拒否≒自覚

 

 

 例えばそれが数学のように。1+1=2とでもいように、綺麗に答えが分かる式なら。

 意地も何もなくただそれが方程式として存在しているのなら楽だったのにと思う。

「…くそ」

 今日何度目か分からない悪態を口から滑らせて。まだ半分も吸っていない葉巻を灰皿に押し付ける。

 

 書類の波の中。

 ぼけっと浸かっていると、捜査課が騒がしくなった。

「大変ですよ、グレグズンさんっ」

 走って俺のほうに来たのは高気圧BOY。

「取調べしていた容疑者が刃物を取って署内を逃走しているんですッ!!」

 …仕事してんのかよ、ヤード。

 口にすれば多数の人間から批判を喰らうであろう言葉を胸の内で呟いて、吸っていた紙巻煙草を灰皿に押し付けた。

 

 …?

 何か騒がしい。思って廊下に出るとバタバタと多数の人間が走り回っているのが目に入る。

 何の騒ぎだ?

 疑問に思いながら歩き出すと、背後に人の気配を感じて。

 ヒヤリとした感触が首筋に。

 

 確かこっちのほうだったか。

 手を振り払われて以来会っていない低気圧を探しながら歩く。

 何人かとすれ違う。

 人気の無い廊下に出て――。

 …ん?あれは。

 

「伏せろ、レストレイドッ!」

 

 その声に反射的に身を屈める。

 バキッと何か固いものを殴るような、そんな音がして。

 

「ッ」

 

 小さく息を呑む音と共に、いつものへらりとした声が。

 

「よぉ、怪我なかったか。低気圧」

 

 振り返ると、暴れる男の上に肩膝を立てて座ったグレグズンがナイフを男から取り上げていた。

 突然の展開で頭が付いていかない。

 

「…なんだ、その男」

「取調べ中の容疑者」

「…なんで刃物持ってるんだ?」

「さぁ」

「…なんでお前がいるんだ?」

「ん?お前探してたから」

「…そうか」

「そ」

 

 …ええと?

 

「グレグズンさん、レストレイドさんーッ!!」

 

 ポプキンズの声。

 

 結局容疑者は警官に取り押さえられて、そのまま無事(?)に監獄へと直送されることになった。

 連行される男の後姿から、ふとグレグズンに視線を移せば。

 

「…―――ッ、の馬鹿!!」

 

 思わず叫んでその腕を掴んでいた。

 そのまま相変わらずへらりとした顔のグレグズンを引っ張っていけば、背後からポプキンズの声が聞こえた。

 

「あ、どこ行くんですか?お二人とも」

 

 そのポプキンズに振り返って一声。

 

「医務室だッ!!」

 

 

 

 赤く筋のついた手の甲から流れ出す紅い雫を拭って。

 

「…馬鹿か、お前は。怪我してるなら、そういえ」

「いや、気ぃ回んなかったしー」

 

 消毒液を塗ってガーゼを当てる。

 

「馬鹿だ、お前は」

 

 言いながら包帯を巻いていく。

 

「ほら、終わったぞ」

「アンガト」

 

 あまりにもいつもと変わらない雰囲気で。なんだか、妙に安心したような。そんな気が。

 

「…悪かったな」

「何が?」

 

 包帯を巻いた手をひらりと振ってグレグズンが聞いた。

 

「…手」

「んー?あぁ、別に。俺が勝手にやっただけだしー?」

 

 しばらくの沈黙の後。

 

「それじゃあ、俺は行く…」

 

 ぐい、と腕が引っ張られた。

 

「なぁ…」

 

 見上げるグレグズン。

 

 また、か。またこいつは。この顔を。

 顔を見たまま、動けなくなる。時々、するこの顔に。だけれどその先の言葉は無いはずで。

 …いつもならば。

 

「…なんだ」

 

 聞き返せば、いつもは何も言わずにへらりとした顔に戻る口元も、何も変わらない。

 

「…グレ…グズン…?」

 

「なぁ」

 

 掴まれた腕が熱い。

 じっと見上げてくるライトグリーンの目。

 

 だから。

 

 だから、俺は。

 

「…お前なんか、嫌いだ…」

 

 ポツリと再び言葉が零れた。何だか知らないが、目の奥が熱くなって。

 ――泣きそうだ。

 どうしてこうなるのか自分にさえ分からない。ただ、認めるのが怖いから。頑なに否定する。

 

 ――俺はお前なんか、大嫌いだ。

 

「…俺は好きだけど?」

 

 ――――な。

 

「俺は好きだぞ、お前が」

 

 繰り返される言葉に、息が詰まる。顔が赤くなったのを感じて。

 

「…俺は、嫌いだ」

 

 呟くように言うが、声が震えるのをかんじる。

 

 ――どうしてだ。

 

「は―――なせ」

「何で?」

 

 至近距離。近づく顔。ライトグリーンの目。近い。

 

「好きだ」

 

「―――ッ……」

 

「レストレイド」

 

 名前を呼ばれて。

 

「〜〜〜〜ッ……」

 

 顔が熱い。そして、視界がぼやけて滲んだ。

 

 気が付けば、泣いていた。

 

「…ッ…っく……」

 

 みっともなく流れる涙が止められない。

 

「どした?」

 目の前の男はまるで何が起こったか分からないのか、いつも通りの顔で人の顔を覗き込んできて。

 

「…お…ま…えのッ…せい…ッ………ろ」

 息が上がって上手く言葉が出てこない。腕を掴まれて立ち尽くしたまま。泣いていた。

 キライなのに。

 嫌だったのに。

 こんな風に言うのは。

 こんな状況の中にいるのは。

 反則だ。

「…ッふ…っく…っ……」

 最悪だ。こんな風に泣くなんて。

 

 腕を掴んでいた手が離れたかと思うとそのまま背中に手を回されて、ぐいと抱きしめられた。

 頭を指先が撫でていく。

 …あの日と同じような仕草で。指が頬に滑るように動いて、涙を拭っていく。

 涙で歪んだ視界をグレグズンの顔に向かうと、ライトグリーンの目がじっとこちらを見据えていて。

 その顔が、ふっと微笑んで。

 

「好きだ」

 

 もう一度、そう言われる。

 抱きしめられたまま、耳に直接吹き込むように。

 

「好きだ」

 

「……っ」

 

「レストレイド」

 

 認めたくなかったのに。

 拒否し続けていたそれを。

 本当は自覚していたのに。

 

「……っ、きだ」

 

「レストレイド?」

 

「……好き…、だ」

 

 ライトグリーンの瞳が慈しむように細められて。

 

ふわりと、あの日より深い口付けが落ちてきた。

      

 

 

END

* * *

グレ→レスからめでたくグレレスにっ。(笑)
なんかもう、グレレスの馴れ初めこれで良くないですか。水仙書かなくてもいいですよね・・・!!(殴打)
いやーもう言うこと無いです。あえて言うなら幸せです。俺幸せです。(目を覚ませ)
名無しさん、どうもありがとうございました〜vvvまたご贔屓に〜vvv(コラ)

ブラウザバックプリーズ!

06.07.01.from :通りすがりの名無し人さん