いつの時代も、ませるのが早いのは女の子である。

 その日、平吉は珍しく近所の女の子に混じって遊んでいた。

 男児たちに比べると女児は平吉の見てくれに比較的寛容で、ときおり遊びに混ぜてくれたのである。

 最初は皆でお手玉や鞠つきに興じていたが、一休みもかねて談笑するうちにいつのまにか好きなひとの話になった。

 如何に恋愛のレの字も知らない子どもとは言え、そこは女の子。

 次々と意中の殿方の名前が飛び交った。

 

「へいきっちゃんは?だれがすき?」

 

 黙って女の子たちの様子を見ていた平吉は突然話を振られて、その黄金目を満月のようにまんまるに瞠った。

 

 

 

『幼子の婚礼』

 

 

 

「ごろーちゃーん」

 ちいさな足音と共に、幼い声が自分を呼んだ。

「平吉」

 縁側の方からやって来た姿を見て、読んでいた本を閉じて立ち上がる。

「ごろーちゃん、ごほんよんでたの?」

「ああ。どうした?」

 下駄を脱ぎ、よじ登って座敷に上がろうと足をバタつかせる姿に、

虫みたいだなと感想を抱きつつ両脇に手を差し入れて家の中に上げてやった。

「・・・・・・あのね、ごろーちゃん」

「うん?」

 畳に足を下ろした平吉が、十五夜のような目でじっとこちらを見上げてくる。

「あのね、三けんおとなりのフミちゃんがね、ごろーちゃんのことすきってゆってた」

「・・・・ふぅん?」

 それってどんな子だったっけ。

 思い出せぬ女児の姿に、眉間に皺を作る。

「それとね、すぎばやしのトミちゃんもごろーちゃんのこと、すきってゆってた」

「・・・・・・・・・・」

 平吉が言わんとしていることが分からず、ひとまず黙って聞いていることにする。

 もちろん、杉林のトミなんて顔の判別どころかその顔すら覚えてもいない。

 平吉の口から出る、ということはこの近所なのだろうが。

「さっきね、みんなであそんでてね、それで・・・すきなひとのおはなしになってね、ごろーちゃんのなまえがいっぱいでたの」

 僕の服の裾を掴む平吉のちいさな手にきゅ、と力が込められた。

「ごろーちゃんは、すきなおんなのこ、いる?」

「いないよ」

 こればっかりは本当だったので、即答した。

「ほんとう?」

「うん、本当」

 そこで初めて平吉は視線を外し、ほんのりと頬に朱を上らせてもじもじとし始めた。

「じゃあ・・・・じゃあね、へいきち、おおきくなったらごろーちゃんのおよめさんになりたい」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 たっぷり三十秒くらいは固まっていただろうか。

 いやもしかするともっとかもしれない。

「・・・・え?平吉、およめさんになりたいって・・・・・・・・」

 僕の?

 ぽかんとした様子で聞き返す僕に、平吉はこっくりと肯いた。

 

 平吉のことは、確かに好きだ。

 顔も名前もろくに覚えていない近所の女の子たちなんかよりよっぽど。

 だがしかし。

 

 いくら女の子の格好をしていようとも。

 

 平吉、おまえは男の子だ。

 

 現実問題としてお嫁に、など無理な話である。

 無理な話ではあるが・・・

 

「・・・ごろーちゃん、へーきちのこと、きらい?」

 無言の僕をどう思ったか。

 平吉はその黄金色の瞳をうるうると潤ませ始めた。

「!! 違う!!平吉!!」

 いまにも泣き出さんばかりの顔になった平吉の肩をがしっと掴んで顔を覗き込む。

「平吉、大丈夫だ。嫌いじゃない。・・・・・・・・・大きくなったら、僕のお嫁さんにしてやる」

「ほんと?!」

「ああ。だから泣くんじゃない」

 そう言った途端、平吉はぱあっと顔を輝かせた。

 溜まった涙がひとつふたつ零れたのを拭ってやると、嬉しそうに目を細めた。

 まあ、小さい子の言うことだし。

 そう言い訳して、ひとまず泣かれずに済んだことに僕は安堵の溜息を吐いた。

 

 

 時は経て明智邸のここは書庫室。

 ここだけは書生時代の明智を思わせるかのように本が其処彼処に散乱し、

ある場所は塔を、またある場所は城壁のように本が積み上がっていた。

 

「ねーーーあけちーあけちーあけちってばー」

 せっかく一山終えた恋人がやって来たというのに折り悪く本の虫が増殖してしまい、

ろくに構ってくれない自分に平吉は不満も露わに横で騒いでいる。

「ごろーちゃーん」

 腕と胴の隙間にズボッと頭を突っ込んできて、何読んでるの?と一緒になって本を覗き込む。

 こちらは彼の頭が邪魔になって、一向に本が読めない。

「こら。平吉、邪魔だ。退け」

 ぐいっと片手で頭を押しやれば、うーうーと声を上げて抵抗する。

 気づけばしっかりと腰に腕が巻きついている。ちょっとやそっとでは、離れそうも無かった。

 溜息を吐き、本を閉じるとしがみ付いてくる身体を抱き寄せ、組み伏せる。

「やっとこっち見た」

「まったく、お前は・・・・・」

 文句のひとつも言ってやろうかというところで嬉しそうに擦り寄られて、喉元まで出かけた言葉を呑み込む。

 確かに久しく会えたというのに、構ってやらなかったのは悪かった。

 何せ甘ったれの淋しがりやだ。構ってくれと騒がない方が何かあったのかと逆に心配になる。

 奇跡的に取り戻した幼馴染は、あの日のことを覚えてなどいないだろう。

 だが。

「ごろーちゃん、ごろーちゃん」

「うん?」

 照れ臭そうに自分を呼んで耳元で囁く言葉を聞く限り、あの日の約束をあながち違えてもいないのだろう。

 

 俺もだ、と答えて。

 彼の唇に自分のそれを合わせる。

 

 

 

END

うっわ、甘ッ!!(笑)
いや、最初に書いた二人の子ども時代があまりに悲哀でもう自分でも読み返せなくなるほどだったんで(ぇ)
甘々なのが書きたいな〜とか思ってたらこんなん出ました。
ちっちゃい頃の『およめさんにして』発言は必須だよね!ましてや幼馴染設定なら尚更だよね!!(ぇ?)
ということで以前ブログでほのめかしていた妄想を形成。
幼い頃の夢がかなってよかったねお二人さん!Σd(゜▽゜) 違。
しかし甘くて眩暈がします(なら書くな)

 

ブラウザバックプリーズ!

 

09.05.22.TOWEL・M