『ちょいと意味深』で5題


借り先⇒朧オモイ・別館

 

*Act.1(コン)*

オレが危ない目に遭ったりすると

いつも助けてくれるのは

 

一護だったり

姐さんだったり

浦原サンだったり。

 

オレは闘う為に創られたのに生き物が殺せないから

守られてるのが性に合ってると思うんだ、実際。

・・・・一護たちには、ちょっとは申し訳ないと思ってた。

 

でも今は。

もう、『ちょっと』ドコロじゃいられない。

 

一護のオヤジにまで助けてもらって

お守りまで与えられて

 

なんだかもう、『守られてるのが性に合ってる』なんて言ってる自分が

思ってる自分が

腹立たしくなってしまったから

自分の弱い部分をまっすぐに見てしまったから

闘えない自分が、酷く申し訳なく思えてしまったから。

 

一護の体、グググッと足を屈伸させて、筋を慣らしていく。

 

だから、もう、『守られて』なんていられない。

 

「よし!」

パンッと小気味いい音を立てて膝を叩くと、満ち足りた月の下、夜の闇へと跳び立った。

「せっかく何処にでも行けるぐらいの力が足に集中してんだもんな!使えるよーにしねぇと!!」

 

初めて体を手にした時、走ったのは逃げる為───逃げるのは、自由になる為だった。

だが、いま走るのは、追いかける為。

追いかけるのは───強くなる為。

 

己を守ってくれた人たちの背が、せめて傷つくことのないように。

 

自由の天地を夢見た若き韋駄天が、いま疾る。

 

 

「守られてるのが性に合ってるけど、守られるだけってのもねぇ?」

 

 

 

*Act.2(ホムワト)*

 

「僕に出来ることは無いって?ひとつも?莫迦言っちゃいけないよ、ホームズ」

 

それは彼らの間で時折なされる利害の一致。

「そうは言っても、本当に今回、君は必要ないんだよワトソン」

数日前から今回の事件に浸かりっぱなしだったホームズは完全に探偵モードに移行していて、億劫そうに私を見る。

 

一度没頭し出すと止まらない・際限がない。

事件を抱えている時の、ホームズの悪い癖だ。

 

「今回の事件に関してはもう何の障りも無いんだ、だから今回、君はいい」

「事件に関しては、ね」

含みのある私の言葉に、ホームズが器用に方眉を上げる。

「ホームズ、現場に待ってるのは君の好きな事件だけじゃないんだよ?」

 

そう、事件だけならば。

ただ、それを行って解説するだけならば本当に私は必要ないかもしれない。

 

「君の嫌いな社交辞令におべっか、それと愛想」

だが、そこには必ず彼が不得手とする人間関係が付き纏うのだ。

「いっっっつも!無愛想な君のフォローをしてるのは誰だっけ?」

ホームズの顔が、ムスッとして、たちまち渋くなる。

「ね?決まり」

止めとばかりににっこり笑ってみせれば諦めたようなホールド・アップ。

「やれやれ、それじゃあ不必要な対人処理は我が愛しのボズウェルにまかせるとしようか」

立ち上がって、扉へと向かいざまにコートを羽織り、ハットを被る。

舞台上の一瞬による衣装換えかと見紛う立ち振る舞いに、思わず目を奪われて、一足遅れて彼の元に追いついた。

 

 

「私にできることはナイなんて言わせません、私はココにいるのだから」

 

 

 

*Act.3(佐幸)*

 

「さぁああすぅけぇえええええええ!!!!」

 

珍しい。今日は『お館さま』じゃないんだ?

 

「お館様じゃあるまいし、そんなに叫ばなくっても・・・・ってダンナじゃ無理か。何すか?」

佐助が枝にぶらんっと逆さにぶらさがって音も無く顔を出す。

「おおっ、佐助っっ」

パッとこちらを振り仰ぎ、これでもかというほど全開の笑みを浮かべる。

これがあの真田幸村だ、なんて。

戦場でしかの彼を知らないものが見たら、怒り出すかもしれない。

容易に想像できて、思わず苦笑いが漏れた。

「ぬ?佐助、何を笑っておるのだ?」

きょとんと幸村が目を瞠った。

「いえいえ、何でも。それより、何か用っすか?」

「おお、そうだ!!佐助、来い!!」

「はっ?!!って!ちょ、ダ、アアアアアア?!!」

ガッと佐助の襟首を掴んだ幸村、そのまま佐助を枝から引き摺り下ろした。

ズルズルと、縁側の方へと佐助を引きずって行く。

「ちょっ・・・!真田のダンナ、いい加減放し・・・!!だっ!!!」

いきなり解放されて、激しく頭を地に打ち付ける。

 

ああああああもう・・・・自分の主じゃなかったら確実に殺ってるところだ。

 

「佐助、佐助!!」

「・・・何すか」

諦め大部分で顔を上げると、目の前に突き出されたのは、団子。

「佐助も食え!!」

差し出された団子の向こうで、既に団子を咥えて至福顔の主がいる。

「ダンナってばどーゆう風の吹き回し?」

いっつも一人で全部食っちゃうくせに。

「ぬぅッッ、だから、今日はきちんとお主ににも分けようと・・・!!」

揶揄かうように言えば、子どものように頬を膨らませて、拗ねる。

甘味に関しては見境無い(限度も無い)と思っていたが、一応この主も反省はしていたらしい。

「あーはいはい、ありがたく頂戴いたしますよ」

これで戦場での無茶も自粛してくれればこっちの仕事も少しは楽になるんだけどなー。

なんて思ってみたところでこればっかりは楽にもなりそうにない。

 

幸村のぬばたまの瞳は、お館様のみに注がれている。

お館様の、武田の為とあらばこの人はまた、特攻よろしく無茶を重ねるのだろう。

それを抑えて守るのが俺の役目・・・って、解かってるつもりだったんだけどなぁ。

 

「ほんじゃま、ごちそーさん」

「ん?なんだ、もう良いのか?」

早々に立ち上がり、縁側を後にしようとする佐助を、幸村が見上げる。

「お館様の処に行かなきゃ行けなかったんでね。・・・っと、あーーー・・・ダンナ」

「? 何だ?」

 

見上げた瞳、視線を合わせた瞬間に痛いくらい眩しいと思ってしまうのは、気のせいではない。

 

「───」

「───」

 

見つめ合った時間は数えるにも値しないほど短いもののはずなのに、

庭木の葉がゆっくりと舞うせいで長いことそうしていたのだと勘違いしてしまう。

「・・・・また、今度、ってことで」

じゃ、とだけ残してシュッと佐助が姿を消し。

後には幸村だけが残された。

組んでいた足を崩してブラブラと揺らす。

 

「また今度また今度って」

咥えていた団子の串を、グイと扱く。

「いつだろうとお主が某に言いたいことは同じでござろうが・・・」

縁側でちいさな溜め息が、風に乗ってひとつ、零れた。

 

 

「何も知らないイイ子でも一つや二つしってるものよ」

 

 

 

*Act.4(ジャックとジルドレ)*

 

笑顔の裏の、哂い顔───

 

「オマエっていっつもその顔だよな」

「その顔?どの顔?」

「だから、その顔」

言われて問い返した青年は蒼く長い髪の持ち主。

切り出したのはいっそ瑞々しいまでに紅い髪の青年───

一般に好まれる双色が、今は冴え冴えしいほどに妖しく視えた。

「だから、どれさ」

「要するに、いっつもクレイジーなツラしてるっつーことだよ」

少しは隠せよ。それじゃあ昼間でも怪しまれるぜ。

カシン、と音を立てて紅髪の青年の腕から銀色に煌めく月が昇る。

「心配御無用、向こうでは公的に有名なMurdurer≪殺人犯≫だから、ボク♪」

ヘタに位が高いと警察もそう簡単には手を出してこれない、ということらしい。

何処の国でも、警察とは要らん規則としがらみに取り憑かれた、いざって時には使えない連中らしい。

「ジャックは使い分けてるよねぇ、その顔!(ぶふーーーッ)」

「なんで噴き出してんだコラ」

んな面白いツラをオレは白昼晒してんのか。

「だって、嘘臭いんだもん!!ああッッ、明らかに人ウケするよーに作ったあの笑顔!!!」

蒼い髪の青年が己の体を両腕で抱きしめる。

 

「この上なく、キモイ!!!」

「よし、ジルドレ、ちょっとこっち来い。軽く性転換してやる」

 

ジャックがカラクリめいた指先から、カションと小さな音を立てて研ぎ澄まされた五本の牙が顔を覗かせる。

「ぎゃーーーッ!!お嫁に行けなくなるぅーーーーッ!!!!」

「せめて婿になれ、婿に。つか、オマエ何処まで男を捨てる気だ」

荒んだ目で一瞥くれてやれば、びーびーと赤子同然にジルドレが泣き喚く。

「ボク、やんごとなきご身分じゃなくてもいいいもんーーーッ人生エンジョイしたいだけだもんーーーーッ」

「そのやんごとなきご身分を利用してんのは何処のどいつだ」

呆れて獲物を収めれば、ジルドレはけろりとした顔でジャックの側に歩み寄った。

「・・・んだよ?」

鼻先が触れそうな距離に、ジルドレの顔がある。

その眼元にも口元にも、含んだような哂いが込められている。

コイツは、笑わないんじゃなくて笑えないんだということに気づく。

 

「哂いなよ、ジャック」

知ってる?知らないよね、ジャック。

あのね、君が仕事中に見せる哂い顔はね・・・・・

 

このボクでもゾクゾクしちゃうくらい、魅惑的なんだよ。

 

「・・・そりゃ重畳」

んじゃま、ひとつ腕前ご披露といきますかね。

 

スモーク漂うロンドンの夜に、生温かく錆びついた一陣の風が吹いた。

 

 

「笑顔の裏の笑い顔、みてみる?」

 

 

 

 

*Act.5(ルパン)*

 

行方をくらますとき、

敵を欺くとき、

───自ら、己のすべてを絶とうとするとき。

 

いつも思う。

 

 

もうこれで死ぬのは何度目だろう。

世間はルパンの死を報じるだろう。

裁判所は諸手を上げて歓喜の声を上げるだろう。

しかし皆、心のどこかで『あの怪盗はまた蘇って来るのではないか』と。

淡い期待と畏怖に、掻き乱れることだろう。

 

事実、此度の死も偽の死───

一旦行方を眩ます為だけの物、解かってる。

ちょっと失敬してきた浮浪者の遺体を燃やして、

それらしい遺書を残しておけば案外おもしろいほどに人は信じるものだ。

 

ただ、いつも思うのは───

 

心から慕ってくれる可愛い部下たちだったり

ああ、きっとマズルーはまた打ちひしがれ、ジルベールは帰還を信じ、芳黒は素直なまでに泣くのだろう。涙涸れるまで、と。

商売敵とはいえ、認めてくれている数少ない友であったり

ガニマールは隠居先で僕の死の記事を見て何と思うのだろうか。

この小童め、またやったかと苦笑いを浮かべるだろうか。

ベシューはきっと頑なに疑いつくして、僕のしっぽを掴もうとするんだろう。相変わらずの狂犬っぷりで。

愛しい人であったりするのだろう

汚れそのものでありながら清く在り続ける貴女よ、貴女のその美しい雫を一滴でも零してくださいますか?

 

そして、あの男。

偶然にも出会った事件から、正体を知っても尚『親友』と呼んでくれたあの男。

すべての光を散らしてしまう、その蒼黒の瞳にも。

透明な雫は、宿るのだろうか。

 

ポーカーフェイスなんて当に通り越して

仮面と負けず劣らずの無表情で無起伏な心を持つ彼が、もしも自分の死を憂い、涙してくれるというのなら。

 

見てみたいものだ。

 

今からすべての人を欺こうというのに、随分と不謹慎な考えだと、怪盗は自嘲的な笑いをその口元に浮かべた。

 

 

「死んだら泣かずに大笑いしてください。そして最後に疲れた一息をはいて」

 

 

 

 

 

ブラウザバックプリーズ!