魔女はホーキで空を飛ぶことは出来るけど

空に住むことは出来ないんだ。

 

 

 

『わたしの心は天空へ』

 

 

 

わたしは魔女である。

と言っても、黒ヤギなんかといっしょに手を取り踊ったり

ヒキガエルの御馳走なんか食べたりしない。

夜分遅くに人の家に上がりこんで

人の生き血でパンケーキを作ったり、なんてこともしない。

まあ、月に一度のブロッケン山の宴に顔は出すけど。

そういう魔女仲間から見れば、わたしは至極シンプルな魔女だった。

 

わたしが魔女になったのは魔法や呪術、知識、暦。

自然の法則。

そういったものに興味があったから。

神に背いて悪魔に魂売るほどまでに堕ちてはいない。

 

ただ、読み解くことが好きだったから。

 

逆らうことなく巡る万物の法則が、この上も無く美しくて、好きだと思ったから。

もちろん、猫に化けたり呪いをかけたり、魔法で火をつけたり消したり

ホーキで空を飛ぶことだって出来るけど。

 

でも、けっきょく魔女ってそれだけね。

恐れたり、火刑に処してまで狩るほどのものじゃない。

魔女だってけっきょくはそれだけ。

人間と、たいして変わらない。

 

 

「ゆけ。飛べ。わたしの心はブロッケン山へ」

今日は月に一度の宴の日。

ホーキに跨り一言そう告げるだけで、ホーキはわたしを乗せてもの凄い速さで飛んでゆく。

山の頂上にポツリと紅い明かりが見える。

山頂に舞い降りれば、もうすでにたくさんの魔女が集まっている。

明々と燃える炎をかこんで、みんな踊ったりおしゃべりに華を咲かせている。

 

また随分と減ったわね

 

いつもは居るはずの面々が、ポツポツと居なくなっている。

会話に混ざればすぐさま何処何処の村の魔女が狩られただのという話になった。

「・・・ターニャは?ターニャも狩られてしまったの?」

ターニャも魔女の一人でわたしの友人。

彼女もわたしと同じく、ドロドロとしたものは好まない、シンプルな魔女だった。

「先月、ね」

恋人にバレちまったようだよ

年老いた魔女がふうと溜め息をついた。

「そう」

何の感慨も無く、呟いた。

 

魔女も所詮そんなものよね

それだけだものね

 

「魔女も所詮そんなものよね。それだけだものね」

気づけばそう口にしていた。

年配の魔女たちが一瞬目を見開いてこちらを見たが、それは本当に一瞬だけで。

みんなすぐに視線を落とした。

そのとき誰かが言った。

 

「それだけなのにねぇ」

 

と。

わたしは天を仰いだ。

真っ黒な、塗りつぶしたような空に

煌々と燃える炎の紅が、ほんのすこし映りこんでいるように見えた。

 

 

魔女は呪文を唱える

魔女は呪いをかける

魔女はホーキで空を飛べる

 

でも、それだけ。

出来ることはただそれだけ。

 

呪文で死体を動かすことは出来るけど

生き返らせることは出来ない

呪えば殺せるけど

生かすことは出来ない

 

「ゆけ。飛べ。わたしの心よ───・・・・

 

天空へ。

 

 

ホーキで空を飛ぶことは出来るけど

空に住むことは出来ない

 

そこには魔女の知る自然の法則が、何も、無いから。

 

 

 

END

* * *

天空に住むようになった魔女。
それはつまり『人間』である。
怪談レストランシリーズって児童書の「魔女のレストラン」から
いろいろ設定やら言い回しを拝借してます^^;
あのシリーズはいいですよ。絵も怖くないし、文庫サイズなので手軽だし。
小さな本屋さんでも置いてるほどけっこう人気シリーズなので、機会があったら手にとってみてくださいね♪

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モドル