『御伽噺』でお題抜粋5題☆

借り先⇒朧オモイ・別館

 

01:狼の恋した赤頭巾

*最初に「Gift」の方にあるオマケを読んだ方が宜しです*

「・・・・・?」

意識が浮上すると同時に徐々に走るような痛みの感覚に襲われる。

感覚がある、ということは生きているということだ。

 

・・・ゴーリゴーリゴーリ・・・・・

 

何やら重いものが擦れるような音がする。

・・・なんだ?

すうっと目を開けた。

見えたのは暗い木の洞の吸い込まれるような闇。

辺りに立ち込める湿った木の匂いがそれをさらに確信させてくれる。

 

・・・・ゴーリゴーリゴーリ・・・・・

 

で、さっきからするこの音はなんだろう。

発信源を捜そうにも、首も回せないほど力が入らない。

「よいしょっと」

とつぜん愛らしい声が振ってきた。

どうやら側に誰か居るらしい。

ごそごそと影が動いてるような気配。

それがだんだんと近づいてきて・・・・・

 

ひょこっ。

 

いきなり視界に幼い顔が飛び込んだ。

「あ、起きてる!」

嬉しそうな顔で笑うのは、先ほど己の手からすり抜けていってしまった少女、赤頭巾───

そうだ。先ほど自分は森の中で眠っていた少女を抱き起こした折に猟師に撃たれた。

少女は猟師に手を引かれて自分の前から去っていったはずだ。

その少女がどうして自分の目の前に居るのだろうか。

わけが解からずぼんやりと覗き込む少女の顔を眺めていると、「大丈夫?」と心配そうな声をかけられた。

「薬草で痛いの止めるお薬作ったんだけど・・・・」

飲めるかなぁ、と心配そうに眉を寄せた。

木の器の中で、タプン、と薬湯が音を立てた。

体格差の問題上、赤頭巾が自分を抱き上げて起こすのは無理。

勿論、私が自身の力で起きるのも無理。

「少しずつでいいから・・・」

赤頭巾は薬湯にひとさし指を入れると、それを私の口元に持ってきた。

舐めてでも、ということらしい。

一瞬戸惑ったが、差し出された指を拒むのも気が引けてその小さな指をそろりと舐めた。

 

湿った木の匂いの中。

するはずの無い、指を舐めるざらりとした音が聞こえてくるようだった。

 

 

 

02:毒を盛られた魔女

*最初に「Gift」の方にあるオマケを読んだ方が宜しです*

カミサマ。

主よ。

なんでもいい。

誰でもいい。

 

どうか

 

彼女に、新しい命を。

 

 

莫迦げた喧騒はもう聞こえてこない。

爵位の装いの男が手を振ると同時にそれはピタリと止んでしまった。

目も髪も瑞々しく紅い、一目見て『妖艶』という言葉が似合う男の手によって。

急激に外に霧が立ち込め始める。

奇妙に紅いその霧の中ではシュウウウウ、と何かが融けていく音がした。

その様子を見届けるものがいればこそ悲鳴のひとつでも上がっただろうが、生憎とそんなものは居ない。

 

「・・・・・・・♪」

立ち込める霧に紛れるように、そっと囁くような歌が男の愁眉な唇から零れ始める。

その腕には色を失った少女───魔女と呼ばれた最後の存在がいた。

そっと少女の髪を掻き上げるように梳く。

その額に、頬に、口に。

掠めるような口づけを落としてゆく。

 

嗚呼、まるで生きてるようじゃないか?

 

死後硬直も無い。

色は失えどその柔らかさは変わらない。

 

ただ、その唇から漏れる吐息と沈み込んだ胸から聞こえるはずの鼓動が聞こえないだけで。

 

「嗚呼・・・・こんなことなら・・・・・」

 

怖がらずに、恐れずに。

きみにこの姿を晒していればよかった。

きっと君ならそれがどうしたと言ってくれただろうに。

 

さて、脱け殻になってしまったきみの身体を如何しようか。

 

男は己の指輪に填め込まれた紅く煌めく小さな宝石を、口に咥えてカチリと外した。

そのままその雫のような宝石を口に含み、抱きかかえた少女に口づける。

長く深い口づけの末、少女の喉がゆっくりと上下した。

ぴくりと少女の指先が震えるように動いた瞬間。

 

男の紅い目は、危険と狂喜に強く煌めいていた。

 

 

 

 

03:眠りに誘う眠り姫

 

薄汚れた木箱が転がる狭い路地裏でソイツは声をかけてきた。

「ねぇ、きみいくつ?」

ニコニコ顔で話しかけてきた男はいってせいぜい二十歳ぐらいに見えた。

 

他人のことは言えないが、俺に負けず劣らずソイツの外見は奇妙だった。

真っ青な巻き毛の長い髪に琥珀色の瞳。

色白で細身で、見るからに女っぽいヤツだった。

なのでいきなり首を落とす斧を振り上げてきたときにはさすがにビビッた。

その細っこい身体の何処にそんな力を蓄えてやがるんだと本気で思ったほどだ。

 

「おとこの子の首を集めるのが趣味なんだよ♪」

 

男は楽しそうにそう言って、だから頂戴、などとほざいてくる。

だがまだ十を過ぎたばかりの俺だって裏社会で生き抜いてきたのだ。

そう簡単にコレクションの一品に加えられて、会ったばかりの見ず知らずの男を慰める気も無い。

 

小さな体を生かして一気に間合いを詰めると、男を膝で地に伏せる。

そのまま不完全ながらも護身用に取り付けていた鉤爪をその白い喉元に押し付けた。

「チェック・メイト≪王手≫」

それはわずか一瞬の出来事だったので、目の前の男は

いまいち置かれた状況を理解していないのか、きょとんと目を瞠って俺を見上げていた。

 

いきなり人の首を狙ってきた不届き者だし、殺ってもいいかと考えて鉤爪を食い込ませる。

 

「い、痛い、痛いーーーーっ」

上がった悲鳴はなんとも幼さの残るものだった。

緊張が削がれた。

殺る気が一気に失せて、手を放した。

「?」

喉を擦りながら男が起き上がる。

「どうしたのー?」

背を向けた俺に間抜けた声が降りかかる。

 

どうしたもこうしたもあるか。

 

死の恐怖に怯えての悲鳴なら一層の鮮血を誘っただろうが、

あんな幼さの残る、それも緊張感のカケラも無い声を上げられては気分も萎える。

「うるせ・・・・、ッ?!」

「ねむーい☆」

背後の男に罵声を浴びせようとした瞬間にのしりと体に影が圧し掛かった。

言わずもがな、それはさっきの男で。

「オイッ!!ふざけんなよオマエッッ!!!!(怒)」

「ふざけてないもん。ホントに眠いんだもん☆」

「だッ、ちょ・・・!!」

男は抱きついてきて、あれよという間に自分を抱き枕にした。

「ぅオイッッ!!!オマエ!!!(怒・マックス☆)」

「おまえじゃないもぉーん・・・・・」

こんな路地裏で、男はもう寝の体勢に入っている。

ごそごそと身じろいで、空き箱の間に身を沈める。

「ジル・ド・レだもぉーん・・・・(−−)zzz」

寝ぼけた口調でそこまで言うと、規則正しい寝息が聞こえてきた。

 

「・・・・・・・・・なんなんだよ」

男の腕から抜け出そうと努力してみたが、これがまたしっかりと抱きしめられていて抜け出せない。

その間も男はすぴょすぴょと気持ち良さそうに眠っている。

 

あ〜〜〜・・・俺も眠くなってきたかも・・・・・・

 

明らかに目の前の男による疲労から来たものだと思われるが。

幸いいまの季節は空気が暖かく、こんな路地裏でしばし寝こけてしまっても支障は来たさない。

目が覚めたら首と胴が切り離されてるかもしれないが、そのときはそのとき。

しばらくして、男の腕の中からも規則的な寝息が聞こえてきた。

 

これが後の切り裂きジャックとジル・ド・レの初めての出会い。

 

 

 

04:キスを拒んだ白雪姫

 

ずっとずっと決めていたことがある。

もしも、もしももう一度この世に生まれ落ちたら。

そのとき、再び彼の側に在れたら。

自分は、もう。

 

下校のベルが鳴って、皆それぞれ家や部活へと散って行く。

「ワトソン、一緒に帰らないか?」

人もまばらになった教室で、ホームズが声をかけてきた。

「あ、今日は図書館で本の整理があるんだよ」

鞄に教科書を詰め込みながら、顔を上げる。

「ああ、そうか。図書委員だったね」

ホームズが頬に手を当てる。

「うん」

「一緒に行ってもいいかな」

「うん」

ふたり一緒に教室を出て、別棟の図書館へと歩き出す。

 

時間は古き良き時代を超えて現代。

ありえないことだと思いはすれど、あの頃の記憶をそのままに今に在る、自分たち。

今も昔と変わらずに二人並んで歩き、何かあれば二人一緒に行動することが多い。

そう、それは昔と何ら変わりない時代を超えた日々。

そう在れたことに幸福を感じつつ、それでも決めたことがあった。

 

『あった』と言うには語弊がある。

それはあの頃から、もうずっとずっと前から決めていたことなのだから。

 

カラカラカラ。

図書館の扉を開けると、一気に本の香りが溢れ出てきた。

カウンターの横に鞄を置くと、返却された本を元に戻す作業を始める。

ホームズはスッと深呼吸して、図書館独特の空気を胸一杯に吸い込んでいる。

館内だし、ホームズとこれといった会話もないが、

お互いを邪魔しない心地よい無言の空間がとても心地よかった。

しばらく本を棚に戻すのに集中していて、後ろに来ていた彼の気配に気づくのが遅れた。

「・・・ワトソン───」

「え、わッ・・・・」

ス、と体を屈めて自分に視線を合わせたホームズの顔が近づいてきた。

直に唇が触れ合う、というところまで来た瞬間にハッとする。

「ヤッ・・・・!!」

「!!」

バネ仕掛けのようにバッと腕を出して引っ込めると身を小さくして棚に寄りかかった。

バサバサバサ。

持っていた本が足元にバラけて落ちる。

突き返された勢いでよろけたホームズが尻餅をついたところではたと顔を上げる。

「あっ・・・ごめん、ホームズっ」

「あ、ああ・・・いや」

こっちもいきなりだった、とホームズが立ち上がってズボンの埃をはたく。

光を失った目でその動作を見つめる自分をホームズは知らない。

「・・・・・ごめん、びっくり、して」

嘘だ。

「いいさワトソン。気にしちゃいないさ」

嘘だ。

 

零れた本を掻き集める。

「すぐに終わらせるから、はやく帰ろう」

ニッコリ笑う。

「ああ、良ければ僕も手伝うよワトソン」

笑ってそう返される。

ぎこちなさは悟られなかっただろうか。

 

今度は二人並んで、棚に本を戻し始めた。

 

 

ずっとずっと決めていたことがある。

もしも、もしももう一度この世に生まれ落ちたら。

そのとき、再び彼の側に在れたら。

 

自分はもう彼と深い関係を望まない。

 

どんなに時代が移り変わろうとも。

自分たちの関係は、想いは多くに軽蔑の目で見られるものだ。

この想いも関係も、いまだ背徳行為に変わりは無い。

 

だからこそ。

 

今度こそこの想いを秘めましょう。

この時代をつつがなく生きていけるように。

そう、それは他ならぬ彼のため。

 

己の胸で静かに誓って、ワトソンは目を閉じた。

 

 

キスを拒んだ白雪姫の

それは密やかな誓い。

 

 

 

 

05:月を捨てたかぐや姫

 

「・・・・何処だここ。」

ベシューが目を覚ましたのは知らない寝室。

少なくとも自分のアパートの寝室ではない。

ムクッと起き上がると頭がぼーっとした。

日はもう昇っているようで、窓から差し込む光が眩しかった。

 

今日は何日?

日は昇っている。

平日?休日?

仕事は?

 

「・・・・ああ。」

思い出した、というような溜め息がその口から漏れた。

空白だった脳内が次々と点と線で結ばれてゆく。

 

ああ、そうだった。

 

ここは知らない寝室じゃない。

ここは自分のアパートの寝室じゃない。

ここは。

 

部屋のドアがカチャリと開く音がして。

部屋を覗き込んだ人物が目を見開く。

「珍しいな。起こす前に起きてるなんて」

それでも早い、と言える時間じゃないがな。

徒っぽくそう言うとその人物はベッドの傍らへと歩み寄ってきた。

「・・・・・・」

何も言わない自分を不審に思ったのか、しゃがみこんで顔を覗きこんでくる。

「ベシュー?まだ寝てるのか?」

ぼーっとした目に鈍い金色が入り込んでくる。

「・・・・ジム」

「ん?」

いつのまにかジムの手が頭を撫でていた。

思いのほか心地よくて目を細めてしまう。

 

「いまなんじ」

「9時」

「きょうはなんにち?」

「5月23日」

「へいじつ?きゅうじつ?」

「平日」

「しごとは?」

 

いつもなら軽く一掃されただろう。

だがまだ目が覚めていないだけだとでも思っているのか、ジムは逐一この一問一答に応えた。

 

「いつもどおり依頼の受付は午後2時から3時まで。それ以外の時間は自由だ」

 

だから寝たければ好きなだけ寝ていろ、とジムは言う。

「起きる・・・・・」

はっしとジムの服の袖にしがみ付き、よじ登るように体を起こす。

が、しかし。

「こら、ベシュー。起きるのか寝るのかどっちかにしろ」

己の袖にしっかりとしがみ付いたまま再び惰眠を貪り始めたベシューの頭を、溜め息混じりにジムは小突いた。

 

 

月を捨てたかぐや姫。

違う環境に慣れるにはもうすこし時間が必要。

そうこれはベシューがバーネット探偵社に引き抜かれてまだ間もない頃の話。

 

 

 

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