首、首、首。
女の首。子供の首。
美しい首。
ワタシを魅了する
首、首、首。
嗚呼、ワタシの心を魅了する
アナタの首を齧りたい。
そう、ワタシは愚かな首齧り。
『 首齧り・2 』
「はあ・・・・・」
顔に手を当てて私は深く溜息を吐いた。
「大丈夫ですか?これ、お茶です」
良かったらどうぞと声のした方を見れば、見覚えのある子供の姿。
「おや、君はたしかこの間の」
「はい、先日はどうも失礼しました」
ぺこりと丁寧に頭を下げる少年にいいんだよと手を横に振る。
「ぼく、明智先生の助手をしてる小林と言います」
「ああ、君が───よく新聞等で活躍を見ているよ。と、するとさっきの方が探偵の明智先生かな」
「ええ、そうです」
少年が答えるより先に、背後からよく通るテノールが響いた。
「先生!」
少年が振り返った方へ顔を向けると、そこにはクシャクシャな髪にそれと同じグレイブラウンの目を持った長身の男が佇んでいた。
「どうも先ほどはすみませんでした」
彼の動線を追いながらそう言うと彼は首を横へ振った。
「無理もありませんよ。あんなものを見せられたら普通の人間は参ってしまう」
正面のソファへ足を組んで腰掛け、顔を上げるとまっすぐに私の顔を見た。
なんとも気だるげな動きで物憂げに見えるくせにその瞳は叡智の輝きで満ちている。
射抜かれる思いがして、居心地悪く私は視線を逸らした。
「さて、発見当初の状況を詳しくお聞かせ願いますでしょうか」
「あ、はい」
詳しく───と言ってもそれはあまり有力な情報にはならないような気がした。
朝、いつもより少し早く目を覚ました私は朝靄のひんやりとした心地よさに惹かれて散歩に出た。
視界は真っ白で、わずかに足元の小砂利が見える程度であったが───不意に急に鼻につく異臭を感じたのだ。
鉄臭いような生臭いような、とにかくそんな不快な臭いであった。
視界がはっきりしない為、ついその臭いの出所を確かめようと道を逸れたのがいけなかった。
臭いの濃くなる方へと歩みを進めていくと、はたしてそこに不気味な首無し死体を見つけたのである。
思い出しただけでも血の気が引いていく気がした。
「大丈夫ですか?」
実際にそうだったようだ。目前の探偵がこちらの顔を覗き込んでくる。
「え、ええ。大丈夫です」
彼の視線から逃れるように慌てて顔を逸らした。
そんな私の様子を彼はじっと見つめていたが、小さくひとつ肯くと小さな助手の名前を呼んだ。
「小林くん」
「はい」
「すまないが、聞き込みに回ってもらっていいかな。
最近不審な人物を見かけなかったかどうか、周囲の別荘の人たちに訊いて欲しいんだ」
そう指示を出す間も、探偵の目は私から一度も逸らされなかった。
「はい!わかりました!」
幼い少年助手は己の師の様子に気がつかなかったらしい。
サッと立ち上がるとぺこりと一礼し、素早い動きで部屋を出て行った。
あとには明智探偵と私だけが残された。
向かい合ったまま、互いにじっと相手を見つめている。
どれほどそうしていただろうか。
先に視線を切ったのは明智探偵だった。
彼は足を組みなおすと姿勢を崩し、ソファの背にも垂れて顔を上げると今一度私をまっすぐに見つめた。
その目は先ほどの叡智の輝きに鋭さが増している。
私は私で目を伏せ足を組むと、ゆったりとソファに座りなおした。
再び視線を上げたとき、私の表情にさっきまであった『遺体の第一発見者』という面影は何処にも無かったろう。
彼の顔が確信に変わったのがその証拠。
挑戦的な視線がぶつかり合う。
「さて、そういえばまだ貴方のお名前を伺ってませんでしたね?」
威嚇するような低い声。まったく今更何を言っているのだこの人は。
「おや、そうでしたか?しかし私が貴方に名乗る必要がおありですかねぇ」
口の端を吊り上げる。ニィィ、と笑った口はきっと紅い三日月のようだろう。
グレイブラウンの瞳が鋭さをいっそう増して銀色に輝いた。
「名前。名前ね。本名と言われると僕も少し困るのだがね」
切れそうな瞳の奥に、映し出された自分を見つける。その事実に、私はうっとりした。
「先の事件で自爆死したはずの男がなんだってこんなところに居るんだい?───二十面相?」
「久しくお目にかかれて光栄ですよ、明智先生」
私───いや、僕は睨めつけてくる明智ににっこりと笑みで返した。
NEXT
展開早。
ま、いっか。
もう早く20と明智を絡めたいだけです。(爆)
08.09.14.TOWEL・M