一歩レストレイドが退いた。

 正直、遊ばれる身としては溜まったものじゃない。

 そんなことを思っていると、ふわりと青年がレストレイドの前に一気に詰め寄る。

「!!?」

 驚いて身を引こうとするレストレイドの耳元で一言。

 

「ドリアン・グレイ」

 

「え?」

「次は名前で呼んでくれると嬉しいね」

 近過ぎるほど近い位置で綺麗に微笑んだ青年の顔に気を取られること一瞬。

 そのまま額に軽く感触を感じて、青年は消えた。

 

「…な…」

 何もいなくなった空間を見て、思わず呟く。

「…なんだったんだ、一体」

「……クリスマスプレゼントに頂かれたんでしょうが」

 一人で呟いた言葉に反応があって、驚いて声のほうに視線を向けると。

 捜査課の入り口に、不機嫌そうに佇む正真正銘本物のグレグズンの姿があった。

「ああ…帰ったのか」

 そう呟いて、一瞬の沈黙。

 それから一気にレストレイドの顔に血が上って、それから一気に下がった。

 入り口に佇む不機嫌そうな恋人に声を掛ける。

「グレグズン、み…見てた、のか?」

「んー?見てたというよりも、部屋に入ったらなんとも無防備におでこにキスされてるお前がいたんだけど?」

 口が笑っているがライトグリーンの目が笑っていない。

「う…あの、グレグズン…」

 言い訳を口にしようかどうか、迷っているレストレイドにお構いなくつかつかと歩み寄ると、そのままひょいと抱きかかえた。

 驚いて、慌ててグレグズンにしがみつくレストレイドを抱きかかえたままグレグズンが踵を返して歩き出した。

「おい、グレグズン!?」

「ん?なに?」

「まだ俺は仕事が…っ」

「そんなの明日でいいでしょ。…つーか、仕事にかこつけて俺のこと待ってたんでしょ?」

 にやりと抱え上げて状態のまま、顔を近づけて笑うグレグズンに反論の言葉をなくして、レストレイドが黙り込んだ。

 …どうやら図星らしい。

「だから、さっきのはこれでチャラね」

 言いながらレストレイドの額に一つ唇を落とすと、消毒完了、と呟いてグレグズンが笑った。

「んじゃ、帰りますか」

「…う…」

 赤い顔をしてこくりとレストレイドが頷いた。

 

「あーあ。当てられるね」

 彼らが帰った捜査課の中。

 とっくの昔に過去の人となった、実体を持たない彼がそう呟いた。

 彼にも昔、あの二人のような相手がいた。

 しかし、それはまた別の話で。ゆらめく蜃気楼のような――過去の話である。

「メリークリスマス」

 誰も答える人間がいないセリフをそう呟くと、ゆらりと青年は聖夜の黒い闇の中に姿を消した。

 

 

 

 END

 * * *
 きゅーん。(ツボ突かれた音)
 ヤバイです。ある意味公式となった(いつの間に/笑)ヤードのオバケが萌えランクアップしとります。
 名無しさんグッジョブ・・・!!(グッ☆)
 これ以上水仙の萌えポインツ突いてどうする気ですか罪なお方・・・!!
 ちなみに水仙『ドリアン・グレイの肖像』(オスカー・ワイルド著)、知りませんでした。(ギャフン)
 さっそく検索してチェック。ヤバイツボだ・・・!(ググッ!)
 てかレストレイドある意味ものすごい貞操の危機だ。(笑)
 てかいっそグレさん、捜査課でヤってしまえばよかったのに。(待て)
 くはぅうううう!素敵小説をありがとうございましたーーーー!!(感謝眼福腹上死★/ぇ?)

 ブラウザバックプリーズ!

 06.12.25.from :通りすがりの名無し人さん