俺は高いところがニガテだ。
いや、高所恐怖症とかそんなんではなく。
たとえば歩道橋の上。
普段は見られない少し高い位置から車の群れを見下ろす位置。
下にいては感じられない、まっすぐな風。
ああ、このまま。
たとえば川の向こうの切り立った絶壁。
ほとんど垂直で、脆い岩肌がときどき密かにカラカラと乾いた音を立てて落ちてくるのを見る。
見上げた崖の上には木々が茂っている。
あそこに行くには山の何処からどう登って来ればいいんだろうといつもいつも考えている。
きっと突然視界が開けて気がついたら足を宙に一歩踏み出して落ちていくんだ。
ああでも視界が開けた時のあそこからの眺めはどんなものなんだろう。
きっと空が横にさあっと広がっていて、
きっと風が前からも下からもさあっと吹いてきて。
ああ、このまま。
たとえば海に面した崖。
昔の西洋のお城なんか憧れる。
城壁の向こうはたいがい切り立った崖で、海に面していて、逃げ場なんか無い。
海を背にして/崖に立つ
ああ、なんて。
ああ、どうかこのまま。
このまま、風に舞い吹かれて堕ちて行ってしまえばいいのに。
「───ッこ、の・・・・・ッ、自殺性はッッ・・・・」
「─────・・・・・?」
何かに引っかかっているような気がして目を開ける。
すると歯を食いしばっているダチが見えた。
グイッと凄い力がかかる。と思ったら今度はコンクリートの上にドサッと倒れた。
ダチも倒れた。
はあ、はあ、はあ、とダチが荒く呼吸する音だけが聞こえる。
「おッ、マエ、なぁーーー・・・・どうなるか分かってるクセに高いトコ行くんじゃねぇよ・・・・・!!」
ああ
ああ、もしかして。
「───・・・また跳び下り自殺未遂だった?ひょっとして」
俺は高いところがニガテだ。
いや、高所恐怖症とかそんなんではなく。
そう。理由は簡単。
高いところに行くと、風に舞い吹かれたいが為に跳び下りていってしまうのだ。
結果論的には跳び下り自殺を図っていることになる。
「ひょっとしなくてもそーだッ!!つかオレがあと数秒来るの遅かったら跳び下り自殺“未遂”じゃなくて任務遂行で“終了”してたぞ!ったく!!」
まだ荒い息で一気にまくし立てる。頭に血が上った状態なのだろう。ダチの言動が少しおかしい。
このダチとはそんなに付き合いが長いわけでは無い。
高校に入ってから知り合ったダチだったが、卒業してからもどういうわけか縁あって、度々つるんで遊ぶ仲だ。
で、ある日たまたま、今のように舞い堕ちようとしてた俺に会って事情を知って現在に至る。
つまり俺の跳び下り自殺行為(世間的に見ればな)を未然に防いでくれる、まさに『ナイス・ストッパー』的存在である。
「毎度毎度ご面倒おかけしマス」
ああそうだ、階段だ。石段だ。
表通りの歩道から逸れて小さな祠の横を抜ける下りの階段を降りようとして。
最初は祠を見下ろしてたのだけれども。
ふと階段脇で暗く深く遠く口を開けた狭いスキマを見て。
このまま綺麗にストンと落ちたら素晴らしいだろうなあ、いいなあとか思ってたら。
「実行したってワケね・・・・・・」
はーーーーーーーっとながーい溜め息を吐いて脱力するダチ。
「いやあ、覗き込んだら、つい・・・・」
ちなみに高いところというのは高層ビルの上とか、そこまで高くなくてもいい。
むしろ、ちょっとの高さでも落ちたい気持ちに駆られてしまう。
ほんの1,2メートルの高さでも、落ちたいものは落ちたいのである。
「1,2メートルでもまんま落ちてったらケガするだろーがッ!!頭なんか打ったりしたらそれこそ死んじまうだろ!!」
今日だってオレが偶然通りかからなかったら死にはしねぇでも絶対ケガしてたぞ!!
怒鳴るダチに返す言葉はない。(だって悪いのは自分だって分かってるし)
「いっつも拾ってくれてセンクスっす」
なのですんなり聞き入れる。
ただし俺はシャイなので「ありがとう」とは言えないのだが。
で、結局またどんなところで跳び下り自殺を慣行するかわからないのでダチに送られることとなった。
ダチはさっきからぶちぶち文句を言っている。
「そんなに落ちたきゃスカイダイビングにしろ!っとに・・・」
ダチの提案に思わずああ、と漏らす。
「スカイダイビングか。いいなそれ」
言うとすかさず、
「やっぱ却下だ」
何故か勧めたはずのダチからのストップ。
「なんで」
疑問アリアリで聞くとダチは
「だってオマエ、パラシュート背負わずにそのまま落ちてっちまいそうだもん」
大げさな溜め息吐いて、げんなりとそう言ったのだった。
END
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これはなんとなく連載できそうっつーか続き書いてみたいなーと思った話^^
この人は自殺性というよりは「落ち性」ですかね(笑)落ちたくて落ちたくてたまらない人。
跳び下り自殺人口のうち何人かはこーゆう人なんではないだろーか?
「飛ぼう」とは思ってなくて、ただ「落ちたい」だけの人。
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