その日、僕は公園のベンチに座って本を読んでいた。
だから、
「トリックオアトリート!!」
だから、子どもたちのその奇襲に柄にも無く驚き、また反応も遅れた。
『ウィルの末裔』
「あ・・・そっか、今日はハロウィンだったっけ」
驚いた顔をそのままに、目の前に眩しいまでの笑顔を並べた子どもたちに聞かせるでもなく、僕は呆けたように呟いた。
「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!!」
三者三様、オバケの格好をして楽しげにハシャギながらそう叫ぶ子どもたちの様子に、頬が緩む。
「ちょっと待ってね・・・」
だがしかし、突然の襲撃に対応できるシロモノを、果たして持っていたかどうか・・・。
ゴソゴソとポケットというポケットの中を探る。
胸ポケットの中から、コロリとキャラメルが2個、転がり出た。
ううん、惜しい。
目の前にいるのは三人の子どもたち。
どう考えても、あとひとつ足りない。
「たりないー」
「たりないー」
僕の考えに同調するように、子どもたちが詠唱する。
「あ、そうだ」
そこでふと思いついて、カバンの中より折り畳みナイフを取り出す。
キャラメルの包み紙を二つとも解き、それぞれナイフで等分する。
結果、そこには四つのキャラメルが誕生した。
「これは君に。こっちは君で、これが君の分。それで、」
四つのうち、三つのキャラメルをそれぞれ子どもたちの小さな掌へと置いていく。
「それで、この最後の一つは僕の分。あいにくお菓子は今これだけしかなくってね。いいかな?」
そう問えばオバケに扮した子どもたちは一様に喜びの声を上げて去って行った。
彼らの後姿を苦笑を浮かべて見送ると、手元に残った一欠けらのキャラメルを口の中へと放り込み立ち上がる。
公園内を横切る際、噴水の近くを通りがかった。
ふと、流れる水面に映った己の姿を見つめる。
そこには学生服を着用し、学生カバンを持った青少年の姿がゆらゆらと歪んでいた。
何にでもなれる。
常に他の誰かに変ずる自分は、ある意味一年中ハロゥインの虜なのかもしれない。
トリック オア トリート。悪戯かお菓子か。
「ああ・・・私の場合、悪戯だけでなく詭計(きけい)も含まれますねぇ」
誰に言うでもなく呟く。むしろ私の想い人であり宿敵はそちらの意味でのトリックを期待しているキライがある。
神を騙したウィル。天国にも地獄にも行けず彷徨うウィル。悪魔に哀れに思われ、地獄の劫火を手に甘い闇の中を彷徨うウィル。
何度も死に、何度と無く蘇り世間を欺く私そのものではないか。
愚かな愚かな、ウィルの末裔。
ただひとつ、違うところがあるとするならば。
「私をしつこく追いかけ、どんなに闇に身を潜めようと見出してくる物好きがいるということぐらいですかね」
身を翻し、噴水を離れる。公園の入り口へと向かって歩き出す。
すでに日は沈み、太陽が残した灯火が誰そ彼刻を生み出している。茫洋として、曖昧な視界を生み出す時間帯。
夜の住人にとって、短くも一番事を起こしやすいときでもある。
「さて、今夜は何をして遊びましょうかね。───明智先生?」
公園の外に一歩出てそう呟いた影はすでに学生の姿をしていなかった。
そこに立っていたのは黒いスーツを着込んだ一人の紳士。
バサリ、と外套がはためく音がした。
END
リハビリをかねてハロウィンな20。
ハロウィンの仮装とか、ジャック・オ・ランタンのウィルの由来とか見てたら
20ってば年中ハロウィンじゃん?とか思った。
でもウィルと違って20にはどこまでも追いかけてきてくれる明智がいるから、救いもある気がする。
明智だったら、20が天国にも地獄にも行けなくて彷徨うことになったら、一緒に彷徨ってくれそう。
「生きてるときと何が違う?」「さあ、逃げろ。捕まえてやる」とか言ってふんぞり返ってそうだ(笑)
そんなわけでハッピーハロウィン。
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09.10.31.TOWEL・M