右手の中指に無装飾のシルバの指輪
これがこの三人を兄弟足らしめているなんて
うそ、
みたいだ。
誓いの指輪と言うにはあまりにも陳腐で
アクセサリと言い切ってしまうにはちと重い、中指のシルバ。
末弟のおれの右手の中指にはまる指輪はいつでもおなじ
取るのは汚れそうな時くらいで・・・・ほとんどいつも付けている。
なんの装飾もない、シンプルなシルバの指輪。
でも内側には文字が彫ってある。
brothers、と。
なんでなんだろう───そう思ってみたところでいつも答えは出ない。いっしょだ。
頭の後ろで手を組んでごろりと畳に横になる。見上げた天井は、実家のそれではない。
座卓があって、床の間には掛け軸と花。
窓際にはおきまりのように籐作りのチェアとガラスのテーブルがある。
ここはある温泉宿の一部屋。
おれはここに泊まりに来てる。残念ながら恋人とではない。
「浴衣。見えるぞ」
「・・・・・」
身を起こし、科白の主を見る。
十も年の違うこの兄は、おれを子か孫のように扱う。
手で「おいで」と招かれ、つつと近寄ると兄はあぐらを掻く。
ここに、ということらしい。
二十歳にもなった成人で、膝の上に乗せられて喜ぶヤツがいるだろうか。
いやまあ、恋人だったらあるかもしれないが。
それでも嫌というわけではない、というかなんというか。
複雑な気持ちで兄のあぐらの上に座す。
この兄はこれきりだ
揶揄かうも会話も何もない。
ただ黙ってこうしてるだけ
兄は無言で遠くを見遣り、おれは手持ち無沙汰に兄の手をいじくって遊ぶ。
兄は結婚している。
左手の薬指には結婚指輪
右手の中指には無装飾のシルバの指輪
その内側は知らない。
すこし飽きつつも他にやることも無く、兄の手をいじくり続ける。
父と子の装い
でも、おれたちは兄弟だ。
視線。
ふ、と首を捻ればじっと兄が見ている。
しかしこちらは先の兄ではない。
弟だから分かる程度の微笑をもって、おれを見ている。
おれもその目を黙って見返す。
じーっ
じーっ
六つ上の、二番目の兄。
いつもおれが耐え切れなくなって吹き出して終わる
なによ、と兄は呟いて完全な笑みを口元に持って来る。
「痩せたか?」
「そう?」
兄が二の腕に触れてくる。
「ちゃんと喰ってるか?」
「うん、まあ」
「ダメだろう、ちゃんと喰わないと」
この兄は東京で仕事をしているのだが、久しぶりに会うといつもこう言うのだった。
おれの体はアンバランスに太っていて痩せている。
おれはちゃんと食わない
食事すること自体がもう面倒くさいと思っているから。
だからいくら言われてもおれはこのまんまだ
太るも、痩せていく。
この兄はそれが分かっていながら会うたびに言う。
上の兄はそれが分かっていながら何も言わない。
どっちも正しくてありがたい
この兄も最近結婚した。
左手の薬指にはまだ真新しい結婚指輪
右手の中指には使い古したシルバの指輪
その内側も知らない。
次兄を見て、見合って、へへへと笑う。笑い合う。
兄弟の装い
うん、おれたちは兄弟だ。
等間隔に埋められた石の上を、ぴょんぴょんと跳んでいく。
上の兄と下の兄と三人で宿の庭を散歩する。
兄弟三人での温泉旅行と同じく、これも恒例になった。
上の兄が先立って歩いてゆく
おれと下の兄は並んで、あとからついてゆく。
上の兄はときおりこちらを振り返る。
おれと下の兄は、そのたびにタンタンタン、と石の上を跳んで距離を縮める。
おれは楽しくて、んんんっと笑い
下の兄はニカッと笑い
上の兄は穏やかに笑っている。
上の兄は結婚した
下の兄も結婚した
けれど必ず、年に一度はすべてを忘れて兄弟三人だけで過ごす。
誓いってわけじゃないけれど
約束、したわけじゃないけれど
それぞれの右手の中指のシルバの指輪
その内に何が刻まれていようともいなくとも、それはおれたちを暗黙のうちに兄弟足らしめている。
うそみたいに、でも明白に。
END
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買ってきた指輪をさっそくネタに☆(笑)
いえでもこのネタはちょい前から浮かんでたんです。どっちかってゆーとネタに触発されて指輪買ってきたって感じで(爆)
兄弟でも話もしたことないっていう人がいて、びっくりしたことがあります。
仲良しが大前提の兄弟なんで、ウチ^^
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