つまらないことでレストレイドと口論になって部屋を追い出された。
もともとレストレイドが暮らしていたところに自分が転がり込んできた形なので、こういうとき行使権はレストレイドにある。
ひとまずほとぼりが冷めるまでどこぞのパブで暇でも潰そうかと考えながら歩いていると。
路地裏の方から複数の穏やかならぬ声が聞こえてきた。
Who is it that he met?≪彼が出会ったのは?≫
人は一度(ひとたび)オレを見ると、憎悪を剥き出しにする。
今宵もジキルから支配権を奪い取ってハイドの姿で当て所も無く夜の街を彷徨い歩いていたらガタイの良いゴロツキどもに絡まれた。
オレはチビだからデカイ図体に立ちふさがれてはどうしようもない。
と、そこで突然胸倉を掴まれて持ち上げられ、殴りかかられた。
男はオレを確かに捉えたことで、ますます苛々を募らせているように見えた。
嫌悪を通り越し怒りに達し、果ては理由の無い憎悪に囚われる。
ハイドに変ずるようになってから気づいたことなのだが、人は確かに完全悪であるオレの素行にある種の興味と好奇を寄せるがそれと同時に途方も無くオレを憎むのだ。
理由も無く憎むのだ。
オレが何もしていなくても関係ない。
オレが悪だから。
幾度と無く分厚く硬い拳が飛んでくる。
そろそろどうにかしないとマズイな、と思い思案し始めたその時。
「デッカイずうたいしてなっさけなー」
何とも気だるげな声がゴロツキの向こうから聞こえてきた。
「だいじょぶかー?少年ー」
「・・・・・・」
ぐい、と顔を拭いオレは無言で頷いた。
少年。オレは久しくオレの外観はジキルよりも若いのだと思い出す。
にしても、この男は何だろう。
「・・・あンた、何」
「ん、ああ俺ヤードの刑事だから」
血出てるけど平気?と尋ねられ、オレは我知らず顔を顰めてしまった。
まさか刑事に助けられるなんて。
捕まる可能性は低いが(何せ人はこのハイドの顔を憶えていられないのだから!)状況的にはよろしくない。
「使いか何か知らないが少年がこんな時間にこんなトコうろつくなよー。さっきみたいに、タダじゃすまなくなっちまうぞ」
言って金髪ノッポはぐしゃぐしゃとオレの髪を掻きまわした。
それに前のめりになりながらもふと疑問が湧く。
「・・・・なあ、あンた」
要らぬことだ、と思いながらもつい口は言葉を紡いでいた。
「オレを見て何とも無いのか」
刑事は『ん?』と怪訝そうな顔をした。
それを見てオレはすぐに何でもないと話を濁した。
「・・・ま、ともかくその顔はどっかで手当てした方がいいよな」
ほらおいでと言う様に踵を返した男、でもオレにその気は無かった。
だってオレはエドワード・ハイド。
もう、隠れなくては。
「あンた、近いな」
暗がりに消える瞬間、この酔狂な刑事の背にそう呟いて。
「あンた、近いな」
そう声がして「え?」と振り返ると少年の姿はもう何処にも無かった。
「・・・どこ行った?」
入り組んでいるとはいえ一本道の路地裏。
身を隠すところなど、何処にも無いはずなのに。
「っかしーな」
頭を掻きつつ、まあ深追いするほどのことでもないかとそのまま通りに向かって歩き出した。
調度よく気晴らしになる運動もできたことだし、そろそろほとぼりも冷めたころだろう。
ほどほどに帰らないとレストレイドが心配するのは周知のことだ。
『・・・あンた、近いな』
街頭の灯りも届かぬ路地裏で、闇がざわめいた。
END
内容的にはサイド的で、ホントは久々にブログに小話ー!と思ってたんですが字数制限に引っかかったので更新物に。(笑)
近い、っていうのはグレがどっちかつーと闇寄りというかなんというか。そんな感じで。
だからハイドくんを見ても一般人ほどそんな嫌悪を感じない、ということで。
ハイドくんはコンプレックスの塊なので口数少ないです。衝動で動いてるときは激しいですが。
ブラウザバックプリーズ!
07.09.29.TOWEL・M