自覚拒否

 

 

 クラリ、と頭が揺れたような気がした時には足に力が入らなかった。

「レストレイドさんっ!?」

 ヤバイと思って体制を立て直そうとしたが、それよりも先に視界一面がインクをぶちまけたように黒く染まって何もできない。

 自分の体が後ろに向かってなす術もなく倒れていくのがなんとなくわかった。

 固い地面に倒れこむはずだった背中が、誰かの腕に支えられたのを感じて。

 そのまま意識は綺麗に途切れた。

 

 誰かの手が頭を撫でている。

 

 …誰だ?

 

 思うけれど体を動かすのが酷く億劫で、目を開けるのも面倒で。

 結局瞼を閉じたまま、髪に気まぐれに指を絡めたり、頬を掠めるように撫でていく手の動きに任せたまま、溶けそうな意識に身をゆだねて。

 鼻をくすぐるどこかで嗅いだ煙草の匂いが。

 

 …誰だ?

 

 だけれど、動く気は起きずに。目を瞑ったまま。

 指先が気持ちいい。

 

 そう思いながらぼうっとしていると、不意に指先が離れた。

 

 そして、代わりに。

 

 唇に微かな感触が――。

 

 それが何かを把握する前に、僅かなぬくもりが離れて。

 

 薄ぼんやりとした意識のまま。

 

「…レグズン…だ?」

 低い小声が聞こえた。

「ああ、大分いいんじゃねーの?」

 聞きなれた声が自分の間近ではっきりと聞こえたのに目を開けた。視界の中、映るのは普段は書類の中に埋もれた金髪。

 

「……グレグズン?」

 

 訝しげな声で訊ねるとライトグリーンの目が自分に向けられた。

 

「ん?起きたの、レストレイド」

 

 どうしてお前がいるんだという疑問が生まれて。だけれど、それは喉にまで向かわずに消えて。

 ただ状況が分からずに結局は眉間に皺を寄せて、その目を見返しただけ。

 

「…大丈夫か」

 横から顔を覗かせたのはアルセニー。

「…どこだ、ここは…」

「医務室だ」

 答えたのはアルセニー。

 医務室?…そういえば何故か書類に向かっていた途中から意識が無い。

「…そうか」

「貧血だとさ。お前、無理しすぎ」

「…うるさい」

 グレグズンに言い返す声も力が入らない。

「んじゃー後任せたわ、魔王」

 言いながらふらりと立ち上がるグレグズン。

 その瞬間に、ふわりと。

 煙草の臭いが。

 鼻を掠めて。

 

 あ――――。

 

 クイ。

 

「…どしたよ?レストレイド」

 

 訝しげに振り返るライトグリーンの双眸。

 それはこちらが聞きたい。

 どうして俺が、お前の服の端を引き止めるように掴まないといけないのか。

 俺の意志じゃない。これは。

 そう、原因は。

 こいつの煙草の臭いで――?

 

「………なんでもない」

 

 紡ぐ言葉は浮かばない。だから手を放した。

 

「そーか?」

「うるさい、早く行け!」

 理不尽に怒鳴りつけて、はいはいと肩を竦めながら出て行く背中を見送って。

 

「気分はどうだ、レストレイド」

「ああ、大丈夫だ」

 そこでふと気になったことが一つ浮かんで。

「…グレグズンは、俺のそばにずっといたのか?」

 なんとなく気になって聞いてみる。

「ああ」

 簡潔なそのなんでもない返答に。

 頭の中で何かが嵌る。

 

 ずっと付いていたのなら。

 あの指先は。

 煙草の臭いは。

 唇に触れた感触は。

 口に触れたそれがなんだったのかにも思い当たって。

 そんなはずは無いと心の中で否定しながらも、頭はそれが事実だと告げていて。

 

 顔に血が上がるのを感じた。

 

「…?熱でも出てきたのか?」

 

 訝しげなアルセニーの声に、思い切り頭を振った。

 

 今度は頭が貧血以外でくらくらし始めた。

 

 ――だから俺はお前が嫌いなんだ。

 人のことを散々振り回しておいて。これ以上また振り回すつもりか。

 

 どうして服の端を掴んだのかも。

 無意識に指先が唇を撫でているのも。

 

 気付かないで一番奥に蓋をする。

 

 ――俺はお前が大嫌いだ。だから絶対に。

 こんな感情認めてやるか。

 

 

 

 END

* * *

ああもうこんな素敵文をこまめに頂いちゃってる自分を幸せに感じますv
体調不良ネタ倒れネタ寝込み襲いネタ。
大歓迎ですv(待て)
ああ幸せ・・・(恍惚v)
名無しさん、どうもありがとうございました〜vvv

ブラウザバックプリーズ!

06.06.29.from :通りすがりの名無し人さん