いつも紅茶は冷めてしまうんだ

 

 

無意識に

彼の家の方へと進む足に

我ながら

 

苦笑した

 

 

 

『ジンクス』

 

 

 

今回の死も大々的に報道されてしまったものだ。

この国の警察・裁判官どもは諸手を挙げて喜び、国民たちは驚きつつも予想外の期待に心躍らせている。

あらゆるメディアを飛び交い、その見出しをトップで飾っているのは私の死だ。

 

当の本人がカフェで葡萄酒を片手に己の死を報ずる紙面を見ているのは、何とも滑稽だ。

 

少しのサラダを食べ、葡萄酒を飲み干す。

死人となったいま、私は私でありながら何者でもなく、自由だ。

たとえ素顔を晒していたとしても、死という事実は私をたやすく森の中へと隠してくれる。

もっとも、私の素顔を知るものなど無いに等しいのだけれど。

 

一週間経った。

『彼』はどうしただろうか。

いくら浮世離れした彼でも、もう私の死は耳にしていることだろう。

私が死ぬのはこれが最初ではなく、もう随分何度も死んでいる。

その度に不死鳥の如く蘇り、一般大衆からは不死身のヒーロー扱いだ。

 

だが

 

彼は違うのだろう

 

「・・・・無いに等しいとは言え」

やはり、アルコールは口に合わない。

自然向かう足のその先の理由を、いいわけのように呟いた。

 

 

見慣れた家

見知った家

通いなれた友人の家だ。

 

やはりというか。

玄関は予想通りの惨状だった。

おそらくはほぼ一週間分の新聞──朝刊と夕刊、束のような手紙や葉書で──

何れも彼の書く私の物語の読者であったり、報道関係からであったり──あふれかえっていた。

この惨状の元凶であるがゆえに、正視できずに目を逸らす。

 

これを踏み越えて中に入るのは諦めた。

 

記者たちが押しかけてこないのがせめてもの救いか。

しかし封書の中に裁判所のものを見つけて思わず眉間に皺が寄る。

拾い上げ、くるりと指を操り器用に片手で封を切る。

 

予想はしていたが、予想通りの内容に不穏な悪口雑言が洩れそうになった。

 

くしゃりとそれを握りつぶして放り投げる。

中身の無いものが落ちる音は何とも形容できず、愚劣としか言いようがなかった。

ふと玄関ホールから奥へとまっすぐに伸びる廊下を見つめる。

霧の立ちこめた森のように静まり返ったその空気だけが確かで、逆に不安になった。

サラサラと流れるように漂う空気。

それを乱す

 

気配は、無い。

 

玄関の扉を閉めて庭へ回った。

庭にすら出ていないのか

手入れの行き届いた庭は、いつもに比べて荒れていた。

主との交流が無いせいか、どの花も──と言っても一種類でしかないが──生気が無かった。

壁面をつたう蔦を軽業師のように上り、一瞬で彼の書斎の窓へ。

 

彼の姿は、無い。

 

玄関ホールで感じた不安が再び襲う。

必要最低限の物しか置かない彼の部屋は生活感が無い。

彼の部屋に置いて唯一生身の温かさを感じるとしたら、それは机の上の進まない原稿だろう。

スロウ・ペースな彼は一日に三枚も書ければ好い方で、物の無い机の上にはそれだけが上がっていることが多い。

 

なのに

 

今日はそれさえも、無い。

 

 

いつだってそうだそうなんだ

いつもはまるで示し合わせたように彼のお茶にかち合うのに。

こんなときだけはいつだってかち合わない

 

煽られた不安をさらに煽られて払拭できない。

 

こんなときはいつだってそうだから

今度もそうなのだと言い聞かせても、じわじわと詰め寄ってくる影に泣き叫びたくなる。

 

大丈夫 大丈夫 大丈夫

 

彼はいる。彼は来る。

縋るように触れたギヤマンの冷たさに慄いた自分に羞恥の情が燃え上がる。

 

嗚呼、本当ならば泣きたいのは彼であるはずなのに。

 

どうしてこの家からは何の慨嘆も聞こえないのだ。

 

堪りかねて窓を開けた。

そうっと開けたつもりがついつい勢いよく開け放ってしまって彼の部屋の空気が一気に動き出す。

それと同時に静かに回ったドアノブ、ゆっくりと開いていく扉の向こうに。

 

 

ねぇ、モーリス。

 

 

 

───お茶はまだ間に合うかな

 

 

 

 

END

* * *

あい、ルパンサイドです^^
一応、モーリスにも迷惑かかるし、申し訳ないと思ってるんだよって感じかな。
でもこの話でもモーリスの動揺っぷりが引き出されてるような(笑)
そして今度はルパンがそれ見て動揺しちゃうんだよ。
相乗効果ってヤツですか(違)

* * *

 

 

↓オマケにオマケの続きを(笑)↓

 

 

 

「泣かないでよモーリス・・・・・・」(ハンカチを取り出しつつ)

「・・・・・泣いてないだろう、ほら」(顔を見せつつ)

いやいやいや。目元にいまにも落ちそうなくらい涙溜まってるから

「まだ落ちてない・・・・・」

いやだから落ちそうだって

ポロ、ツツーーーー。

「「あ、」」

「ほら、落ちたじゃないか」(ハンカチを当ててやりつつ)

「・・・・いま泣いた」(ルパンの手の上に己の手を乗せつつ)

 

意外と意地っ張りなルブランもどうよ?(笑)
漫才みたいになったな^^ほのぼのなやり取りしてて欲しいな、この二人。
あ、別にカプ思考限定でないですよ。
譲れない友人としてでも、充分楽しい♪

ブラウザバックプリーズ!