寒い夜
嫌な夢を見た。
どんな夢だか忘れたけれど。
とにかく嫌な夢だったことだけは、鮮明で。
目を醒ますとそこは泊り込んだレストレイドの家のベッドだった。
隣では恋人が静かに寝息を立てている。
「…夢、か」
呟きながら手を伸ばしてレストレイドの顔にかかっていた髪を払う。
窓から差し込む月明かりの下に。
白い肌が浮き上がるように鮮明に見えた。
「キレーな顔…」
起きていたら真っ赤になって否定してくるだろう言葉を、口に乗せてすっと指を滑らせて頬を撫でる。
くすぐったそうに、レストレイドが身をよじった。
まだ夜中。
しかし、冴えてしまった目はどうにも閉じそうにもなく。
しばし逡巡してするりとベッドから抜け出した。
ひんやりとした空気が足に纏わり付く。
リビングのソファに腰掛けて、紙巻煙草に火をつける。
煙草の先端が頼りない明かりを灯して、紫煙が広がる。
「…なんの夢、……だったっけ…?」
酷く嫌な夢だった。
何かが手の隙間からすり抜けていくような夢で。
必死になって、それを捕まえようと思うのに。
自分の手の中には結局何も残らなくて。
「…なんであんな夢みたのかねぇ?」
ここは大事な人の部屋で。
自分は大事な人を抱きしめて寝ていたのに。
誰もいないリビングの冷え冷えとした空気が、妙に生々しく感じられて。
何かが崩れそうで。
「…あー…」
疲れてんのかね、俺。
そう誰にでもなく呟きながら、短くなった煙草を消してベッドに戻るためにふらりと立ち上がる。
なぜだが、寒さが増したような気がした。
いつか。
いつか――。
すり抜けてしまったら?
俺はどうする?
ベッドに戻る。
隣に滑り込もうとすると、微かに声を漏らして。
レストレイドの青灰色の瞳が、月明かりに覗いた。
「あ、悪い。起こした?」
「…ん…」
寝ぼけ眼で返事にならない返事をすると、レストレイドが俺の腕をつかんだ。
「…つめたい」
「ああ、ちょっと…」
一服してたから。
言うとん〜、と返事にならない返事をしてレストレイドが俺の胸に顔を埋めた。
「おい、レストレイド?」
冷たいだろ?
言うと、レストレイドが言う。
「………い?」
「ん?」
「あったかい?」
何が?
と聞くよりも先にレストレイドがぎゅっと回した腕に力を込めた。
つまりは、俺をあっためようということらしくて。
「…あったかいけど」
「…なら、いい…」
まだ夢見心地らしく、レストレイドの語尾があやふやになる。
そのまま抱きつかれてる温もりに、腕を回して。今にも眠りに落ちそうなレストレイドに、ぽつりと聞いた。
「なぁ、レストレイド?」
「…ん」
俺が手、放したら、どうするお前?
問いかけではなく独り言に近い。返事がかえってくるとは思っていなかった。
「…だいじょうぶ」
ぽつりとレストレイドが言った。
「俺がつかんでるから、だいじょうぶ…」
そのまま青灰色の目は、眠りの中に溶け込むように瞼の下に隠された。
腕の中で静かに寝息を立てるレストレイド。
背中に回されて、しっかりと握られた手。
「…参ったわ…」
放しても、つかんでるから大丈夫か…。
腕の中の温もりが。とても暖かく。
「あんがとーね、レストレイド」
髪を梳くと穏やかな顔をした相手が、小さく身じろぎして自分にかける重みを増やした。
その口元に一つ、唇を落として。
「おやすみ…」
腕の中の温もりを、放さないように抱きしめて目を閉じた。
寒さよりも。
お互いにいれることが幸せな夜。
END
* * *
名無しさんからまたも頂いてしまいましたvvv
前に頂いた『さむい夜』と対っぽくていいですねv
ネガティブグレ好きな水仙としたは堪りませんっ♪
その上寝ぼけレスが可愛らしい上に殺し文句を・・・!!
名無しさんいつもありがとうございますvvv
ブラウザバックプリーズ!
06.11.27.from :通りすがりの名無し人さん