今日は奢りだ、と同僚は言う。

 

 

 今日は奢りだ、と同僚は言う。

 では今の時間帯は夜でここは酒場かと言えばそんなことはなく、真昼の食事時の慌ただしいカフェだったりする。

「何故だ?」

 ウェイターが来てタイムリミット。散々悩んだ挙げ句結局いつもと同じ香草パスタを注文する。

 食べてみたいものは他にもあるのに、主食は一品しか頼めないことにこの時ばかりは不満を覚える。

 まあ、品位を棄ててしまえばいいことなのだが。

 天下の女王のお膝元で働いている手前、やはりそれは出来ないことだろう。

「またパスタか」

 好きだなお前も。そう言う同僚は毎度違うものを頼む。本日はあまり腹が空いていないのかサンドウィッチを所望した。

「それで、何故奢りなのだ」

 お前に奢って貰うようなことをした覚えはないが。

 そう言って首を傾げると同僚は忘れてんのか、と溜息を吐いた。

 忘れているとは何をだろう。何かしただろうか。足元に擦り寄ってきた黒猫を適当にあやしながら考える。

「…というか忘れてても思い出せそうなもんだけどな」

 お前の場合、と同僚はどこかゲンナリしたように呆れてみせた。

 どういう意味だ、と言おうとして目の前に注文の品が並んだ。意識は自然そちらに流れる。

 無心でパスタを口に運び始める。それは相手も同じだったようで、しばし無言の時が過ぎた。

「なんで奢りかって」

「うん?」

 不意に同僚が口を開いた。最後のサンドウィッチを口に頬張り、同僚は言った。

「誕生日だからだろうが」

「……我がか?」

「俺の誕生日で俺が奢るか」

 足元ではさっきの黒猫がまだ戯れている。

「そうだったか」

 ふむ、と納得してパスタを頬張る。

「分かったら、さっさと食えよ」

 言って同僚―――ピーターはクイ、と親指で空を指した。

「うむ。そうだな」

 再び残りのパスタへ集中し出した我の頭上で、この魔王め、とピーターがぼやいた。

 

 遠くから、僅かだかしかし確実に雷鳴の轟きが聞こえてきた。

 

 

 

END

 2008年の日記ブログの方に載せたSS。
 ひと月遅れで書いてたのか。まあツアー中だったしね。
 メモリスティックに入ってなかったのでログ取りがてら再アップ。
 相手がグレなのかピーターなのか最初からでは判別できなかったら
 管理人としては吉。
 判別できない曖昧さが好き。

ブラウザバックプリーズ!

 

09.06.06.TOWEL・M