きっかけはジャックの一言。
「おまえ、その剣は誰に習ったんだ?」
なんてことない一言のはずだった。
『青の記憶』
いつものある夜。
酒場で一悶着あって居合わせたジャックと二人、心おきなく刃を揮った。
ジャックは常にその義手に刃物を仕込んでいるが大概ボクはいつも手ブラだ。
その日もそうで、そのときはたまたま酒場の壁に飾られていた剣を振るった。
うん。フェンシングも悪くない。
まるでリボンのように切っ先から伸びる紅に満足して、ボクは笑った。
「あーやれやれ」
面倒くさそうな溜息をジャックが吐いた頃。
酒場には所狭しと屍が散乱していた。
今や立っているのはボクとジャックだけ。
倒れ伏した眺めは壮観な気もしたし、またそこら中で凝固し始めた黒く流れる血が酷く汚らしくも見えた。
さっきまで騒がしかった酒場は廃墟の静寂の中にいるようだった。
「なーんか一気につまんなくなっちゃったね」
もうおわりー?
ぐるっと辺りを見回してそんなことを漏らしても終わりは終わり。立ちあがる影はひとつも無い。
「おまえは元気だよな・・・おれはもう面倒くさくて殺りたくないぞ。億劫だ」
ここはもうこのままでいいなめんどくせぇ。
そう言ってさっさと酒場の扉をくぐるジャックの後を、慌てて追う。
扉を抜けたボクの後ろで、酒場の床に投げ棄てた剣がカランと鳴った。
「ジャックー待ってよー」
ダダダーッと走って行って、ぴとっとジャックの背中に引っ付く。
「♪♪♪」
「・・・・・・」
出会った当初は、うっとおしい離れろバカなどと言われたものだが今では慣れたらしく(正確には諦めた)くっついていてももう何も言わずに好きにさせてくれている。
「そーいえばよぉ」
「うん?」
「おまえ、さっき巧かったよな。フェンシング」
「そう?えへへv」
純粋に褒められたことが嬉しくて照れ笑いを浮かべる。そこまではよかった。
「なぁおまえ、その剣は誰に習ったんだ?」
「え?」
足が止まった。
何を訊かれたのか一瞬分からなくなってきょとんとしてしまった。誰に?
・・・誰に習っただろう。学校で?習い事で?全然思い出せない。
「・・・忘れちゃった」
誰だっけ。
そう言うボクにジャックは「おまえなぁ・・・」と息を吐いた。けれどボクは上の空でそれに気づいていなかった。
誰に習ったんだっけ。そもそも、ボクはどうして剣技ができるんだっけ。
ジャックの後をついて再び歩き出したものの、その足取りは思考の淵に向かって歩き始めていた。
誰に剣技を教わったかを考えているうちに父親か何かではないかという考えに行き当たり、はたと思考が止まる。
そういえば、親も知らない。
物心ついた頃にはもうプレラーティと二人だけだったはずだ。少なくとも、自分の明確な記憶はそこから始まっている。
それが当たり前だったので今まで疑問にも思わず来た為、親のことを知っているであろうプレラーティにも尋ねたことが無かった。
「ねージャック」
「あん?」
ミドルセックスストリートにあるジャックの塒に辿り着くと、真っ先にベッドにダイブした。スプリングが軋む音と後ろからジャックの叱責が重なった。
「ジャックのおとーさんとおかーさんってどんな人?」
ベッドの上でコロンと逆さに転がってジャックを見上げる。ジャックは意外なことを訊かれたとでもいうように一瞬目を瞠ったようだった。
「なんだよ?いきなり」
「いーからぁ。ジャックにおとーさんとおかーさんっていた?」
「・・・・おれは脇の下から生まれたんかい」
まあおれはともかくおまえは居なくても生まれてそうだよな、と言うとジャックは頭を掻きながら少し視線を逸らした。
「母親は娼婦だったって前言わなかったけか?んで、父親は貴族。モトを辿れば王家の末裔だとよ」
「どっちも死んじゃった?」
「いや?父親はまだ生きてるぜ?いまは確か倫敦郊外でひっそりと隠居中だ。もっともまだそんな歳でもないけどな」
「顔は?見たことある?」
「んーーー・・・母親はちっせぇ頃に死んだからおぼろげだけど・・・父親の顔は分かるぜ。直で会った、わけじゃねぇけど」
おらもう満足か。つーか何で今更んなこと訊くんだよ。
「うきゅーッ」
正面から手でぐりぐりとされて苦しくてジタバタと暴れた。
「だ、だってーそういえばボク、おとーさんとおかーさん知らないなーと思ってー」
「ん?そうなのか?」
「うん。んで、ジャックはどうなのかなーって思っただけーーーッ」
だからぐりぐりヤメテーーーッとじたじたしているとパッと手が離れて。
「・・・マジで脇の下からでも生まれたんじゃねーの?あと石とか」
「ぬうーッジャックひどいーーーッ」
はいはい、とあしらうジャックに抗議しながら考えた。
ボクはどうして剣技ができるのだっけ
誰かに教わったのだったっけ
おとーさんとおかーさんは?
ぽてんとベッドに転がって毛布に顔を埋めると睡魔が襲ってきた。
いつもよりいっぱい考えたし、ひと暴れした後だから疲れちゃってるんだな。
結局答えが出ないままで気になりながらも、思考がとろんと溶けてきた。
今度城に帰ったらプレラーティに訊いてみようかな。うん、そうしよう。
そこまで結論付けて、ボクは眠気に身を任せた。
「・・・んだよ、やけに静かになったと思ったら」
寝てやがる。やれやれ。
そんなジャックの言葉を夢うつつに聞きながら、深い眠りの淵に落ちる瞬間。
真昼の日差し零れる庭。
駆け寄った幼い自分を抱く、誰か。
顔は分からなかったが。
引き締まった体躯は、その男(ひと)が確かに自分の父なのだということを知らしめていた。
目が覚めればきっと忘れてしまう、あまりにも幼すぎた日の記憶。
END
ジルドレで真面目な話って珍しいんじゃないんだろうか。(笑)
汁は本当に後ろ盾が真っ白なので思いついたときに肉付けしておかないとホントに脇の下から生まれたことになってしまう(爆)
一個のキャラとしては確立できてるんですけどね。過去とか経緯の話になってくると真っ白なんですよこの人。
なのでジャックと比較するとジャックの方がまだ人間臭いんですよね。汁はなんか狂気そのもの臭い。純粋な悪そのもの。
・・・ってそれだとハイドの立場無いな。(爆)
そしてプレに訊いてみようとか言ってますが寝て起きればもうそう思ったこともそれまで考えこんでたことすら忘れてんですよこの人。
だから真っ白なままなんだ・・・(笑)
そして剣技巧いのはお父上譲りなんではないかと思われ。
汁のお父上はイメージとしては水玉が夢で見たジルなんですがキチンとした方ですよ。荘厳というか、威厳があるというか。
・・・・・・。
それだけカッコ良かったんだよ!!悪いか!!(いきなり逆ギレ?)
ブラウザバックプリーズ!
07.09.16.TOWEL・M