注*045.047.に登場した二人の過去話です。これだけでも読めます。

 

ちがう、真っ暗じゃない。

その背に、まわりに纏わりつく影は黒じゃない。

それは、なんとも淡白で、平面的な───

 

 

 

『052.灰色』

 

 

 

「灰色、か・・・・・?」

学校の屋上はフケる定番・お約束の場所。

正確に言うとウチの高校は屋上の出入りが禁止なので、屋上の扉がある階段の踊り場だ。

屋上が常に解放されていればフケようと来る輩もいるだろうが、こんな埃っぽくて淋しい踊り場には不良連中も滅多に来ない。

絶交の穴場と知っているから、あえて暮故夜京(クレコ ヤスチカ)はこの場所に来ていた。

 

夜京は今年で高2。

2年からは専攻が普通科・理数科・理系と分かれ、クラス替えが行われた。

8クラスもあるとやっぱりまだまだ顔も知らないヤツが多い。

大川八椿(オオカワ ハチダイ)も、そんなヤツのひとりだった。

ハメを外しすぎず、かと言って付き合いが悪いわけでも暗いわけでもなく。

自分と同じ、中間系統に属する人間。

何人かで固まって話せば、ごくごくフツーに喋くってる間柄。

可もない不可もないクラスメイト。

───だけど

座っていた夜京は踊り場の手すりに凭れた。

 

数日前の放課後。

夜京はどこの部にも所属していないが、運動部によく助っ人を頼まれる。

なので普段はそれを盾にして、気分次第で好きなときに好きな部で汗を流すことが多かった。

その日も一汗掻いてさあ帰ろう、というときだった。

薄暗い実験・実技室棟の廊下のど真ん中で、ぼうっと突っ立っている大川八椿を見たのは。

「・・・・・大川?」

声をかけたというよりは、ただ呟いたという感じだった。

廊下の真ん中で手をサイドに下ろし、顔をちょっと窓の外に向けて、見上げるように。

しかしその目は虚ろ・・・というか、こちらの世界、いま在る現実を見ているようには見えなかった。

明らかに心ここにあらずで、見るものが見たらきっとオバケとか言って逃げ出しそうな光景ではあったが、

その身を包む雰囲気が、あまりに淡白で平面的に見えたのでオレは逃げもせず見入っていた。

うすっぺらい、半透明になりそうでなれない、微妙な色合い・雰囲気。

白になれそうでなれない灰色

そんな風に思った。

着ている真っ黒なガクランでさえ、一瞬灰色に見えたほどだった。

結局オレはそれから大川に近づくことも話しかけることもせず、そのままにして踵を返した。

 

「居るのに気づかない、とか・・・そんな感じだったよな」

白のように痛いほどの明度を持つわけでもなく、黒ほどの飲み込まれそうな暗さがあるわけでもなく。

非常にぼんやりとした、曖昧な、霞んでしまいそうな、灰色。

意識を傾けたものだけが発見できる

あのときの大川はまさにそんな存在となってあの場に立っていた。

「まあ・・・ちょっといいなって思ったってことで」

終わらせとくか、そう思ってガリ、と頭を掻いたとき。

「あっれー?暮故くん?」

振り向くと、わーお、先客なんてめっずらしーい☆と言いながら今さっきまで思考の中心に居た人物が階段を上がりざま声をかけてきた。

「大川?お前なんで?」

大川八椿はなんだか歩きにくそうに近づいてくるとオレのむかいに腰を下ろした。

「もち☆サボり。そーゆう暮故くんは?」

「オレもだよ。フケるときはいつもここだけど、誰かに会うとは思わなかったな」

「え、うっそ、俺もいっつもフケるときはここなんだけど」

1年のときから、と目をまるくして大川が言った。

「へえ、オレもだぜ?いままで会わなかったのがフシギだな」

寄りかかっていた背を起こして、ふと。

「大川、どうしたんだこれ?」

「んあ?どれ?」

「足足」

長めていた大川の足に視線がいったオレはその足首に白い包帯を見止めて尋ねた。

「ああ・・・!これ?落ちた」

「は?落ちた?!」

「うん」

「どこから?!」

「階段」

「・・・・・・」

正確に言えば、階段の手すりがあんじゃん?あれの隙間を縫うようにして落ちてったの

ケラケラと笑いながら、至極なんでもないことのように話す大川。

「なんでんな器用な落ち方してんだよ・・・あっぶねーな、気をつけろよ?」

頭とか骨とか平気だったのか?と聞けば「足から落ちたから」と返答が返ってきた。

「つか、おまえ、この間も怪我して体育休んでなかったか?マジ気をつけろよ」

シャレになんねぇだろ、と告げると。

「んー・・・まあ、気をつけることは気をつけるけどさ」

そう言って、大川は曖昧な苦笑いを浮かべた。

 

 

そのときは気がつかなかったし、気にもしなかったのだが、大川は確かに「足から落ちた」と言った。

階段で、手すりもあるのに「足から落ちた」ということは、「手すりを乗り越えて落ちた」ということにならないか?

家の自室で数学の計算問題を流れ作業的に解きながら、さらりと浮かんだ考えに思わず「え?」と声を上げていた。

大川八椿。

灰色を身に纏う男。

「・・・・こりゃ一考の余地有り、だな」

なぜか苦々しく呟いたオレは、今度またあそこで一緒になったら、そのときまた包帯を巻いていたら。

問いただして吐かせよう

そう決めて、目の前の問題集に意識を戻した。

 

 

END

****************************************************************

なんかこの二人&話、やたらと気に入ってしまった^^;
とうとう名前まで登場させちゃって。お題連載の勢いです☆(もう軽くなってるって;)
まだ名字で呼び合うふたり。次は八椿の件の悪癖が夜京にバレる話でも書きたいな♪

****************************************************************

モドル