一八八八年.X月Q日

 

 ハルヒ、おれはおまえを愛さずにはいられない。

 ハルヒ、おまえは賢い女だな。

 何故って倫敦中のメス犬、そして我らが女王でさえ知りえなかったサー・ジャックをサー・コールズだと見抜いたんだぜ。

 おれがおまえにジャックと名乗ったとき、おまえは言ったよな、『それは嘘』と。

 おまえだけ、おまえだけだ。

 サー・ジャックがサー・コールズだと知りえる唯一の女。

 女王に訊いたところでどうしようもない。

 そう、我らが女王はみんな知っているのに

 その女王ですら、サー・ジャックのことは何も知らない。

 

一八八八年.X月H日

 

 だいたいあの洒落た名前はいったいぜんたい何なんだろうな。

 ミドルセックスストリートにおれの塒。

 おれの他にも最近倫敦の街を騒がしてる使徒が出入りする。

 ジルとエドワードは仲違いしているために居合わせると騒がしいがなかなかどうして、三人揃うとおれは酷く力が湧いてくる気がする。

 一晩に何人でも、売女どもを切り裂けそうな気分になるんだ。

 

 なんにんものおんなを切り裂いて

 しんぞうとじんぞうを持ち帰る

 じんぞうはパンの上

 しんぞうは樽の中

 じんぞうは喰われて腹の中

 しんぞうは搾り取られてビンの中

 

 それにしても、アイツはどうしておれといっしょにいるのだ

 殺されるとも思わないのか

 おれはこんなに狂ってみせているのに

 

 きっとぜったい、あの女を切り裂いてみせるのだ。

 そうしたら、アイツだって、

 悲鳴のひとつもあげるだろうよ。

 

 ああ、本気になりすぎた。

 

 頭が痛い、頭が。

 

 ハルヒ、ハルヒ、ハルヒ、

 切り裂くべくは。

 

一八八八年.X月Z日

 

 おれはあの女の妙な雰囲気に圧されているのかもしれない。

 そもそもアイツは売女じゃないんだ調子が狂って当たり前。

 おまけにあいつはエリザを刺したときに居合わせた阿呆のように、おれの仕事を邪魔したわけでもない。

 かと言っておれにアイツを生かしておく理由も無いはずだ。

 なんだかんだ言っても、売女だろうと紳士だろうと淑女だろうとおれの手にかかればみんなおなじことだからな。

 しんぞうとじんぞうだけになっちまえばなおさらだ。へッ。

 しんぞうとじんぞうに階級があるか?

 

 だいたいあの目がいけない。

 くりぬいたらだいなしになっちまいそうで、おれは尻込みしちまうんだ。

 

 ハルヒ

 ハルヒハルヒハルヒ

 

 手が冷たいと人がちょっとぼやいただけで、握ってきやがるんだ、ちくしょう。

 

一八八八年.X月X日

 

 手が冷たい。あたりまえだ、気がついた頃からおれの手は冷たい。

 これを書くにも手が震えるちくしょう

 絵を描くにも手が震える。線がまっすぐに引けない。

 アイツが曲がるじゃないかちくしょう

 アイツが曲がるじゃないかちくしょう

 警部殿も探偵もおれの眼中に無い。

 その証拠に、ひとり切り裂いてやった。騒ぐなよ警部殿。ハッハァ!

 探偵にいたってはおれに無興味だ。おれも無興味だ。だからおあいこ、ハ!ハ!ハ!

 ただ、横に居たあの医者だけは。

 

 ハルヒはよく眠ってる。

 眠りすぎじゃないのか?おれにはよくわからない。

 

一八八八年.X月A日

 

 みんなおれを悪魔か何かと思ってるんだろう。

 でも、どちらかというとおれは悪魔がそんなに好きじゃない。

 (そんなこと言ったらサー・青髪は泣かないかい?ああそういえばアイツのジジィは悪魔ジルと呼ばれてたっけ)

 単純に言って、一般的に広く描かれているヤツらの造形が好きじゃないのだ。

 おれは神が好きだ。

 凄惨な神が。

 神はみんな、慈悲深いというよりも凄惨なんだ。

 神の背負う光に、おれたちは一瞬で焼き飛んじまう。

 石段におれの影だけが残っている。

 おれは自分の身体をそこから捜しに行かなくちゃならないんだ。

 捜しに行こうと背を向けたおれにむかって、神は慈悲だのなんだの言ってくる。

 だからおれはおれの刃をかざして、おれを焼き飛ばしたその光を、まるまるソイツに返してやるって寸法さ。

 そしたら神も焼き飛ぶのだろうか

 そしたらいっしょにおれの身体を探してくれるか?

 いや待て待て、その前に、神には光しかないんだから消し飛んだらなんにも無いのか?

 きっとそうだ。なんだ、そんなものか。

 

 そういえば、おれはハルヒの身体を抱いたことがあっただろうか。

 昨日も今日も一昨日も、隣で寝てたっていうのに。

 ハルヒはもう眠ってる

 明日は抱きしめてみよう

 いや、やっぱりいま抱きしめてみよう。

 言葉どおりのことだけなら、眠ってるいまでもできるはずだ。

 起こさないようにするのに加減が難しい

 

 おんなを抱きしめるっていうのは、こんなにも難解なものだったか?

 

一八八八八年X月M日

 

 しあわせな夜。

 

 忘れてしまった。

 いや、おぼえてないだけだ。

 

 サー・ジャックと皆が呼んだあと

 サー・コールズ!

 少女がそう呼ぶから、みんなひざまづいて二人を見上げる。

 サー・ジャック!

 みんながそう呼んだあと

 サー・コールズ!

 少女がそう呼ぶから、サー・ジャックは振り返り

 みんなひざまづいてふたりを見上げる。

 

一八八八年.X月V日

 

 絶望が口をあけたから

 おれはハルヒに届かない

 絶望が口をあけたから

 ぽっかりと

 おれとハルヒの間に

 くちをあけたから。

 

一八八八年.X月J日

 

 昨日の日記に苛々する。

 何やってたんだおれは。いそげいそげいそげ。

 ぽかんとしてる暇があったらこうすべきだったんだちくしょう

 だいじょうぶ。

 

 目は開けてくれないのかい

 愛しいハルヒ

 せめてその愛らしいくちもとに

 微笑でも浮かんでくれてると

 ちがうのだけれど。

 

一八八八年.X月A日

 

 おれはおかしくなった

 まえよりもっと

 すてきにおかしくなった

 チャンチャラおかしい

 気がついたら

 売女の顔は無い。何処行った?

 考えるに

 どうにも壁のラクガキを塗りつぶすように

 売女の顔も

 塗りつぶしてしまったようだった

 切り裂きすぎたか?これじゃミンチだよろしくない。

 

 それでも、いまのおれには勢いが必要だった。

 

 すこし気分がよくなった

 アイツのところへ帰る前に花売りを見つけて花を買おう

 

 

 

 

 

 それから、

 

 

 

 

 

 

 

 

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日記はここで終わっている。

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END

実際の『切り裂きジャックの日記』の訳を基に打ってみた。
おすすめですよ、切り裂きジャックの日記は。あの徐々に内容が狂っていってまた元通りになっていく過程が見えるのがたまらない。
ホントに彼が切り裂きジャックだったかなんてもう分からないけれど、狂っていたことは確かに見える。
しかしウチのジャックはハルヒのことを書くとのろけてるように思えるのはウチだけか。

ブラウザバックプリーズ!

06.09.16.TOWEL・M