風鈴小僧(桃太郎)

 

 廃寺となったその寺の軒先には忘れ去られた風鈴がひとつ、季節を問わず揺れている。

 

 ちりん

 ちりりん

 

 風に乗って甲高い鈴の音が遠くまで響く。

 

 

 近所にあるその廃寺はいわゆる『出る』ともっぱら噂の場所だった。

 瓦屋根はあちこちが剥げ、座敷は苔生していたし周りを囲んでいる漆喰の塀にも大きな穴が空いていた。

 寺の裏手にある墓地には誰か来ているのか時折真新しい花がぽつぽつと見えることがあったが、墓石のほとんどが崩れているものばかりだ。

 浮浪者が住み着くことも無く、廃寺には風が吹き抜けていくばかりである。

 その風の合間を縫うように、此処を通りかかるといつも聞こえてくる音。

 

 ちりん

 ちりりん

 

「風鈴が鳴ってる」

 別に誰に言ったわけでもない。僕は廃寺へと視線を向け、独り言を言った。

 振り向いた其処はちょうど塀に空いた大きな穴がある所で、侘びも寂びも過ぎた庭の奥に廃寺の縁側が見えた。

 その軒先に、妙なものがぶら下がっているのを見とめる。

 人だ。でも変だ。

 町人風の着物を着て笠を被った小僧が、軒先にぶら下がっている。

 首を括って。

 目は見えないがその口元は弧を描き、あっかんべぇをするようにベロを出していた。

 廃寺に風が吹きぬけるとその小僧も揺れる。

 そしてあの音がするのだ。

 ちりん、ちりりんと。

 風が鳴らす小さな鐘の音が。

 ははあと思った僕は塀に空いた穴をくぐって小僧に近づいた。

「おまえ、風鈴のお化けなんだな。風鈴小僧とでもいうのかな」

 小僧のすぐ下まで行き、見上げて言った。やはりこれは僕の独り言だ。

 小僧は僕が近づいてきても何をするでもない。

 風が吹くたびにゆらゆらと揺れ、ちりんちりりんとどこかで風鈴の鳴る音がした。

 僕は暫くそこで風鈴小僧が揺れるのを見ていたが、ふと興が逸れて踵を返した。

 次の瞬間。

 

 ちりんちりりりん

 ちりんりりりりりんちりんちちちちりりりりりん

 ちりんちりんちりんちりりりりん

 

 けたたましいほどの風鈴の音が響き渡った。それは明らかにひとつのものではなく、僕が思わず振り返ると───

 

 一様に弧を描いた口からベロを出し、笠を被った小僧が、廃寺の軒先にずらりと並んで揺れていた。

 そのうちの一人の風鈴小僧がちょいちょいと指で己の隣を指差す。

 その小僧の隣には輪の作られた縄がひとつ下がっていた。

 僕の分、ということらしいが夏の間だけならばともかく、僕は季節を問わず風鈴になって軒先で揺れているつもりはない。

 御免被るよと言い置いて、僕はその廃寺を後にした。

 

 ちりん

 ちりりん

 

 風に乗って甲高い鈴の音が遠くまで響く。

 

 

 

END

 一つ目小僧、雨降り小僧、豆腐小僧、いろいろあるじゃないですか、妖怪小僧シリーズ(笑)
 それで風鈴小僧、なんてのがあったら面白いかな、と思いついて打ってみた。
 でもこれはイラストとか漫画とかの方がきっと向いてる話だな、と思った。
 んで、放置してたのを発掘。ちょい打ち直してアップ(爆)

 『風鈴小僧』は文字通り風鈴のお化け。
 軒先にいつまでも放置された古い風鈴が化けたもの。付喪神。
 風体としては笠を被り、にんまり笑った口から大きなベロを出して首を括っている。
 とくに何をするわけでもないが、心身不安定時に見てしまうと魅入られ、誘われて一緒に並んで首を括ってしまう畏れ有。
 基本、喋らないが桃太郎は顔なじみの為、いろいろと仕草で何事か教えてくれるようである。
 古寺などに放置されている鐘なども化けるようで、中には一つ目小僧と懇意の風鈴小僧もいるようだ。

 

 ブラウザバックプリーズ!

 

09.02.19.TOWEL・M