ああ、扉がある

ああ、閉まっている

 

この薄板一枚向こうの空間に行くためにはノックしなければならない

向こうにいる相手に自分の存在の介入を伝えるために

それが世間一般の礼儀、作法。

 

コン、コン。

 

ただ叩けばいいだけなのに

それだけでこの向こうの空間に入れるのに

たったそれだけなのに

 

ああ、それだけ、なのに。

 

 

 

『 Nock tHe dooR 』

 

 

 

はあ・・・・・

『バーネット探偵社』事務所内、事務室の扉の前でベシューは途方に暮れていた。

彼の拳はノックをしようと持ち上がるが、すぐにゆるゆると落ちてきて音も無くドアに寄りかかってしまう。

さっきからその繰り返しで、扉の前で立ち尽くしていた。

 

ノックは苦手だ

怖いというか、不安というか。

別にノックをして知らない人が出てきたらどうしようとか、開けたら誰も居なかったときの落胆が嫌だとかそんなことではなく。

ただ、このたった薄板一枚で向こうの世界と隔絶されてしまっているのが。

かなしい?さびしい?

・・・・莫迦らしい

そんなことを考えている間にも時間は過ぎていって、ますますノックがしにくくなってゆく。

あの男も鋭いから、いい加減自分の気配に気づいていつまで経っても入ってこない影を訝しんでいるかもしれない。

・・・・今日は帰ろう

取り立てて急ぐ用事ではないし、日を改めて来た方がいいだろう。

もう今日はこの扉に向かってノックが出来そうに無い。

そう思い、小さく一度溜め息を吐いて立ち去ろうとした。

 

 

なにをやってるんだ、アイツは。

さっきから扉の向こうで突っ立ったきり入ってこない気配をバーネットは不思議に思っていた。

 

戸惑うように揺れる気配は何度もこちらに働きかけようとするが、寸でのところで引いてしまう。

その繰り返しでいっこうに動かない気配は、確かに見知った刑事のものなのだが。

ここに来るのだからおそらく何らかの厄介な事件を持ってきたのだろう。

入ってこないのはいつも行うピン撥ねを気にしてか、しかしそんなことで難事件の解決を棒に振るようなヤツでもない。

俺に相談するのが嫌な事件なのか、それとも。

だがどれも違うような気がして考え込んでいると、戸口の気配がすうっと離れるのを感じて慌てて立ち上がった。

 

まったく何なんだ、アイツは・・・・!!

ドアノブを掴んで回すとこれでもかと言うほど勢い欲、

入るのならとっとと入らないか、ベシュー!

ガチャッ、ガン!!

・・・・・ッ!!

ドアを開けたと同時に突っ立っていたベシューの顔面にドアがクリーンヒットした。

思わず顔を押さえてその場にへたり込むベシュー。悶絶気味だ。

ああ、どうして自分はいつもこんな目に遭わなくてはならないのか。

衝撃で涙目になっているとグイッと襟首を掴まれ、そのままドアの向こうの部屋へと引きずられていく。

「ちょッ・・・ジム?!」

慌てて立ち上がろうとすれども、力を増した腕力によって再びずるずると引きずられてゆく。

ぐ、げ・・・・!!ちょ、ジッ・・・・くるし・・・・ッ

襟首を掴まれて引きずられているため、首を締めつけられて・・・・気が遠くなりかけたところでパッと手を離されて。

ゴン!!

今度は突然放された勢いで頭を激しく床とご対面。

悶絶気味に、そして気が遠くなりかけ。ここに来てさすがに軽く気絶する。

「ああ、もう!!」

これ以上まだ僕の手を煩わせる気か、君は!!

自分のした仕打ちを棚に上げ、伸びた男を不機嫌も露わに来客用の長椅子に横たえる。

憤然とした面持ちで事務机を回り、どっかと腰を下ろす。

「・・・・わるかったよ〜・・・・・・」

よれよれの、揺れるような情けない声に顔をあげる。

「おれ、ノックが苦手なんだよ・・・・・・」

「じゃあ、勝手に入ってくればいいだろう」

驚いたような視線。樹木の幹のように深く茶色い瞳を大きく瞠って。

「別に知らない仲でもなし、勝手に入ってくればいいじゃないかと言ってるんだ」

「ん・・・でも・・・・あ〜〜〜・・・;」

親しき仲にも礼儀ありって言うしぃ〜〜〜〜

なかなか踏ん切りのつかない友人に探偵が切れた。

「だーーー!!もうッッ!!じゃあ事務室の扉をいつも少し開けておくから、隙間から顔を覗かせて入って来い!!(怒)」

これで決定!異議申し立てはいっさい受け付けないからな!!

「隙間から顔覗かせるって・・・オバケかおれは・・・・・怪しいじゃな」

スコォン!!、サクッ☆

飛来したファイルが見事に眉間に突き刺さり(死ぬって;)、三度沈没する。

異議申し立てはいっさい受け付けないといっただろ

はたしてそのセリフがこの哀れな刑事の耳に届いていたかどうか。

 

 

届いていたかどうかは別として、以後バーネット探偵社の事務室の扉はいつもほんの少しだけ開いている。

その習慣は『バーネット・ベシュー探偵社』になってからも変わらないこととなる。

でも、それはまだ少し先の話。

 

 

END

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ああ、いぢめがいのあるキャラよvvv(酷★)
これはラクガキとしてアプした漫画ネタです。ベシューのノック苦手感は水仙のものです。
苦手なんですよ、ノックすんの・・・・もともとふすまだらけの家で生きてきたせいもあるんでしょうが。
なのでよく兄の部屋にはノックもせずに入り、戸口で固まってました(笑)イキナリ入っても何言っていいか分かんないんですよね(ダメじゃん)
そしてドアをほんの少し開けて顔を覗かせる癖があったのはウチの兄だったりして。オールウェイズほん怖★
生んだ親が「オカシイ」と称するほど、ウチら兄妹はオカシイのでした(爆)

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