「まさかこんなところで明智先生とご一緒することになるとは思いませんでしたよ」

「それはこっちの科白だ」

 

 心底忌々しげに吐き捨てながらも、その瞳にはどこか驚嘆の色を灯してる。

 私は私で、彼にこんな醜態を曝す破目になったことに内心舌打ちをしていた。

 

 

 

『太陽も、まして月明かりも届かぬここならば。』

 

 

 

 まあなんと言うか、失敗した。

 相手を舐めていたわけではないが、怪盗を自負する自分としては随分らしくないミスをした。

 部下たちではなく自分一人で動いていた分、たいした痛手となることでもないが敵の手中に堕ちた、というのは状況的にあまりよろしくないだろう。

 優秀な部下たちが来るのを待つか、自力で脱出するか。

 いつもならば考える間もなく自力脱出といくところだが今回はそうも行かなかった。

 シャツの腹部が、じっとりと冷たく濡れている。

 暗闇の中でそれを認知して、小さく舌打ちをする。動けないわけではないが、あまり動きたくない怪我でもある。

 ううんと悩んだあげく、冷たい床にゴロンと横になるとひとまず待つことにした。痺れを切らしたら、自力脱出を考えようと。

 しかし怪我人が放り込まれるにしてはここは随分な部屋だな、と二十面相は溜息を吐く。

 暗くてよく見えないが全体的に湿っぽく、カビ臭い。時折水の滴る音も聞こえてくる。おそらく、地下なのだろう。

 放り込まれた出入り口はどの辺だったか・・・脱出の時に備えて見えない天井を見上げたときだった。

 突然天井に四角く切り取ったように光の穴が現れた。そうかと思うと次の瞬間に人一人分の影が放り込まれ、ドサッと落ちる音がした。

 一瞬差し込んだ人工的な光はあっという間に遮断され、再び闇が訪れた。

「・・・ったく、痛いな・・・・」

 やれやれ、と呟く声に続いて衣擦れの音。おそらく打ち付けた体の部位を摩っているのだろう。

 聞き間違いか?この声音は聞き覚えがあった。ドクン、と心臓が跳ね上がる。

「さて。どうしたものかな」

 今度はさっきよりもはっきりと音が耳に届いた。

 そしてそれはさっきよりもはっきりと覚えのある音となって耳に響く。

 この声の持ち主を、私は一人しか知らない。

「・・・・明智先生?」

「?!」

 バッと相手が振り返る気配がした。次いでコツコツとこちらに近づいてくる靴音と気配。

「・・・・二十面相・・・・?!」

 ああ。なんだか出会ってはいけないところで出会ってはいけない人と出会ってしまった気がする。

「こんばんは明智先生。どうせならばもっと趣味のいいところでお会いしたかったですね」

 もうこうなったらなるようになれと、すっ呆けた挨拶を交わした。

 

 

「なんだってお前がこんなところにいるんだ・・・」

「なんというか、まあ。いろいろありまして」

「失敗したのか」

「先生こそ」

 暗闇で姿こそ見えないものの、お互いにフン、と顔を背けあったことはなんとなく分かった。

 その同調が癪に障る反面くすぐったくもある。

「先生も、ここの組織に御用ですか」

「用というほどのものでもないが・・・まあ、突き詰めていったら辿り着いた、程度のものだな」

「なるほど」

「そういうお前はどうなんだ」

「まあ、私も似たようなものですよ」

 ふうん、と暗闇から興味の無さそうな声が漏れる。

 穏やかとまではいかないが、せっかく互いに敵対という緊張に縛られること無く対面できる数少ない機会だというのに。

 もう少し、打ち解けてくれてもいいのにと思うのは、やはりこちらの勝手だろうか。

 感付かれないよう小さく息を漏らすと、不意に闇から一つのくしゃみが聞こえた。

「・・・・寒いんですか?」

「・・・・別に」

 いや別に寒いなら寒いって言っても。そんなことまでネタにして揶揄しようなんて思ってもないし。

 おそらく明智は私服の一枚か二枚程度しか着ていないのだろう。

 普通ならばまだその程度で事足りる気温だが、如何せんここは地下だ。

 上着が無ければ、寒いと感じるだろう。

 そうこうしているうちに、またクシュンッとくしゃみが聞こえてきた。

 仕方が無い。

「よろしかったらどうぞ」

「うわ?!」

 バサリ、と音を立てて羽織っていたマントを闇に放り投げる。

 どうやらそれはきちんと彼の人の下に届いたらしい。我ながら己の勘を賞賛する。

 だがしかしどうしたことか、相手は要らないと言って突き返してきた。

「?何故です?寒いのでしょう?」

「お前だって寒いだろう」

「おや、私の身を案じてくださるのですか?ですが私はスーツも着てますから、貴方ほど寒いとは感じてませんよ?」

 少しからかうように笑い、ですからどうぞ、と言うと、相手は何故か逡巡したように口ごもった。

「?どうしました?」

 尋ねると、しばしの戸惑いの後、ようやく彼は口を開いた。

「怪我をしているだろう」

「・・・・・・どうして」

 瞠目し、呆けたように呟けば明らかに血生臭いんだよ、と苛々した口調で言われ、ああなるほどと納得する。

「だからこれはお前が羽織っておけ。怪我人に貸しを作るほど柔じゃない」

 ましてやお前に貸しを作るなんてごめんだと、心底憎憎しげに叩かれた言葉に、何故か笑わずにはいられなかった。

「・・・・何が可笑しい?」

 途端地を這うような声音で言われ、おおコワ、と首を竦める。

「これは失礼。・・・なるほど、先生は私に貸しを作るのは御嫌とおっしゃる。

 しかしながら私も貴方をこのままにして風邪でも引かせでもしたら後味が悪い。なので先生、ここはひとつ貸し借り無しの案でいきましょう」

「貸し借り無しの案?」

「ええ。ちょっと失礼」

「?!」

 突き返し合っていたマントは彼に羽織らせ、私はというと彼の前で横になり、その膝を借りた。

「おい・・・・」

 動揺の欠片も見せない声とは裏腹に、彼の身体は奇妙に強張っていた。

「はい?」

「これが貸し借り無しの案か?」

「はい」

 もの凄く納得の行っていない声に即答してみせると、「どこがだ・・・」という呟きが聞こえた。

「風邪を引く可能性のある方に暖を、怪我人に寝床を。利害の一致は見てると思うのですが」

「・・・・男に膝枕されて嬉しいか?」

「はい。とっても?」

「・・・・・・・・」

 もう、いい・・・・諦めのような溜息が聞こえたことに、私は密かにほくそ笑んだ。

 けれどその次には割としっかりとした声音で、

「小一時間経ったら動くからな」

 そう告げてきたから。

「奇遇ですね。私もその予定でおります」

 妙に嬉しくなって、浮かれたようにそう答えると目を閉じた。

 

 少なくともあと小一時間。

 彼とこうしていられるのだ。

 

 いつもは共にいることすら許されぬ貴方と一緒にいたって許されるだろう。

 そう。太陽も、月明かりも届かぬここでなら。

 

 

 

END

書いたモン勝ちってことで・・・!
思い浮かんじゃったので書いちゃいました。文章が出てくるときは書いたほうがいいんだよ・・・!(言い訳)
というわけで20×明智・・・いや明智×20か?正直今回の話なら別にどっちでも良さげ。
原作をほとんど読んでないので20も明智もキャラが全く分からないんですが何か。
あーもうまあいいや。書いちゃったし!(殴打)

ブラウザバックプリーズ!

07.11.17.TOWEL・M