ちっとも君が見つからないもどかしさ。

 

 これはきっと罰なのだ。

 

 あのとき、無碍に彼の手を振り払った自分への。

 

 

 

『書生時代』

 

 

 

 無造作に伸びて絡まった髪を不機嫌に引っ掻き回しながら煙草屋の二階の自室へと上がる。

 今日もまた望むものが得られないまま、時間だけが過ぎた。

 

 ・・・・・幼年から少年にかけては見世物小屋やサーカスをそれこそ巡りに巡った。

 別にそこで作り物の奇妙な生き物を見たり、人間離れした曲芸に見惚れていたわけでもない。

 ただ、自分はそこにかつての幼馴染の姿を捜した。

 

 ・・・幼馴染は、彼は、類稀なる美しい黄金目の持ち主だった。

 生まれつきであり、それによって忌み嫌われもしていたが子ども心に私はどんな宝石も彼の目には敵わないだろうと思ったものだ。

 失くしたものは著しく誇張され脳内に美しく残るものだが、あの黄金目の美しさは決して妄想の産物などではなかっただろう。

 幼いある日、無情にも実の親に売られた彼を、子どもなりに心当たりをあたって必死に捜したものだ。

 

 どこかの見世物小屋で籠に入れられ飾られているのではないか。

 どこかのサーカスで身体がボロボロになるほどの芸を強いられているのではないか。

 

 いつ、どこの場所でも、目を隈なく凝らしてあの黄金目を捜した。

 青年になってからは、色街にも足を運ぶようになった。

 幼少年時代には思いつきもしなかった情欲にまみれた世界。

 こんなところに彼が押し込められていたらと思うと堪らなかった。

 幼少年時代にはただ見て捜すだけであった見世物小屋やサーカスには積極的に尋ね回るようになった。

 だが、どこも知らぬ存ぜぬで首を横に振るばかり。

 実際、仕入れてきた子どものことなど逐一記憶などしていないのだろう。

 正攻法では彼の行方に辿り着けないことをかねてから悟り始めていた私は以前にも増して犯罪や裏の世界について学ぶようになった。

 学校を出ると高等遊民を称して書生として下宿に籠り、本に埋もれた。

 知識を蓄え、経験を蓄え、情報網を張り巡らせ。

 そして徐々に探偵じみた話を持って来られることが多くなってきているが、それは単なる結果に過ぎない。

 

 私の目的は、いつでもただ一人だったのだから。

 

 今日も今日とて捜しに行った先で空振りに終わり、煙草屋の二階の本で埋め尽くされた四畳半で濛濛と煙草をくゆらせる。

 一向に掴めない彼の行方に、厭な考えが頭を過ぎる。

 だがそれは一番得たくない結果でもあった。

 

 ・・・・彼が売られていく日。

 私は彼を跳ね除けた。

 理由などもう覚えていない。子ども特有の癇癪だったのだろうか。

 だが、まさかそれが一生の絶望になろうとは───あの日の自分は思いも寄らなかった。

 

 五月蝿い

 ついてくるな

 泣くんじゃない

 

 子どもの喧嘩だった。

 それが、翌日も続いていく日常であったなら。

 きっと後日、ごめん、と謝った。

 ごめん、平吉。と。

 白く細い、頼りない手を取りながら。

 

 けれど、日常は続かなかった。

 あの日が、終わりだったのだ。

 

 あのとき、自分は終わりを知った。

 昨日という日が、必ずしもすべて今日に続いていくものではないということも。

 

 謝らなくては。

 

 あの手を取って、あの黄金目を覗き込んで。

 言わなくては。

 ごめん、と。

 ごめん、平吉。と。

 

 そんな他愛も無い理由で彼を捜し始めて。

 気づけば自分は成人になっていた。

 

 最近では度々、厭な考えが脳裏を過ぎるようになっていた。

 彼はもう、この世には居ないのではないかと。

 それはそれで、新たな絶望だった。

 もしも彼が死んでいたら、こちらはもう何も働きかける手段が無い。 

 

 だが、たとえそうだとしても。

 私は彼を捜さなくてはならない。

 これはきっと罰なのだ。

 あのとき、無碍に彼の手を振り払った自分への。

 

 彼を見失ってから、幾年の月日が過ぎただろう。

 彼ももう成人しているはずだ。

 けれど私の瞼の裏に映る彼の姿は幼い頃の姿のまま、時を経ることが無い。

 

 知らないからだ。

 彼の時間の経過を。

 

 分からないからだ。

 彼がいま、どんな姿をしているのか。

 

 無事でいるのか。

 幸福なのか。

 

 私のことなど、覚えていてくれなくていい。

 

 ただ一目。

 生きて無事な姿を見られたら。

 それだけで、私は。

 

「・・・・・・・・平吉」

 

 呼ぶ度に囚われていくのは分かっていた。

 

「平吉、」

 

 それでも構わず、まるで謳うように何度もその名を口ずさんでいた。

 幻だけが、思い出の中で微笑っている。

 

 

「へいきち、」

 

 

 謝らなくては、

 

 

 

END

 明智の贖罪年間。(ぇ)
 D坂とか屋根裏の散歩者事件のあたりとか。
 事件を解きながらも実はとにかくひたすら平吉の行方を捜してるといいよ明智。
 ウチの明智20における明智は幼年時に20(平吉)に対して決定的なことをしてしまっているので(笑)
 平吉に対する想いがハンパ無いです。平吉=20だって知ったときも、それはそれでまた絶望するんだけど
 たとえ平吉が20だとしても自分が探偵やってきたのはあくまで平吉を見つけることが目的でやってきたんだから、
 手に入れて何が悪い!てな感じで開き直ってるといい。(爆)
 20はごろーちゃんのこと覚えてるけど、ごろーちゃん=明智とは知らなかったので明智にそれを口にされた瞬間に
 こっちはこっちで盛大に絶望してるといい。でも明智は20を手に入れる気マンマンなので(笑)
 そこは丸く収まる感じで。(収まるのか)
 そんなわけでウチの明智は20にべったべたに甘いのですね。甘やかしまくり。(笑)

 

ブラウザバックプリーズ!

 

09.04.22.TOWEL・M