*注意!ハルヒがモブに襲われてます(未遂)
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 まるで犬のよう。

 自分の上に圧しかかっている男を見上げて、ハルヒはそう思った。

 

 


『狂猫』

 

 


 薄汚れた中年風情の男が道端で少女の体に圧しかかっていた。
そこそこに脂肪が蓄えられているのは、酒太りだろうなと自分を組み敷く男を見上げて少女──ハルヒは思った。

 イーストエンドの細い裏道で、ハルヒは見知らぬ男に押し倒されていた。
この界隈では夜分に女一人で歩いていれば、そんなことは日常茶飯事で起こりうることだということは、
彼女も承知で歩いていたので現実そうなったからといってとくに動じることもなかった。
たとい暴漢に襲われたとしても、それで失うものは自分の中には無いとハルヒはそう思っているのだった。

 ハルヒが見上げた男の顔は全体的に赤ら顔で、とりわけ鼻の頭が赤かった。
いかにも、酒好きといった様子だった。それでなくとも吐く息から、体から、酒の匂いがぷんぷんしていた。
だらしなく開かれた口の隙間から、これまた隙間だらけの歯が見えた。
ハッ、ハッ、と短く漏らされる息が顔にかかる。

 まるで犬のよう。
 狂い病にかかった、野犬のよう。

 男の顔を見上げながらそんなことを思っていると、その顔がぐぅっと近づいてきた。
何、と思う間に半開きの口の間からだらりと大きな舌が垂れ出てくると、ハルヒの顎から口、頬にかけてをべろりと舐め上げた。

「っ、」

 何度も舐め上げてくるそれをかわそうと顔を背ければ、
今度は着物の襟を力ずくで開かれて露わになった肩から首筋にかけてをべろりべろりと舐められた。
 体を起こそうにも、男は前のめりになってハルヒの上半身に圧しかかっていたため、上体はぴくとも動かせそうになかった。
 そのうちに背けていた顔を前に戻されると、大きな舌が、口内いっぱいに侵入してきた。

「うぶ、ぅ」

 溢れんばかりの質量を持ったそれは狭い口内を蠢き舐め回る。
呼吸を完全に奪われて、ハルヒの口からくぐもった声が漏れた。
鼻の奥からツンとした臭いが立ち上る。

 アルコールの臭い──
そこでハルヒは切り裂きジャックの、あの贓物の薬品漬けを思い出していた。
 酒よりもあれの臭いに近い、と。

 口内から舌がずるりと抜けていった、と思ったらそのままべろりと頬までを舐められる。
 再び口内に舌が侵入し、そこから頬へ。
 さしたる抵抗をされないことに調子づいているのか、酒気を帯びた舌はハルヒの顔や肩から首筋を自由に這い回った。

 ふとそこで男が体を起こし、ハルヒの着物の襟に再び手をかけ、ぐいぐいと力任せに引っ張り始めた。
脱がそうにも脱がせ方が分からないのだろう。ひとまず上半身だけでも、という意図が見て取れた。
 ハルヒはといえば、ようやくまともに呼吸が出来ると先ほどまで奪われていた酸素を取り戻すべく息をついていた。
 でも今度は上が寒くなってきたな──そう思っていた矢先、体にかかっていた重みが瞬間的に失われた。

「?」

 着物にかかっていた手も、その手の持ち主であった男も、一瞬にして目の前から消えてしまった。
 どうなったのかと体を起こしかけたところで、再び自分以外の体重が圧し被さってきた。
 しかし圧しかかってきたそれからは、先ほどのような酒臭さはしなかった。
 逆にふんわりと柔らかいものが首筋をくすぐった。
 そのままその柔らかいものは露わになった肩や胸などをかすめていく。

「ふは、」

 触れ撫でていく感触がくすぐったくて、ハルヒが笑い気味に息をこぼすと、胸元でもそもそと動いていたそれが声を上げた。

「あ、やっぱりハルだった」
「・・・・・・ジルくん?」

 胸元でひょっこり顔を出したのは、最近知り合ったばかりのジル・ド・レだった。

「ハルー、ハルハルー」
「ひゃっは、はは、ジルくんくすぐったい」

 肌を露出した胸元に向かってもそもそと喋られて、ハルヒはくすぐったさに思わず身をよじって笑った。
逃げを打つハルヒの体を追いかけるように、ジル・ド・レの体もまた彼女の体の上を這い上ってきた。
 ハルヒの顔にジル・ド・レの顔が届くくらいまで来ると、彼はハルヒの頬に唇を這わせ、ときに軽く食み、撫で触れた。
散々頬を撫で触れてから、ハルヒの唇へとそれは移動してきた。同じように触れ、食み、更に舌で唇をぺろりと舐めた。
顎や唇や頬を舐めるだけ舐めると、その舌は口内へと侵入してきた。

 さっきまで圧しかかっていた男とほとんど同じようなことをしているのに、随分と感じが違うものだとハルヒは思う。
端的に言ってしまえば、先ほどの男はこれから先の行為へ及ぶ明確な意図があった。
その過程を見れば及ぶべくしてある行為なわけで、むしろそれが当然と言える。

 けれどジル・ド・レの場合は必ずしもそうでは無いようだ。
唇を這わせるのも、舌で舐めるのも、行為を楽しむというよりは感触を味わっているように思える。
いま口内を這い回っている舌も、内側の皮膚の感触を確かめるかのように隅々まで余すことなく動いている。
こちらの舌に彼の舌が絡みついても、そこにいやらしさは無い。
それでもやっぱり息苦しかったが。でも、酒臭くはなかった。

 ジルくんはまるで猫のよう、とハルヒは思った。

 先ほどの男が犬ならば、ジル・ド・レは猫。
感触を確かめて、気に入れば体をすり寄せてくる猫。

 たとえば互いに裸で肌を合わせたとしても、ジル・ド・レならばそれ以上の行為に及ぶことは無いのだろうとハルヒには思われた。

 むしろ肌を曝して見せて、それがもしジル・ド・レの食欲などを刺激してしまったら、本当に文字通り食べられてしまいそう。
 そのときはジル・ド・レ手ずから料理長の元へと持って行き、あの琥珀色の瞳を無邪気に輝かせて調理してくれとでも言うのかもしれない。

 ハルヒがそんなことを夢想している間に口内を這い回った舌は出て行き、また首や肩、胸などへと唇が這わされた。

「ハルー、んー、ハルハルー」
「なに?ジルくん。って、ふはっ、くすぐったいってば」

 胸元の合わせに顔を突っ込んでジル・ド・レが喋るものだから、ハルヒはくすぐったくて仕方がない。

「ハルのお腹に触りたい。いいよね」
「いいけど、ここだと寒いよ」
「じゃあどっか行こ!」

 急にジル・ド・レがハルヒの腹を触りたいと言い出した。
なぜ腹、と思わなくはなかったが、ジル・ド・レの考えることなので
本当に単純にそこが触りたいと思っただけなのだろうとハルヒは思った。
 道端に転がっていたことを思い出し、寒さにふるりと体を震わせると、
突然ジル・ド・レがハルヒの体を抱き上げた。そのまま上機嫌で歩き始める。

「ジルくん?」
「どこがいーかなぁ、ベッドだけのトコはもう埋まってるだろうから、
 やっぱ部屋だよね。部屋なら誰にも邪魔されないし。パブかな、うん」

 発言だけを聞けば、まさにこれから行為に及びに行きますという風にしか聞こえないのだが、
そうではないことをハルヒはもちろん分かっている。

 不思議な男(ヒト)もいるものね。

 自分のことは棚に上げ、ハルヒはそう思った。

 

 二人が居なくなった後の路地裏の隅には、頭をパックリ割られた男の死体がひとつ、転がっていた。

 

END

『未知との遭遇』の別状況下でのハルヒ視点的な話だったはずなんですが。
状況が状況だったせいか今一つ未消化な感じになっちゃいました。
ハルヒとジルドレの触れ合いは、どこまで行っても男女の関係にはならないってあたりが伝わってれば…いいなぁ…!(爆)

ちなみにこの後ハルヒが襲われる機会はどんどん減っていきます。
リパ、ジル、ハイドとハイレベルな犯罪者連中に懐かれて、襲われても襲った方が殺されるので
イーストエンドの有象無象でも『あの女に手を出すとヤバイ!』って学習します(笑)
本人何もしてないのにハルヒが通った後には有象無象の死体が転がってる、無自覚な恐ろしい子です(笑)

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14.02.11.TOWEL・M