あのまちこのまち陽が暮れる(明智20)
あのまちこのまち 日が暮れる 日が暮れる
いま来たこのみち かえりゃんせ
かえりゃんせ
・・・・・最初は、明智と手を繋いで歩いていた。
明智と呼ぶよりはごろーちゃんと言った方がしっくり来るかもしれない。
だって自分も彼も幼い頃のあの日の姿だったから。
時刻は夕暮れ。強すぎる朱がせかいを染めていた。
ちいさな二人とは比べ物にならないほど長く大きな影が途に伸びる。
それが自分の意志とは別物に今にも動き出しそうで怖かった。
幼いふたり、手を繋いで。
きっと、今から家路に着くところだったのだろう。
誰も居ない、淋しい町屋敷をちいさな影が通り過ぎていく。
「・・・・・・? ごろーちゃん?」
しっかり繋いでいたはずの手は、いつのまにか無くなっていた。
隣にいたはずの明智も、いつのまにか居なくなっていた。
「ごろーちゃん?」
辺りを見回すも、誰もいない。何処にもいない。
立ち並ぶ家々も、強い朱に照らされてただはっきりと影を作るだけで。
「ごろーちゃん?」
泣きそうになりながらもう一度辺りを見回す。
すると自分よりも少し後ろの方に、夕日を背にした小さな影。
「ごろーちゃん」
顔は見えなくとも、シルエットで分かった。ホッとして、名前を呼びながら数歩近寄る。
「ごろーちゃん」
だが、明智は何の反応も返さない。
ただじっとこちらを向いて立っている。
強い朱の逆光の中、明智の顔ははっきりとした影の中にあって、黒く塗りつぶされていた。
「ごろー、ちゃん?」
何も言わない明智が恐ろしくて、縋るように名前を呼んだ。
けれど彼は一向に何も喋ってくれはしない。
そもそも始めから、彼は何も喋ってくれていなかったのではないか?
朱に影作るその顔は、その顔は───
何も言わない明智がゆっくり近づいてくる。
静かに。足音も立てずに。
目の前までやってきたのに、彼の顔は未だ逆光で見えなった。
否。逆光ではなかった。
彼の顔は、ぽっかりと穴が空いていた。
暗い、べったりと黒で塗りつぶしたような。
おうちがだんだん とおくなる とおくなる
いま来たこのみち かえりゃんせ
かえりゃんせ
手が伸びてきて──それも最早明智の手と言うよりは影のような手だった──僕の肩を掴む。
真っ黒な穴の空いた顔が、僕を覗き込んだ。
朱い空、真っ黒な彼の顔───
「───!」
短い悲鳴を上げて、目を覚ました。
目を覚ましたそこは夜の闇と静けさに包まれた明智の寝室。
そこでいつものように明智に抱きしめられたまま、自分は眠っていたのだった。
身を起こすと眠っている明智の顔が見えた。
「はーーーー・・・・」
明智の顔を見て、上がっていた息を整えるとひとつ大きく息を吐いた。
厭な夢だ。
幼少時代の苦痛を繰り返す夢ならともかく、あの頃唯一の心の支えだった明智があんな形で夢に出てくるなんて。
「はーーーー・・・・・」
もう一度、重い溜息を吐いた。
気持が悪い。シャツが汗でぐっしょりと濡れている。
着替えようとしてベッドを抜け出しかけたところで、腕を掴まれ引っ張られた。
「わ!」
そのままベッドに引っくり返ると、力強い腕の中に閉じ込められる。
「あ、あけち?!」
「何処行くんだ?」
目を閉じたまま明智が低い声を出す。
やはりというか、先ほど自分が目を覚ましたときに、彼も起きてしまったようだった。
「あ、ごめん。起こして・・・」
「何処行くんだ?」
明智は同じ言葉を繰り返した。
「ちょっと汗かいて気持悪くなっちゃったから着替えようと思って・・・って、明智も気持ち悪いでしょ?汗」
汗にぐっしょりと濡れた自分を構わず抱きしめる彼に、慌てて身を離そうと突っぱねるが、しっかりと身体に回された腕は解けなかった。
「ちょ、だから明智・・・」
「厭な夢でも見たのか」
「・・・そんな、こと」
「見たのか」
身体に回されていた腕が解かれ、伸びてきた手が頭を撫でる。
間髪入れずに畳み掛けられて、何も言えずにただその優しい手を感受した。
強張りが消えていくのが分かる。
思いの他、体が緊張していたことに気づいて恥ずかしくなった。
もう大丈夫、と明智に告げようとして。
あのまちこのまち 日が暮れる 日が暮れる
おうちがだんだん とおくなる とおくなる
「───ッ!!」
急に夢の中のぽっかりと暗く穴の空いた明智の顔を思い出し、がばと明智に抱きついた。
背に回した手が、指が、彼の寝間着に皺を作る。
「平吉?」
震える身体を、宥めるように温かい手が摩る。
「平吉」
明智の手が背中を摩り、髪を撫でる。
髪越しに、優しい口づけが落ちる。
「あけ、ち」
「落ち着いたか?」
夜の闇の中、そろそろと見上げた明智の顔は真っ黒などではなく、優しく微笑んでいた。
目の端に滲んだ涙をそっと舐め取られるのに、う、と声を上げると明智がクスリと笑った。
「いつまで経っても慣れないヤツだな」
「だって・・・・・」
こんなこと、されたことないし・・・・・。
ゆったりと撫でられることで弛緩した意識が再びまどろんでいく。
そうか、と囁いた声が呪文となり。
落ちた瞼に、小さな口付けが落とされた。
瞼の向こう、朱色に沈む町が見える。
その中に茫洋と佇む影に吸い込まれそうになり、厭だと叫ぶ。
だがそこで今度は背後からしっかりとした手に掴まれる。
振り向くとそこには明智が居た。子どもではない、今、現在の明智。
気づくと自分も今の姿になっていた。
向かい合った明智をきょとんと見つめれば苦笑され、行くぞと手を引かれる。
歩いていく先には町があった。朱色に染まった町と大差無いように見えたが、違うと言えば、その町が青空に包まれていたことだ。
緑が清々しい風に揺れ、心地よかった。
そういえば朱色に染まった町に、木々はあっただろうか。
ふと思い出し、もう一度朱色の町の方を振り返ると、町は随分遠ざかり、小さくなっていた。
淋しい屋敷町の途の真ん中、幼少の明智の姿をした何かがぽっかりと暗い顔を空けて
こちらを見ているのが何故かはっきりとよく判ったのだが、それもやがて遠ざかり、見えなくなった。
前を向くと、変わらず明智が手を引いていた。
微笑を浮かべて、こちらを見ている。
何処に行くのかと尋ねると何処へ行きたい?と返された。
何処でもいいのかと尋ねると、何処でもいいから聞いたのだろうと笑われた。
そうか。何処へでも行けるのか。
そう思ったら急に嬉しくなって、何処に行こう、と明智に行った。
だからそれを聞いてるんだろう?と苦笑交じりに返された。
だったらとりあえず歩こうと提案する。
行き先を決めるのは、いつでもいい。
END
もうちょっとうまくまとめたかったなーと思いつつ挫折。(コラ)
ずっと前からこの童謡は明智20というか、二十面相というか、そんな感じだなぁと思ってたので出せてスッキリ。
ちょっと怖い童謡とかって、乱歩のとくに二十面相シリーズに似合いそうとか勝手に思ってる。
シンプルな分、たぶん余計に漂う不気味さが合ってるんだろうなぁ、自分的に。
明智はこれでもかというほど平吉を甘やかしてれば良いですよ。もう甘々に。
二十面相を幸せにし隊。
ブラウザバックプリーズ!
09.01.20.TOWEL・M