わ た し 結 婚 す る の

お 兄 ち ゃ ん 、 ど う す る ?

 

 

 

『 064.血 』

 

 

 

『どうするって?』

受話器から聞こえてくる兄の声。

人によっては電話と肉声とでは声の感じが変わるという人もいるけれど、兄はそんなことない。

電話でも、肉声でも、兄の声は兄のものだった。

『どうするって?何をよ?』

「さぁ?わかんない」

何じゃそりゃ。

笑いを含んだ兄の声が脳に痺れた。

「どうしようね?」

『何?実家のこと?』

兄はもう結婚していて、東京で通勤の毎日だ。

子どもはまだ無い。

きっと家にあるお菓子を手当たり次第食べて奥さんに怒られてるんだ。

兄のお腹は成長期の子ども並みにブラックホール。

兄のお腹が大人になるまで、兄夫婦の間に子どもは要らないんだろう。

「うーん、それもあるけど」

でも、ウチ地元に残るし。しょっちゅう見に来られる距離だし。

母も父も健在だが、もうすっかり老夫婦だ。

でも、そんなに心配するようなことは無い。

『じゃ、何よ?』

話が逸れてくかと思ったら兄はまたふりだしに戻した。

「わかんない、けど」

どうしようかなって。

なんとなく、そう。

思ったことを口に出してしまっただけなんだけれども・・・・

「なんかねーーー・・・どうしよう」

ひとりの男を、好きになったんだけれども。

そいつと一緒になれるのは、嬉しいんだけれども。

好き合っては、いるんだけれども。

「なんかねーーー・・・変な感じ」

『何が?』

だってさ。

「だってさ、余所の人と一緒になるんだよ?」

変じゃん。血も繋がってないのに。

『そりゃ、余所の人を好きになったんだから、そうだろう?』

兄はよくこんなへそ曲りな妹の言葉に耳を傾けて返事をするものだなぁと、他人事のように感心してしまう。

「まあ、そうなんだけどね」

まだ何処と無く引っかかりの取れないあたしに兄が一言。

 

『安心しろ、夫婦ってのは所詮他人だ』

 

・・・うん、いや、だからあたしはそれが変だって言ってるんだよ。

つか、安心しろって何だ。

『俺とお前で考えるとな』

喋り出した兄の声に、耳を傾けると同時に寄りかかる。

『俺とお前と、父さんと母さんは「家族」だ。でも、ここで本当に繋がってんのは俺とお前だけだ』

「なんで?父さんと母さんとも、ウチと兄さんは各自繋がってるんじゃないの?」

あたしは小首を傾げる。あたしの中で、兄はいま目の前に来ている。

あの頃と変わらない姿のままで。

あの頃っていつの頃だよ、と聞かれたらそれは解からないけれど。

『うんにゃ。繋がってても、半分だけだ』

「半分?」

『そ。お前が母さんと血が繋がってるっつっても、お前のあと半分には父さんの血が混じってるだろ?』

「あ、そっか」

なんか、頭の中にぱあっと光が差したぞ。

『だから、親離れ子離れしなきゃなんないっつうのはそのせいだろ。実はそれぞれと半分しか繋がってねぇんだから』

「じゃあ、ウチと兄さんは完璧に繋がってんだ」

心なしか声の調子が明るくなったよ。何でかな。

『貴重だぞ。この血はこの世で二人しか持ってねぇんだからな』

「んじゃあ、ずっと同じでいいんだ」

『何だ、同じって』

「わかんない」

ズッ。なんて音にはならないけど、なりそうなくらい兄が脱力したのがわかった。

『おまえなぁ・・・ま、いいや。とにかく安心しろ、夫婦ってのは他人だ。一緒に居る方がオカシイ』

「うん」

『最近離婚率高すぎ☆とか言われてるけどな、そんなもん、少ねぇ方がどうかしてんだよ、本来』

「うん」

わかった。

「んじゃあもうどうもしなくてもいいや」

『つか、ホントに何をどうする気だったんだ』

「わかんない」

『も、いい・・・』

深い溜め息の後。

 

『ま、どっちにしろ要らねぇもんを省いていった後に残るのは俺とお前だけだ。安心しろ』

 

安心しろ。

 

「うん、安心した。ところで兄さん」

『うん?』

「お菓子食べてる?」

『今か?』

「ううん、いっつも」

『うん、食べてるよ』

「いつのまにか食べちゃってて、怒られてる?」

『いつのまにか家にある菓子類を制覇して、「食べようと思ってたのにーーー!!」って怒られてる』

「あはは」

『お前はよく食うように見えて実はあんま食って無かったよな、お菓子』

「兄さんが食べすぎなんだよ。人並みには食べてたよ?」

『あはは』

 

安心しろよ。

俺とお前が最後の砦だ。

 

さっきまで脈絡の無い話をしていたとは思えないほど、明るい声がそれぞれの受話器の向こうへと零れていた。

 

 

END

* * *

電話で会話してる行が思い浮かんだので、ツラツラと書いてみた〜・・・
水仙は、完全に、本当に血が繋がってるのは兄弟同士だけだと思ってるんですが。
親から見ればウチら子どもって『混血児』だよなぁ。だって余所の血が混じってんだもん。
だからそういうものを厳密に省いていくと、同じ親の血の混じった兄弟が本物かと。
でも、余所の血が混じった兄弟でも、『兄弟』ってだけでなんか特別な連帯感を感じるんですが。
水仙の中では『兄弟』は親よりも近い関係。

* * *

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