Cold#5

配布元:C.S

 

1 冷たい手

春/夏、秋/冬

どの季節を通してもひやりと冷たいその手を

この季節はいっそう明確に感じる。

 

「うわあ、ホームズ!」

「なんだい、ワトソン」

「なんだいじゃないよ。こんなに冷え切ってて、それでよく自由に手を動かせるね」

触れた先から広がるあまりの冷たさに、思わず背筋がピンとしゃちほこ張る。

当の手の持ち主は瀟洒に己の手をひるがえしてみせる。

「そうかな。そんなに冷たいかな?」

一年を通してその体温はおそらく常人よりも少し低い程度に保たれているのだろうが、

この寒さの厳しい──まして雪も散らつく今の季節にはいっそう低く感じられてしまう。

「うん、冷たい。冷たすぎて、一瞬感覚器が間違えて『熱い』って言うくらいに」

自分で言って、あれ、と口にする前に。

 

それじゃあ冷たいのも熱いのもたいして変わらないじゃないか。

 

ホームズがそう言って笑い出し、わたしもつられて笑ってしまったのだった。

 

 

2 冷たい瞳

ワト⇒ホム

それはたとえばまだ出逢って間もない頃の、あるとき私を見つめる瞳だったり。

彼が無能と称する警官に向けられるものだったり。

恋と愛に溺れた女を見る目だったり。

それはもう『感情』という概念に向けられていたり。

 

とにかく、あの頃の君の瞳は。

 

 

ルブ⇒ルパン

ただ一度、共に冒険した夜。

それは正式に『君としての君』に出会った夜でもあった。

悪党の手に狙いを定めた照準。

それを見留める目が。

威風堂々、場を演習し、活き活きと輝くその瞳が。

実は鋭く、斬れそうなほどに冷たく瞬いていたのを憶えてる。

あれから君と一緒の冒険はしていないけれど。

 

君は、まだ。

 

切っ先鋭いあの眼差しを。

 

 

べシュー⇒バーネット

第一印象は道化師だ

道化の目だ

人を小馬鹿にする、愉快犯のそれと一緒だと思っていた。

けれど、あの瞬間。

単純ながらも全員が騙されていたカラクリを君が見事に暴いてみせたとき。

犯人を叱責し、強く罵ったあのとき。

 

あのとき、君の眼は。

 

 

リパ⇔ハルヒ

いわゆる、燃えるような赤というものではなかったわね。

それはむしろ水を湛えていた。

溢れんばかりの、紅い水を。

冷たいと感じたのはそれだけが理由ではなく。

 

笑うとき

 

笑うのはその口元だけで

その瞳は、

 

 

漆黒の霞む夜霧のなかにほんのりと温かみの在る色を湛えておきながら。

冴え冴え、とまではいかないにしろ

何処かしっとりとした冷たさをその瞳は持ち合わせていた。

 

ヨザクラとはそういうものなのよ

 

そう言った。

そのときキラリと光を弾いた

その瞳の奥に、

 

 

3 溶けない氷(リパハル)

「ハルヒ・・・・・」

ベッドの上に横たわるハルヒは二週間前と明らかに違っていた。

たった二週間でひどく痩せ、また生気も感じられなかった。

萎れ始めた花のように、それは弱いものだった。

 

 

「あれー?もう溶けちゃった!」

「んあ?なにが?」

「氷よ、氷」

あーあ、水っぽくなちゃった☆

飲み物に入っていた氷が溶け、味が薄くなってしまったとハルヒは不平を言った。

「ね、ね、ずっと溶けない氷って無いのかなぁ」

そしたらけっこう便利だと思わない?

コイツはまたそういう浮いた夢のようなことを言う。

「無理だろ、んな常温でもすぐ溶けちまうようなもん」

ずっとなんて持つわけないと鼻であしらうと夢がなーいと機嫌を損ねた。

「夢のようなことっていうのは誰でも思う理想なんだから、いつかは誰かが叶えるもんなのよっ」

最初っから諦めてるアンタには無理だろうけどねっ

 

そんな他愛も無い話をして、その日は別れた。

それが二週間前の出来事。

 

溶けない氷───

 

 

「ハルヒ、行こう」

自分では動けなくなってしまったハルヒの体を慎重に抱き上げる。

「行こう──溶けない氷、おれが造ってやるから」

そうだずっと引っかかってた

不安だった

お前に抱いた感情。

それとは反する時間の流れ、お前が負うなにか、そして終わり。

おまえの臓腑を永遠に飾るだけでは満たせない、埋められない穴を満たす術。

 

溶けない氷

溶けない氷

解けないように。

 

「造ってやるよ。おまえのために」

そうおれのためじゃない、すべてお前のために。

夢見のバカは好きじゃないがお前のためならなってやる。

お前と共に在れるなら───

 

 

4 冷笑(ルパン)

「・・・どうした、俺が恐いか?」

夜の暗がりで垣間見た紅い月は優美な弧を描き微笑んだ。

 

「あ・・・アンタ、何モンだ・・・・?」

獲物を先盗られ、あらゆる退路を塞がられ、一切の活路を失った悪党。

かつては悪の限りを尽くした男も、いまは震え切った声しか上げられない。

「さっき言ってやっただろう。元警察でいまは歯牙無き私立探偵さ」

微量の明かりしかない暗闇に浮かび上がるシルエットは細く、

優雅な立ち振る舞いはまるで洗練された上流階級のそれと見紛うほどだった。

蒼白になる頭でも、この男の言うことが真実でないことだけは察することが出来た。

「う、嘘だ、アンタ、ほんとは何モンだ?ヘタなことするとアンタも・・・・」

哀れな悪党は思いもよらなかっただろう

この問いがさらに自分を完全なる絶望へと突き落とすことになろうとは。

暗闇に在るはずの無い紅い月が描かれる。

 

「アルセーヌ・ルパンさ」

 

自ら招いた絶望の深淵に堕ちてゆく───

 

「ははははは・・・どうだい、小悪党!

敵う相手じゃ無かったということが解ったかい? うん、よしよし、結構結構。・・・・だがちと遅すぎたか?」

 

あっははははははは!!!!

 

気でも違ったかのような甲高い笑い声が、

いまやすべてを失った男の耳の奥でいつまでも響いていた。

 

 

5 ヒトリボッチ(学園パロ・べシュー)

夏休み。

世間の高校生たちなら待ちに待った休み

──同時に課題も盛り沢山出されるのだが──

にも拘らず、ベシューは近づく夏に、ひとり浮かない顔をしていた。

 

 

ベシューは寮生だ。

夏季休業中は寮も閉まってしまうので、夏休みは実家に帰らなくてはならない。

彼はそれが何よりも嫌だった。

 

ガラガラガラ

久しぶりに実家の敷居を跨ぐ。

旧家というわけではないが、昔造りの広い家。

彼の口から『ただいま』の言葉が出ることは無い。

おかえりと返してくれる存在が、当の昔にここから消え去っているためだ。

母が精神を病み、病院に入ると父親もどこかにふらりと消えた。

唯一慕っていた祖母も一昨年亡くなった。

 

・・・じーわじーわじーわ・・・・・

 

ドサリ。

荷物を置き、広すぎる畳の居間にひとり座り込む。

 

長い長い、夏が始まる───

 

 

モドル