「まったく、時と場所を選べってんだ」
怪盗は苛立ちを露わに一人ごちる。
「ル・バリュ、車を用意しておいてくれ。速いヤツだ。それと彼に良く似合う、大輪の花束も」
「はい」
戦々恐々とした空気の中、しっかりと恋人の元へ向かう気満々の主人に部下はクスクスと笑った。
漂う血と硝煙の臭い。その中で一瞬香る不釣合いな花の香り。
『ハッピーバースデイ』
「おめでとう、ルブラン!」
「ラウール・・・ぶ、」
ルブラン邸に窓を突き破らん勢いで入ってきた怪盗はその勢いをそのままに己の伝記者に花束を差し出す・・・もとい、押し付ける格好となった。
大輪の花束の間から、ぷはっとルブランが顔を出してしぱしぱと瞬きをした。
「遅くなってしまってすまなかったね。今日はせっかくの君の誕生日だってのに!」
ああ、もう二時間足らずで終わってしまうね。
ルパンは悲しそうにそう言うとルブランを抱きしめた。
「いや・・・来てくれただけで・・・・・・嬉しい」
ぽつりと呟いたルブランに、ルパンは目を瞠り次の瞬間には柔和に微笑んだ。
普段は無表情で寡黙な彼からの精一杯の愛情表現。
ほんのりと薔薇色に染まったその目元が愛しくてそっと口付ける。
「・・・・・・・?ラウール?」
「うん?どうかした?」
今にも触れ合いそうな距離はそのままに、ルパンはルブランに視線を合わせた。
「や、なんか・・・・・・・・・」
「?」
にっこり笑って首を傾げるルパン。
いつもの彼であるはずなのに、どこか違和感を感じ得ないルブランはそれをうまく言葉に表せなくて言い澱む。
強すぎるまでの花の芳香。
色濃く漂うそれに混じって僅かに鼻をついた臭い。
気のせい、で済まされてしまいそうなそれも、目の前にいる彼ならば判らない。
「ラウール・・・・・なにか・・・仕事、してきた・・・・・?」
それもついさっきまで。
眉を寄せて見上げれば苦笑を浮かべた顔がルブランの目に映った。
「うーん?ちょっと、ね?でもたいしたことじゃないよ?」
「でも硝煙の臭いが・・・・・・・・」
「あー・・・」
ルパンが遠い目になって、ルブランから視線を外す。
そのことからルブランはたいしたことのある仕事を彼がついさっきまでしていたのだと確信する。
「危ない仕事をしてきたんだったら、無理に来なくても良かったのに・・・・」
「冗談じゃない!君の生まれた日に君の傍に居られないなんて!!」
「だって・・・・危ないじゃないか・・・・・」
断固抗議してきた彼に、ルブランは更に言い募ろうとして不意に顔を伏せてしまった。
だって、誕生日に愛する人を失ってしまったら、それ以上の悲しみなんて無い。
毎年自分の生まれた日が来るたびに愛する人を失った悲しみに暮れるなんて厭だ。
それだったら、誕生日に間に合わなくても、しっかりと仕事を片付けて無事な姿で会いに来て欲しい。
硝煙の臭いを漂わせて帰ってくるなんて、心配になるではないか。
そこまで思い至って、ルブランはハッと顔を上げた。
「怪我は・・・・・・」
「無いよ。仕事の臭いを持ち込んだのは悪かったよ。何分、節操のないマフィアが相手だったもんでね」
怪盗はさらっと恐ろしいことを言う。
それでも彼が無事だということに緊張していた体が弛緩する。
花が潰れてしまうかもしれないと思ったが、ルブランは構わず彼に抱きついた。
「ルブラン?」
どこか嬉しそうに響く彼の声。
常ならばこんな風に抱きしめたりするのは彼の方だから、珍しく積極的なルブランの態度に喜びを隠せないのだろう。
だからルブランは少し拗ねたような声を上げた。心配して損をした、と。
「僕は心配をかけて得をした」
けれど怪盗はますます調子付いてルブランを抱きしめ返すだけだ。
抱きしめられた彼の胸の内にルブランが溜息を零す。
「誕生日に間に合わなくてもいいから今度は仕事の臭いをきちんと消してから来い。
・・・・・・誕生日に一日居ないくらい、その先一生会えないより全然いい・・・・・」
少し、怪盗の身体が揺れたように思えた。
「・・・・・・来年は、仕事すら入らないようにしておくよ。意地でもね」
ゆっくりと紡がれたその言葉には謝罪の意も含まれていたのだろう。
そうしてゆっくりとルブランの顔を上げさせると
「君の生まれてきてくれたこの日を、君を、愛しく思う」
怪盗の口から誓いのような言葉が紡がれ、伝記者の唇を慈しんだ。
END
遅れたけどルブランはぴば。
きっとルブの誕生日の日でもうっかり仕事が入っちゃったりして、
それでも無理無理抜けてくるか片付けるかしてでもルパンは来ちゃうんだろうなーと思って。
それがかえってルブを心配させることになろうとも知らずに。
ルブは祝ってくれるのならいつだっていいのですよ。
ルパンが元気な姿で来てくれるなら。
ブラウザバックプリーズ!
08.12.08.TOWEL・M